何様?俺様!従兄様!ですわ
「んぅ・・・」
久し振りのふかふかのベッドで睡眠を貪っていた私は、カーテンから覗いた朝日の眩しさに目をやられのそのそとベッドから起き上がった。
ピンクと白のレースがついた可愛らしいネグリジェを見つめていると、少し懐かしい想いが蘇る。
幽閉されたあと、私に支給されたのは質素な白いワンピースだけ。
御洒落とか気にする事が出来なかった。
まだ朝日になれない瞳を手の甲で、猫みたいに擦りながら大きく欠伸をしながら背伸びした。
するとコンコンッと軽やかなノックと扉の開く音が聞こえ、私は扉の方へ目を向けた。
「シフォンお嬢様。御目覚めなさいましたか?」
「・・・ランファ?」
「はい。おはようございますシフォンお嬢様」
ニコニコと笑いながら入ってきたのは、ストレートで亜麻色の髪色を持ちメイド服に身を包んだ女性。
名前をランファ・レイ。この大陸ではなく、海を挟んだ隣にある島国から出稼ぎにやってきた女性だ。
とても真面目で勤勉な性格な為、18歳と言う若さで次期メイド長として名前の上がっている人物の為、ラピスラズリ家の一人娘である私の専属メイドとして付き添っている。
「おはようランファ。良い朝ね」
「はい。今日は雨も降らないらしく、清々しい朝でございます。洗濯もよく乾きます」
「えぇそうね・・・そう言えば、ランファ貴方に聞きたい事があるの」
「はい?何でしょうか」
ランファはカーテンを開けながら会話をしている時、私の質問を聞くため態々手を止めベッド際まで来てくれた。
態々来なくても良いのに・・・。
そう心中で思いながらも、私は清々しい青空を見える外を見つめながらランファに告げた。
「・・・誰か来ているの?」
「如何してそうお思いになられたのですか?」
「ほら、ランファ外を見て。馬車が止まっているわ」
「あら本当に・・・まだ8時だというのに。こんな朝早くから来るという事は、旦那様に御用か、それとも地位の高い御方かもしれませんね」
ランファと共に窓を覗きながら見つめると、其処には礼儀正しく泊まっている栗色の馬が止まっていた。
その後ろには人を乗せる乗り物がついていた。久しぶりに見たな、馬車。
呑気な事を思っていると、中から降りてきた人物に私は目を丸くした。
「?!ロ、ロジャード・・?」
「ロジャード様・・?」
「急ぎ仕度をしなければ!ランファ、手伝ってちょうだい!」
「お任せください!・・・というか何故そのようにお急ぎになられて?」
ランファは心底不思議そうにしながら、私のドレスなどを準備し始めてくれた。
そうか。ランファはロジャードに会うのは始めてなのか。
「彼はロジャード・アリス・ラピスラズリ・・・私の従兄ですわ」
「まぁそうだったんですか。だからこんな朝早く来ても許されるんですね・・・しかし、何故慌てる必要が?」
「んー・・・そうね、なんと言いましょう。ロジャードは、とても自由奔放でふざけたり、悪戯したりと少々子供っぽい所があってね。私より3つも年上なのによ?だから、ノックなしで部屋に入ったりして困るのよ。何度言っても聴き入れてはくれないし・・・」
「だから、早く準備をなさるのですね」
水差しから出した水で顔を洗い、目をしっかりと覚ますとランファが出してくれていた緑色のドレスに袖を通す。
子供の頃はまだコルセットなどは、がっちりとは締め付けない。
一時期は締めた方が良いと言われたが、医学的に子供の頃からコルセットをがっちりと締めるのは危ないという話が広まり、子供の頃は緩めに締める事が多くなったらしい。
そして、詳しく説明しよう。
ロジャード・アリス・ラピスラズリ。御年11歳の少年。
父様の弟の息子。
つまり私の従兄に当たる人物で、分家筋の少年で確か今年社交界デビューを果たす4つ上の兄がいたような気がする。
深海色の瞳に、母親譲りの銀色の髪の毛を持つ美少年。
性格はとにかく自由奔放。
我儘というわけではないが、ふざけたり悪戯するのが大好きな少年だ。
取り敢えず自信家で、自分大好き。
ナルシストというわけではないんだろうけど。
自分カッコいいじゃなくて自分凄いって言うタイプだから。
けど、その分努力家で勤勉。
確か小母様が几帳面で真面目な人だったから、その性格も入っているんだろうと思うほど、変な所で真面目だ。
ちなみに叔父様は、結構自由奔放で大らかな人。
何時も豪快に笑っている人というイメージが強い。
「よし、身支度は完璧ね」
「御朝食は如何しましょうか?」
「簡単な物でお願い・・・パンと、紅茶だけで良いわ」
「かしこまりました」
ランファは頭を下げながら、自室を後にした。
私は来ると思われるロジャードを迎え撃つ為、しっかりとしたソファーに座った。
気構えようと思ったが、ロジャード相手に気構える必要が分からずソファーの背凭れに寄りかかった。
確か小説には、ロジャードは私はアンタークに嫁いだ後のラピスラズリ家本家筋の跡取りとしてやってくるが、自由奔放のロジャードをシフォンは嫌い、野蛮だの礼儀知らずだと言い散々貶した。
そんなこんなで小説内での、シフォンとロジャードの相性は最悪中の最悪なのだ。
そう言えば、あまり深く考えたことはなかったけれど、ロジャードとシフォンって義兄妹になるのよね。
だとすればロジャードと呼ぶのは失礼なのかしら。小説内では、気にしたことなかったのだけど。
小説内では、シフォンは一度たりともロジャードの事を『兄』とは呼んでいなかったし。
シフォンは逆に近衛騎士であるラムを兄のように慕っていた。
前世でも私には兄などいなかった。
いや、腹違いの弟がいたが其処まで仲が良くなかったしね。
「はぁ・・・兄、か」
「俺の事か!シフォン!!!」
ドガンッという音が似合うほどの音を立てながら、ドアを開けたのは銀色の髪、紺の瞳を持つ少年。
満面な自信満々な笑みを浮かべながら、ノックなしにやってきたこの男。
この男こそ・・・。
「ロジャード」
「久しぶりだなシフォン!元気そうだなぁ!」
「ちょっ、暑苦しい!」
行き成り抱き付かれた為なんとか引き離そうとするが、ロジャードの力は意外にも強く中々離れない。
ムキになった私は、ドレスはたくし上げ足を出すと、ロジャードの腹に足蹴りを食らわした。
「ぐふぉっ」という声と同時に、私は鮮やかにドレスを直し佇まいを直した。
「お前ッ容赦ねぇなぁ・・!」
「なんの事です?正当防衛ですわロジャード」
「相変わらず冷てぇ女だなぁ・・・嫁の貰い手なくなるぞ」
「ご心配なく、すでに決まりましたわ」
「はぁ?!お前に婚約者?!脅したのか!!」
「失礼な!母様と父様が決めた、正当な婚約者です!ロジャードこそ、そんな風では何時までたっても結婚出来ませんことよ」
「お気遣い痛み入りますよー」
「・・・ふふっ」
「あはははっ」
喧嘩腰な会話を繰り広げていたが、何処か馬鹿らしく感じ笑みが零れた。
ロジャードもこの会話が楽しかったのか、声をあげて笑った。
さすがに令嬢の為大声をあげて笑うような事はしなかったけれど。
「はぁ可笑しい・・・そういえば、どうしてロジャードはここへ?」
「おいおいさっきも言っただろ?俺は、シフォンの兄貴になりにきたんだよ!」
「兄貴・・・?」
首を傾げる私だが、小説内の事を思い出して声を漏らすとロジャードは悪戯っ子の笑みを深くさせた。
なんか嫌な予感がする。
いや、こういう予感程古来より当たりやすいと何処かの本で読んだ。
「今日から、俺はこの家に養子としてやってきた!つまり、お前を俺の義妹!そして俺は、シフォンの義兄だ!こんな凄い俺が兄貴になるんだぞ!崇めろ!シフォン!!」
「・・・・・・・・・はぁ」
前世の記憶思い出して二日目。私に兄が出来ました。