番外・元公爵令嬢の追憶5
父の罪を公表し裁きを受けさせると決意したもののたやすくはなかった。
使用人に証言させるのは無駄だ。父の顔色を窺う人形達に証言など出来る筈がない。
林の調査をさせるのも難しい。あそこは私有地で外部の者が入りにくい。騎士団に知らせて調査してもらうのも考えたが、先に証拠を見せられなければ公爵領に踏みこむのは無理だ。
私は王子との顔合わせの機会を待った。王子なら父の権力に負ける事なく法の裁きを受けさせられる。
そしてついに機会が来た。
婚約後、挨拶の為王子が我が家に来たのだ。
「初めましてフランツ殿下。フローレンス=アルデリアと申します」
父に不審に思われぬよう冷静に振る舞う。
「こんにちは。フローレンス嬢。このたびは婚約を受けてくれてありがとう」
初めて会うフランツ殿下は真面目で優しそうな方だった。
これならきっと父の罪を暴いてくれる。
「フローレンス。せっかくだから殿下に庭を案内してあげなさい」
「はい、殿下どうぞこちらへ」
私は殿下と共に庭へ向かう。
「綺麗な庭ですね」
「恐れ入ります」
殿下を案内しながら庭を歩く。
「おや?あの林は何だろう?」
「…あれは父の命で残したものです。この辺りは元々森で館を建てる際に伐採したのですが、全て切ってしまっては森の恵みが得られず、鳥や動物たちも困るだろうと」
「そうなのですか…公爵は動物たちにも優しいのですね」
「ええ」
殿下が笑顔で言い、私も相槌を返す。
半分は嘘だ。
森だったのも館を建てる際に伐採したのも本当だが、一部を残したのは死体を隠すためだ。
館の裏ならすぐ捨てられて目撃される事もない。
外面だけ良い父と猿芝居を続ける自分に反吐が出る。
そろそろ話を切り出してもいいだろう。
館から充分離れたし父の目もない。
「あの…殿下、父の事なのですが…」
「あぁ。貴方のお父上は本当に素晴らしい方ですね!」
「えっ?」
「孤児達を手厚く保護し、きちんと生活出来るよう仕事や引き取り先まで斡旋し、身の回りに貧しい者達を置く事で彼らを庇護している。その上小さな生き物たちにまで…本当に見習わなければ」
「………」
満面の笑顔で父を語る王子の顔を見て「あぁこれは駄目だ」と思った
思った以上に父の評判は高かった。
今私が何を言っても王子は父を信じる。
下手をすれば私の言った事をそのまま父に伝えかねない。
時間がかかるが仕方ない。父以上に王子の信頼を得てから話すしかない。
それからも王子とたびたび接触し、王子に気に入られるよう振る舞いながら同時にアーサー宛に謝罪の手紙を書き続けた。返事は来ないだろうが書かずにいられなかった。こっそりお見舞いにも行ったが、会わせる顔が無く、彼の主治医に手紙と治療費を託し「彼を頼む」と頭を下げるだけだった。
父の裏仕事を知ったり、異母妹だという子が来たりしたのもこの頃だった。正直興味なかった。父を奪ったと怒る程父に対して愛情はなく、かと言って妹だからと仲良くする程の気持ちもなかった。たまに正気に戻った母が「泥棒猫!」と罵っているのを見かけたが素通りしていた。