ロジャードお兄様!ですわ
目眩がし、ソファーに座り込みながら眉間を抑える私に対してロジャードは、愉快愉快というように笑っていた。
やはりこの男が私の兄となるか・・・。
ロジャードは「ああ言えばこう言う」という風な口が立つ男。イライラが増すばかりな人物である。
小説内とは違いアクア様と婚約する事になったから、若しかしてという小さな望みはあった。
この男と義兄妹にならない可能性を信じていたが・・まぁそう上手くはいかない。
「それでこのような早い時間から参られたのですね?」
「おう!父さんと一緒の来たんだ。これから宜しくなシフォン!」
太陽のような笑みを浮かべ、私に手を差し出してくるロジャード。
この無邪気な裏表のない天真爛漫な笑顔を見ると、何も言えなくなってしまう。
普段は俺様で自由奔放な人物だが、明るくこの社交性の高さはあーだこーだ言いながらも許されてしまう。
いや、許してしまうのだ。
私もその一人のようで、ロジャードには悪戯や悪ふざけで色々やってきて呆れる所もあるが、優しい一面も持って居る事を私は知っている。
私は立ち上がり、ロジャードの差し出された手を握り握手を交わした。
「はぁ・・・宜しくお願いします、ロジャード兄上」
「兄上?!な、なんか堅苦しいぞシフォン!」
「じゃあ・・・ロジャード?」
「それだと尊敬されてないみたいじゃねぇか!もっと崇めろ!尊敬しろぉぉ!」
「あーもう!じゃあ何と呼べばいいのです?」
面倒くさいなぁ・・・面倒くさすぎる、この男。
そうだ、何で忘れていたのだろう。この男は良い所もあるが悪い所もある。
裏表もなく頼り甲斐のある、真面目な男である反面、我儘で自分と悪戯が大好きな11歳の少年なのだ。
というか良い所しかない男なんて、そうそういない。
小説の読み過ぎだろうか?
そう悶々と悩んでいる間も、ロジャードも悩んでいたらしい。
しかし、私より解決策が先に浮かんだようだ。
というか、私がが悩んでいた事と、ロジャードの悩んでいた事の度合いはまったく比例しない。
この男と比例する悩みは、私にとって大した悩みじゃない。
「よし!シフォン!良いか?これから、俺の事は兄さんと呼べ!」
「に、兄さん・・?良いんですか、そんな馴れ馴れしい呼び方で・・・」
「はぁ?なんで兄妹なのに、堅苦しさが必要なんだよ」
「・・・・」
思わず目を見開いて黙ってしまった。
ドロドロとした嘘と金と欲望が渦巻くこの貴族世界では、家族ですら抹消対象と考えている者も少なくない。
逆に考えていない方が少ない。
特に男兄弟の方はドロドロしやすい。
男女の兄妹の場合、女は嫁に。男は当主に。
という風に役目が決まっている為、仲が良い兄妹も多い。
しかし男兄弟は、どちらかが次期当主になる可能性があるため、兄は弟に当主の座を奪われない様に、弟は兄の当主の座を奪うため、殺し合う、もしくは貶めあう事しか考えていない。
しかし、このラピスラズリ家は、結構簡単に誰が当主になるか決まったらしい。
私の父親アーサー・リュカ・ラピスラズリと、ロジャードのお父様。
つまり私の伯父様リチャード・コニー・ラピスラズリ叔父様は、実の血の繋がった兄弟。
私の父が兄で、ロジャードの父親が弟だった。
どちらも当主に相応しい技量の持ち主だった為、昔から争いが起きると噂されていたという。
しかし、この兄弟。
変な所でめちゃくちゃ楽観的だったのだ。
父様は、真面目で温厚。
叔父様は豪快で、懐の広い人。
どちらが当主になってもラピスラズリ家は安泰だと思われていた。
しかしこの兄弟。争いの『あ』の字もなく当主が決まった。歴史が物語っているが、ラピスラズリ家の当主は我が父アーサーが務める事になった。
何でも、食事中に、行き成り始まって、行き成り決まったと言う。
『家の当主、兄貴でよくね?』
『えー、なんで。お前でも良くない?』
『めんどいわー無理だわー。俺、難しい話とか聞くと赤ん坊みたいに眠くなるし。分家筋で良いわー』
『いやラピスラズリ家に分家ないからね?』
『作れば良くね?』
『それもそうだわ。んじゃあ父さん、俺当主になるわ』
『・・・あ、うん、良いのねそれで。良いのねお前達。父さん知らないよ?後で後々、血生臭い事になっても知らんからね?』
『『えー何で兄弟で争わんといけんの?』』
という感じだったらしい。
まぁ父曰く、デフォルメは入っているらしいが、今の父親からは想像がまったく出来ない。
今の父親は温厚で真面目で知識人で、こんな砕けた口調ではない。
何時もは『だろう』や『だからね?』と言った優しい口調だから『無理だわ~』とか『ないからね?』みたいな口調の父様は一切想像できない。
いや、本題に戻ろう。
「うん。そうだね、兄弟が堅苦しい必要ないよね」
「そうだ!だからシフォン!どんどん俺に甘えろよ!」
「ふふっ・・うんそうする」
「・・・・!」
兄さんの自信満々さの見ていると、思わず笑ってしまう。
小さく笑っていると、兄さんの声が聞こえなくなってしまった。
何かしてしまったのだろうかと不安になり、顔を上げると呆気に取られている兄さんの顔があった。
しかし、数秒が両手で顔を隠し重い溜息を吐いた。
「はぁぁ・・・何だよ、反則だろ。今までこんな顔しなかったのに・・・」
「おーい兄さーん。如何したの兄さん」
「もう!お前は兄さんを如何したいの!心配で嫁に出せねぇよ!あっでも此奴婚約者出来たんだったー!」
「??」
何で一人でブツブツ呟いているんだろうか。
いや最初はブツブツだったが、急に大きい独り言を喋り出した。でも、昔から一つの事に集中すると周りの事とかに目とか耳が行かなくなる所があった。
きっと今もそれが作動しているのだろう。
ソファーに改めて座り直した。
しばらく百面相しているロジャードを見つめながら、ランファが朝食を持ってくるのを待っていた。
「失礼します。御朝食はお持ちしました」
「有難うランファ。あと、兄さんに紅茶を淹れて差し上げて」
「に、兄さん・・・?」
目を白黒させながらこっち見ているランファに、あぁランファは知らないのよね。
あー私もついさっき教えて貰ったのだから、ランファだって知らないはずなのだ
「ロジャードはついさっき、私の義理の兄になったの。私が嫁に行くとなるとラピスラズリ家の本家を継ぐ人がいなくなってしまうでしょう?だから、分家からロジャードがやってきた。これからロジャードは私の兄よ」
「あぁそうだったのですね!ご挨拶した方が・・・」
「今は良いわ。兄さん、今あの調子だから」
チラッと二人で兄さんの方を見ると、まだまだ百面相は続いていた。
呆れて溜息をつくと、ランファは「御気の毒に」と言いたそうな表情をしながら苦笑していた。
私もそれにつられて苦笑し、ランファには「兄さんの分は、紅茶の準備だけお願い」と言っておいた。
ランファはただ頷くと、素早くランファは紅茶の準備をしてくれた。
「では、失礼します」
「えぇ有難うランファ」
ランファは綺麗な一礼すると、部屋から出て行った。
兄さんの百面相はまだまだ終わりそうになく、準備されたパンを千切り一口食べると、胃にいれた。
百面相をしている兄さんは、まだまだ終わらないようでランファに入れてくれた紅茶を見ながら、兄さんの顔を見つめていた。