番外・元公爵令嬢の追憶1
幼い頃から私の世界は灰色の曇り空のようだった。色はなく光もない。
父は勉強の事しか私に興味がなく、使用人は父の顔色を窺うだけ。
たまに会う母は半分気がふれていて、正気を失ってる時は私を使用人の子と間違えるし正気の時も「完璧な跡継ぎになりなさい」としか言わない。
父は「産後の肥立ちが悪かった」と言ったが産後の肥立ちで気がふれるなど聞いた事もない。どうせ父の暴力か暴言で心が壊れたのだろう。けれどどうでもよかった。
何に対しても興味を持てなかった私は笑う事が出来ず、社交界で浮いた存在となっていた
そんなある日父が1人の少年を連れてきた。
「こいつをお前の従者にするから参考にしろ」と言われ戸惑った。
確かにその少年はこちらを見てニコニコと笑っている。
何がそんなにおかしいのか
『変な人』
これが彼―――アーサーの出会いと第一印象だった
それから数日観察してみたが彼はいつもニコニコしていた。
従者の仕事は初めてらしく、良く失敗しては指導している使用人に怒られている(その時はさすがに困った顔をしていたが)
「ねぇ、どうしてあなたはいつも笑っているの?」
自室で2人きりになった時思い切って聞いてみる。
突然質問されて驚いたのか一瞬間が空いた後返事があった。
「楽しいからですよ?」
「何がそんなに楽しいの?」
「生きてるというだけで色んなものがあって楽しいです」
「???」
意味が解らない。
「生きてると色々なものが見れるし、色々な可能性があるんです」
「可能性?」
「はい。例えば…外の世界では光るキノコがあるのを知ってますか?」
「それなら知っているわ。ヒカリダケでしょう?図鑑で見たもの」
「じゃあそのキノコは胞子も光っていて、胞子が飛ぶとき凄く綺麗なのを知ってますか?」
「ええっ!本当に!?」
驚いた。
そんなの図鑑にも載ってなかった
「嘘です。あはは」
「まぁ!騙したのね!?」
見てみたいと思ったのに
「あははは。すみません。でも元々ヒカリダケも「光るキノコなんてあるわけない」と思われてたのが見つかったんですから、もしかしたらいつか本当に胞子が光るキノコが見つかるかもしれない」
「…………」
「生きていればそれだけ可能性があるという事です。だから楽しいんですよ」
不思議だった。
生きるなんてただ同じ事を毎日繰り返すだけのものだと思ってたのに……
「そんな風に考えたことなかったわ…」
「じゃあこれから考えましょう。僕も一緒に手伝いますよ」
そう言って彼は笑った。
それから彼は外の世界の色々な事を話してくれた。子供に話すようなおとぎ話から他の国の事まで。私にとってはどれも聞いた事がなくとても楽しいものばかりだった。
彼自身の事も話してくれた。幼いころに親を亡くしずっと1人だった事、将来は騎士になりたいと思ってる事、そのために毎日鍛錬を続けてる事なども。
「平民は基本街で働く職業ばかりで、王宮務めは貴族や貴族の推薦を持つ人ばかりだけど、唯一騎士団だけは実力第一で身分に関係なく採用されるんだ」
だから今から頑張っているのだと彼は言った。
将来の事を語る彼はとても目が輝いていてそれを見るのが好きだった。
そうしていつの間にか私の世界は色を持ち、笑えるようになり、彼を特別だと思うようになっていった




