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水の王子と闇の王子!ですわ

夜会に限らず、貴族社会で生きていく中でパーティーの参加は避けて通れない。

パーティーを出来るだけ多く開催する事で、国の豊かさを他国に誇っているのだという。


夜会やパーティーに参加して、一番面倒臭いと思うのは序盤だと前世も今世も私は思っている。

まずは何より挨拶。

地位が上がれば上がるほど挨拶をされる。

前世のとある大陸の国では、地位の低い者から高い者へ挨拶をしたり声を掛けたりするのは禁止されている宮殿でもあると聞いた事がある。

しかしこの国では、地位の低い者から挨拶する事はマナーの一つだ。

国や世界線が変われば、こうもマナーやルールも変わるのかと今更になって思う。


「シフォン様!お会い出来て嬉しゅうございます!」

「シフォン様、もし宜しければ是非我が家へ来てくださいまし。異国から茶葉が届きましたの。是非、ロジャード様と」

「シフォン様は大変ロジャード様と仲が宜しいようで。わたくしもシフォン様と仲良くなりたいですわ」


はい、この可憐な御令嬢の皆様、全員野獣である。

小動物のように愛らしいと有名な伯爵家御令嬢、エリン・カリスト様。

知的な雰囲気で才女と称される公爵家令嬢、ヘレナ・リールシュ様。

エレガントで気立も良い侯爵家令嬢、アンジェリカ・プレヴェール様。

全員多種多様な容姿だが、一様に言えるのは美人だという事だ。

キュートなカリスト令嬢。クールビューティーなリールシュ令嬢。エレガントなプレヴェール令嬢。


何故私がここまでこの三人の御令嬢に詳しいのかというと、実はこの御令嬢たちはロジャードに婚約を申し込んだが、ロジャードに断られた人達なのだ。

そして今も諦めきれずに、妹の私を通してロジャードに近づこうと必死なのだ。

そんなロジャードは次期当主として、他の当主の皆様との挨拶回りや同じような立場の人達とのコネクション作りで大忙しだ。

本来ならこの御令嬢たちも、ロジャードと踊りたいのだろうが、元々この国では女性から男性にダンスに誘うのは、はしたないとされている。

それに、女性は男性の話に入ってはいけないという教育をされている家も少なくない。

だから同じ女である私に擦り寄って、ロジャードが私の元に帰ってくるのを待っているのだろう。


「私も会えて光栄です、カリスト様。お元気そうで何よりですわ」

「まぁ、そうなのですねリールシュ様。リールシュ様は茶葉にも詳しいのですね」

「そんな事ありませんよプレヴェール様。しかし、プレヴェール様も兄上様とは仲が宜しいとか」


そんな当たり障りのない会話のキャッチボールを繰り返しながら、時間を潰す。

もうそろそろこのパーティーの主催者であるマレ女王陛下と、アクア、そしてアクアのお姉様であるルージュが現れる事だろう。

そこからダンスが始まる。

一番最初は婚約者のアクアと踊る。

これは他の既婚者の方々や、私の同じように婚約者のいる人は一番最初のワルツを踊る。

その為一番のワルツは、婚約者がいなかったり未亡人の方は踊る事ができない。

しかし二番目以降は、既婚未婚、婚約関係なく踊る事が出来る。

そうすると顔の良い王子やロジャードには無数の女性が群がる事だろう。

勿論、女性から踊って欲しいなどというのは、軽率な女だと思われる為、誘って下さいと言わんばかりにアピールをするのだ。

そしてまた、男性はそれに気づきダンスに誘う。

それが所謂一連の流れとなっている。


「女王陛下、アクア殿下、ルージュ様がお着きになられました!」


よく通る男性の声が騒ついていた会場に響き渡り、演奏していた指揮者の腕が止まると、一瞬静寂が訪れたが、すぐさま壮大な音楽が鳴り響き、それと同時に閉じられていた重厚な扉が開いた。

そこには綺麗に着飾ったマレ女王陛下やアクア、ルージュが入場してきた。

アクアは私の姿を認識すると、ふわりと嬉しそうに頬を染めた。

可愛いが埋め尽くしてしまう。

しかし、そんな私とアクアの仲が気に食わないのか、アクアの姉であるルージュから睨まれてしまった。


そんな事をボーと考えていると、マレ女王陛下のお言葉を聞き逃してしまった。


「シフォン?どうかした?」


気づけば、目の前にはアクアの姿があり、私に手を差し伸べていた。

どうやら大分頭がぼやけているらしい。

慌ててアクアの手を取り「すみません、少し緊張しているようですわ」と謝罪をするとアクアは少しだけ微笑んで「気にしないで」と言ってくれた。

相変わらずお優しい人だ。

アクアに連れられるようにパーティーの中央へ来ると、盛大な音楽が鳴り響いた。

アクアの足を踏まないように、今だけでも集中しなければ。

そう気合を入れ直し、姿勢を伸ばす。


「シフォン、このまま聞いて」

「え?」


粗相のないように真剣に踊っていると、耳元でアクアが囁いた。

思わず目を開き聞き返してしまったが、どうやらアクアはそれに答える気はないらしい。

いや、答える暇もないのかもしれない。


「このパーティーにルネがいる」

「ルネ・・・聖十二使徒の信仰のルネ様ですね?」

「そう。普通なら聖十二使徒の人間は神の使いとしてパーティーとかには参加しないはずなんだ。けど今回はルネが参加してる」

「何か、問題でも?」

「まだ分からない。けど、おかしいと思わない?神の声以外聞きたくないって言ってる気狂いが、こんな人が大勢いるパーティーに参加するなんて」


そう言われればそうだ。

あの時ルネは「人の声が聞こえないのではなくて、聞かない。神の声以外聖女の自分には聞く必要のないものだ」と断言していた。

ルネの発言に嘘は混じっていなかった。

あの発言だけは、彼女の本音と言っても可笑しくはない。

それだけ彼女が神を思う気持ちは本物なのだろう。

自分と同じ人間の声すら必要ないと思うほど。


「何か企んでるかもしれない」

「でも、もしかしたらただ単純に参加しているだけかも」

「アイツが所属してる正教会に、黒魔術に傾倒している奴が頻繁に出入りしているらしい」


黒魔術。

それは私もよく知っている。

ブラックローズ帝国で横行していた、悪魔と契約して欲を満たす力。

でもメフィストは悪魔じゃなくて、邪神と契約したと言っていた。

思い出せ、確かメフィストは宗教団体の仕業だって言ってた気がする。

怪しい宗教団体と、正教会。

正教会は、国が認めた由緒ある教会だったはず。

その二つが繋がっているのならば、国の評判は地に落ちると言っても良い。

国が認めた正教会が黒魔術に手を出した、国民に害をなす宗教団体と手を組んでいたと分かれば、つまり国は国民を裏切ったということになる。

そうなれば、クーデターが起きるのは必須だ。


「もしかしたら奴らは国家転覆を目論んでる可能性がある」

「でも、どうしてそれを私に」

「メフィストから聞いた。ブラックローズ帝国でその一味と思われる奴らと出会ってるんだってね。シフォンも巻き込まれる可能性がある」


そう言った時、音楽が止まり拍手が鳴り響いた。

急いで離れて頭を下げる。

アクアの方を見れば、顔一面に心配という感情が溢れ出ていた。

その顔が可愛らしくて、思わず笑ってしまった。


「ちょっと」

「ごめんなさい、ふふっ・・・アクア様の顔が可愛いから」

「かわッ?!・・・そ、それを言うなら君の方が」 


「君の方が何だって?」


甘い雰囲気を突き破るように現れた声に、私達は現実に戻った。

こんなに空気の読めないやり方をする人は一人しかいない。

いや、空気が読めないのではない。あえて空気を読んでいないんだと私は勝手に思っている。

私は少しため息を漏らしながら、その声の人物に目線を向けた。


「ご機嫌ようメフィスト様。素敵なデザインですね」

「あぁ〜!シフォンちゃんなら気づいてくれると思った!ブラックローズ帝国の新作なんだよ」


メフィストの髪の毛のように黒いコートに、銀糸によって施された薔薇の刺繍が美しい。


「銀糸の刺繍っていうのがまた美しいですね」

「でしょう?一番拘った部分なんだよ。金系の薔薇だとちょっと派手だからね」

「存在が派手な塊みたいな奴だからな、お前」

「褒め言葉として受け取っとくよアクアくん」


アクアとメフィストと嫌味の言い合いを右から左に聞き流しながら、確かに金系じゃなくて、銀糸を使った方が下品に見えなくて綺麗だ。

そんな事を考えながら不躾にもメフィストのコートを見ていると、メフィストに手を掴まれた。


「あ!そうだシフォンちゃん、次は僕と踊ってよ」

「え?あぁ、はい」


顔いっぱいに広がる、瞳孔を突き刺すような美貌に思わず二つ返事で答えてしまった。

そういえばメフィストと踊るのは、私の誕生日パーティー以来な気がする。


「おい、メフィスト!」

「お前は聖女を見張ってろ。今聖女に近寄れるのはアクアぐらいでしょ」

「メフィスト・・・」

「僕らじゃ怪しまれる。交代で僕らがシフォンちゃんを護衛する」

「“僕ら”?」


その発言に引っ掛かり、メフィストに聞き返せばニッコリといつもの胡散臭い笑みを浮かべながら答えてくれた。

何時もは苦手な胡散臭い笑みだが、逆に通常運転すぎて安心する。


「ウィルやアレクサンダーたちも、聖女が参加してるのには気付いてるんだよ。そしてブラックローズ帝国で流行っている黒魔術が関わってる事も」

「じゃあアンターク様たちは」

「今頑張って調べてるみたいだよ。シフォンちゃん、出来る限り一人で行動しないでね」

「はい・・・」

「大丈夫だよシフォン。安心して」


アクアは私を安心させるために、手を握った。

どうしてこの世界の人はこんなにもパーソナルスペースが近いのだろうか。

しかも、前世じゃあ好意で触れてくれる人なんていなかったから、初めての体験でドキドキしてしまう。

最近やっとロジャードのスキンシップにやっと慣れてきた所なのに、次から次へと現れるイケメンたちのスキンシップに私のライフは残り1といっても過言ではない。


「あ、有難うございます」

「あれぇ?シフォンちゃん、照れてるのぉ?」

「ううう、煩いです!!!」

「あはは!うんうん、その調子その調子」


アクアとメフィストは、私の調子が戻った事を喜んでいるのか、口元に笑みを浮かべていた。

そしてメフィストはスッと慣れた仕草で私の前に手を出してきた。


「ほらシフォンちゃん。僕と踊ってくれるんでしょう?」

「・・・足、踏んだりしたらごめんあそばせ」

「君は天使みたいに軽いから平気だよ」

「兄さんみたいな事言わないでください」


そんな憎まれ口を叩きながら、メフィストの手を取ると力強く、それでありながら重力に任せるようにメフィストの胸板に倒れ込む。


「ひぇ」

「何その声〜可愛い〜」


まるで嘲笑うような声に少しイラッとしながら、何とか自分の足に力を入れて体を起こす。

そして音楽に合わせて踊る。

チラッとアクアの方を盗み見れば、シンプルでありながら清潔感のあるドレスを身に纏った聖女ルネと会話をしていた。

しかしアクアの眉間の深さを見ると、どうやらあまり気分のいい会話をしているわけではなさそうだった。

そう言えば、初めて会った時もアクアは聖女のルネに対して嫌悪感をまるで隠していないようだった。

確かに聖女のルネは人の神経を逆撫でするような喋り方をしていた。

上手く言えないが、会話が出来るのに会話が出来ない・・・と言うのが凄いストレスになるのだろうと思う。

初めて会った私ですらそうなのだから、きっとアクアはそのストレスは凄いだろうに。


「シフォンちゃんはアクアの事をよく見てるね」

「え?」


アクアの方に気を取られていると、メフィストに声をかけられた。

驚いて肩を揺らして慌ててメフィストの方を見ると、私と違ってメフィストは私の方をしっかりと見ていた。


「焼けちゃうなぁ?今のパートナーは僕なのに」

「あの、えっと」

「このまま僕に乗り換えても良いんだよ?」

「こ、国際問題になるので・・・」


これは国と国が友好を願っての婚姻なのだ。

それは私が8歳の時、両親から説明されている。

私もそれに納得してアクアと婚約した。

そこに心があろうとなかろうと、婚姻の形さえあれば良いのだ。

私は運良くアクアが仲良くしてくれている。

それは凄く有難いけども。


だから例え同じ立場である王子のメフィストからの申し入れだとしても、アクアと婚約破棄したら国際問題になる可能性がある。

重要なのは王子との結婚じゃなくて、リキュア国と外交が上手く行く事だ。

結婚はあくまで手段なのだ。


「もうちょっとさぁ、シフォンちゃん。我儘になりなよ。普通なら感情の伴わない結婚を強制されたら嫌がるでしょ」

「うーん・・・最初はちょっと驚きましたけど。もう何年も経ちましたからね」

「時間の流れってやつ?僕はシフォンちゃんの心が知りたいのに」

「私の、心・・・ですか?」


メフィストは小さく頷いた。


「あくまで君の結婚は親同士が決めたものだ」

「はい」

「もし僕らは普通の立場の人間で、好きな人を選べるならシフォンちゃんは誰を選んだ?」

「選ぶ?」

「アンターク、アレクサンダー、アクア、ウィル、そして僕。誰を選ぶ?」

「・・・」


まさかそんな女の子みたいな質問をするなんて。

と言いたかったけど、メフィストの顔があまりにも真剣だった為、茶化す事が出来なかった。

もし私達が何にも縛られず、自由に結婚する事ができる立場なら。

私はそれでもアクアを選ぶと言えなかった。

正直、一人で死にたくないという思いが強すぎて結婚して子供を産めば一人で死ぬ可能性が低くなると思っていた。

だから私は結婚したかった。

それが例えどんな人であっても。

いやまぁ、我儘を言えば優しい人がいいけれど。


「ごめんね、シフォンちゃん。悩ませちゃった?」

「いえ!ただ、そんな風に考えた事がなかったので」

「だよねー。生まれた時から王子とか貴族とかの地位にいるとそれ以外の道を想像するのか難しい。一般的に見ればこうして綺麗な服を着て美味しいご飯を食べれる身分にいる・・・物語とかに出てくる子も、基本的には召使いだったり平民の子だったりするしね」


メフィストの発言に全力で首を縦に振りたかった。

リリーも普通の女の子だし、今の立場をメイド見習いだ。

圧倒的にヒロイン感がある。

それに比べて私は・・・。

いや、考えても無駄だ。

人生は神より与えられた手札で勝負するしかないのだから。


「何でもできるようで、貴族や王族は何も出来ない。常に国のために生きなければならない。側にいて欲しい人も選べない・・・ないものねだりだよ」

「メフィスト様・・・」

「でも感謝もしてる。僕が王子の立場にいなければ、シフォンちゃんに出会えなかったし、出会ったとしてもこうして一緒に踊ったりできなかったんだから」


メフィストは心底幸せそうに微笑んだ。

私も少しだけ、私という人間を愛せるような気がした。

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