番外・元公爵令嬢の追憶4
恋人になってから私とアーサーは少し変わった。
以前は街に出かける時は彼は従者として私の後ろについていたが、今は隣で一緒に手を繋いで歩いている。2人きりの時は敬語が無くなり名前で呼んでくれるようになった。時々(額や頬にだが)キスもしてくれるようになった。それだけと言われればそれまでだが「お互い先に進みたくなったら進めばいい」とアーサーは言ったし私もそう思う。手を繋いだり名前で呼ばれるだけでドキドキしすぎてどうにかなりそうなのに、今これ以上進んだら本当に心臓が破裂しそうだ。せめて今の状態に慣れてからでないと。
この頃私は幸せすぎて他の事が全く目に入らなかった。先の事に全く不安を感じずこのままでいられると思っていた。父の事も裏でしている事を知らなかったので「暴力癖こそあるけど身分で人を判断しない人だ」と信じていた。唯一父の子であり、跡継ぎでもある私が彼を後押しすればきっと父も認めてくれるだろうと…すぐに浅はかさを後悔することになったけど。
その日いつものように自室で彼と2人きりのお茶会をしていた。
いつものようにたわいない話をアーサーとしていた時…
「フローレンス!フローレンスはいるか!?」
突然父の大声が聞こえた。こんなに早く帰ってくるなんて珍しい
部屋を出てアーサーと2人玄関ホールで出迎える。
「お帰りなさいませお父様。大声を上げて…どうなさったのですか?」
「でかしたぞフローレンス!王がお前の評判を聞いて第二王子の婚約者にと言ってきた!!今日からお前は王子の婚約者だ!」
「「!!」」
突然の内容にアーサーと2人で驚く
「我が家に王族を迎える事になるとは…ククク運が向いてきた」
上機嫌でほくそ笑む父の前で私は頭が真っ白になった
婚約?王子と?私が?
会ったこともないのに??
そしてそのまま言ってはならない事を言ってしまった
「嫌です!私はアーサーが好きなんです。アーサー以外と婚約なんてしたくありません!!」
その後の事は今でも思い出すと辛い
アーサーはボロボロになるまで父に殴られ林に捨てられた。
私に出来たのは身を盾にして彼を庇う事、翌日父の目を盗んで買収した使用人と共に彼を町まで運び医者に診せる事だけだった。
診察の結果命は助かったものの右腕に後遺症が残り、2度と剣を持てず彼は騎士の道を閉ざされてしまった。
私のせいだ
私が不用意な一言を言ったせいで彼の夢を奪ってしまった
あんなに頑張っていたのに
あんなに目を輝かせていたのに
私と父とで彼の未来を潰してしまった
もう私は彼を想う資格がない
彼に合わせる顔が無い
何日も部屋に閉じこもってひたすら泣いて責め続けた。
ひとしきり泣いた後せめて償いをしたいと思った。
父の所業を表に出して法の裁きを受けさせようと決意した。