和解
「じゃあ、手始めにここからね。」
隣吏小の生徒に見つからないよう、場所をかえ、レンの自宅がある病院にやってきたメグとレンは、早速作戦会議に入った。
初めは淡々とした口調や無言が多かったレンだが、メグとのやり取りで徐々に言葉が増え始めた。こんなふうに言葉を返すのも久しいらしく、やや緊張気味にも聞こえてくる。
話し合いや交友関係を重ねて1週間がたったある日、病院を訪れると、中学帰りのソウタとばったり出くわした。メグの顔をみるや、すぐに駆け寄ってきてくれた。
「メグちゃん!」
「こんにちは、ソウタさん。」
仲良く話をしていると、後ろからレンが寄ってきて声をかけてくれた。
「は???お前らそんな関係になったの……?」
「…どんな関係だよ。」
驚いた様子のソウタにレンが冷静に対応する。思わず目を見開いてソウタは食い気味に投げかけた。
「え?メグちゃんマジ???いつから???」
「先週からですね。」
レンと友達になってほしい。現状打破のために言った未知レベルの願い事を簡単に叶えてしまったメグと、あっさり和解したレンに暫く固まったままのソウタだったが、すぐに正気を取り戻し、レンの肩を掴みぶんぶんと振った。
「おい聞いてねえぞレン!!なんで言ってくれなかったんだよ?!?!」
「知らな〜い、オレ兄ちゃんに興味ないから。」
「俺の頼みなんだよ??なに2人で既になかよしこよししてるの??俺もいれてよ〜!」
「なかよしこよしのレベルまできてねーから、ウザい、離せバカ兄〜っ!!!」
嬉しさのあまりレンをぎゅーっと抱きしめて離さないソウタにレンが思わず声を上げる。
同じ家族である以上当たり前のようだが、こんな兄弟の姿をみるのもメグにとっては初めての光景だった。
一悶着し終えたソウタはヘロヘロになったレンを解放してメグにお礼をいった。
「メグちゃん、本当にありがとう。こんな奴だけど、可愛いところたくさんあるんで。是非、今後ともよろしくね!あ!もちろん俺とも!」
「ったくどの口がいう……。」
呆れ気味のレンをみてソウタがハハハと笑った。笑い事じゃないから、そんなふうに続けながらも、レンも少し嬉しそう。
レンと少し距離が縮まったメグであった。
「ほんとうに、本当にありがとうメグちゃん。」
「いやいやそんな、お気になさらず。」
レンがトイレにいったのを見計らって、ソウタは再度メグにお礼を言った。そのあと少し何か考え事をしたソウタは、うん、とうなづいた。
「あいつ、いろんな人に裏切られて人間不信になってて。どうしてやったらいいのかわかんなくて。俺が入ったところでその場限りになることも多いからさ。
クラスメイトの事嫌いになったけど、悪くは言えないみたいで、されても仕返さないから。自分への鬱憤だけ溜め込んでた。上手に消化もできなくて、最終的に感情が爆発して、今の状態ね。」
ソウタはそんなレンの様子を日々見続け、相当悩んだ様子だった。
「メグちゃんがたまに話にだすユウリくん。レンと幼馴染でさ。でももう確実に"あっち側"なんだよね、助け舟だしてくれると1番手っ取り早い気がしたんだけど、どうにもできなくてさ。」
「ユウリくん…?そうだったんですか……?」
「うん、そう、小さい頃はよく遊んでた仲だよ。すごく仲良かったから、レンにとってはそれが1番響いてるんじゃないかなって。」
先週みたユウリの姿。レンの体に触れて「汚い、呪いがうつる」といい放ったことや「悪い噂をまわした」 事実。
実際、ユウリの声にレンが反応したのも、この関係が過去にあったからなのだろう。
「"あっち"にまわったのもきっと主犯が強いからなんだろうな、小学生ってそういう生き物だから。」
悲しげな顔をするソウタ。このタイミングで、レンが帰ってきた。レンを見るや否や、元の明るい表情に戻った。
「でも今は、そんな心配しなくて良さそうだな、メグちゃんいるし。」
ユウリと強制的に縁を切られたレン、メグ自身に置き換えれば、コウジやリリカである。いまの状態からは考えられないが、レンの場合そんなことが身近で起こってしまった。親しい友人に裏切られる感覚をレンはこの先一生背負うことになる。
この問題も解決しないと。
そっと心の中で留めたメグであった。