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巻き込まれるのはヒロインの宿命!ですわ

エリザの文句という名の惚気話に耳を傾けていると、すっかり日が暮れて、そろそろ戻らなければならない時間となってしまった。

今夜はアクアと共に宮殿で行われる夜会に出席する事になっている。

そろそろ戻らなければ、メイクや支度をする時間がなくなってしまう。


「じゃあエリザ。また会いましょうね」

「勿論よ!なんかごめんなさいね、私の話ばっかりで・・・」

「良いの良いの!すごく楽しかったもの」

「シフォン・・・私も楽しかったわ!今度我が家でお茶会を開催するから絶対来てね!」


私はエリザからの誘いに頷いて、小走りでサロンを出た。

ランファと共に馬車に乗り込むと、ラムがちゃんと私達が馬車に乗った事を確認してから、すぐ馬車が動き出した。


対面に座っているランファは笑みを浮かべながら、私にハンカチを渡してきた。

そのハンカチを受け取り、額に滲み出た汗を拭いていく。


「お楽しみ頂けましたか?お嬢様」

「えぇとっても。あまりに楽しかったから、思わず夜会の参加をやめようかと思っちゃった」

「それはそれは。今回エリザベータ様の専属メイドの方とお話しする機会がありまして、美味しい紅茶の茶葉を教えて頂きました」

「ランファにとっても、良い情報交換の場になったなら良かったわ」


ランファも普段私の専属として働いている為、休暇という休暇が存在していない。

一日ぐらいしっかりと休んで、ショッピングでもしてきたら良いと何度も言っているのだが、頑として首を縦に振らないのだ。

ランファ曰く、休むより働く方が性に合っているらしい。


一応それなりに休暇を与えているつもりなのだが、いつ見てもランファはメイド服に身を包んでおり、私服を身を包んでいる姿を見たことがない。

だからこうして、外出するときにランファも楽しめるように極力頑張っている。


「そういえばリリーは大丈夫なのかしら。迷子になってないと良いけど」

「まぁ!うふふ、シフォンお嬢様は心配性なんですね」

「そういうわけじゃないわよ!ただ、あの子はちょっとお人好しすぎると言うか・・・人の善を信じすぎてる所があるから」

「それは私も思う所がありますが、それがリリーの良いところでもありますし」


ランファもリリーの性格に思い当たる所があるのか、私の発言を否定せず受け入れながらも、それがリリーの良いところでもあると肯定した。

確かにリリーの人を疑う事を知らない天真爛漫な所は、彼女の美徳であり長所だと思う。

しかしそのせいで騙されたり、悪い男に路地裏とかに引き込まれたりしてたら大変だ。


そんな事を考えながら窓の外を見ていると、二人組の男に手を掴まれ路地裏に連れ込まれそうになっている女の子を見つけた。

そうそう、リリーもあんな目にあっていたら大変だ。


助けてあげたいが、面倒ごとに巻き込まれるのは・・・と思っていると、その柄の悪い男二人組によって路地裏へ連れ込まれそうになっているのは、滑らかな茶髪に澄んだ空の瞳を持っている、よく見知った顔だった。


「え、リリー?!ラ、ラム止めて!今すぐ馬車を止めて!」

「お嬢様?!」


慌てて窓を開けてラムに馬車を止めるよう命令すると、ラムは慌てて馬車を停止させた。

ランファの引き止める声も気にも止めず、少々乱暴に馬車の扉を開けて、飛び降りて急いでリリーの元へ向かう。


私は失念していた。

リリーがこの世界にやってきて、王子達に出来るだけ会わさず、ヒロインらしい事をしていなかった。

だから私の頭から抜け落ちていた宿命。


ヒロインとは、何かしらの事件に巻き込まれるものだと言う事を!


リリーに何かあれば、王子達と接触する事になるかもしれない。

何がトリガーになっているのか、全く分からないのだ。

変に事件に巻き込まれたのが原因で、王子達がリリーを助けようとし、リリーと王子達が接触する事でせっかく改変した原作の軌道が戻ってしまうかもしれない。


そうなれば、現在主流な王子達全員と知り合い関係にいる私をリリーと王子達の仲を邪魔する邪魔者として悪役扱いするかもしれない!


もしそうなってしまえば、私の未来は確実的に終わる!

良くて国外通報か、悪くて原作通り牢獄での発狂死だ!!!


それだけは何とか阻止しなくてはならない。

せっかくここまで頑張ってきたのに、名前すらないモブキャラクターに台無しにされたら、もう悲劇中の悲劇だ。

もう二度と立ち直れる気がしない。


「リリー!」

「シフォン様!!!」


長いドレスが足に絡まって、うまく走らなかったが何とかリリーと柄の悪い男二人組の元へ行き、リリーの名前を叫べばリリーは半泣きの顔で私を見た。


その姿はきっと男であれば庇護欲を沸かせるものなのだろう。

女である私も、リリーの小動物感に可愛さを感じているのだから。


「おうなんだ、綺麗な身なりしてんなぁ?」

「シフォンサマってこのお嬢ちゃんで呼んでたからな。お嬢ちゃんのご主人サマだろ」

「・・・彼女が何か粗相をしましたか」


咄嗟に飛び出てしまったが、私は剣術とか武道とかそういうのを一切習っていない非力なお嬢様。

それに比べて今私の目の前にいる柄の悪い男は、タンクトップから見える盛り上がった筋肉や、顔についた傷を見る限り肉弾戦に持ち込まれたら勝ち目はない。


だから、周りの通行人も見て見ぬふりをしていたのだろう。

厄介ごとに首を突っ込みたくないと言うのはわかる。


私だって今この柄の悪い男二人に絡まれていたのが、知り合いのリリーだったから助けただけで、もし顔も知らない他人ならあれやこれやの言い訳を浮かべて、素通りしていた事だろう。


きっとリリーなら、顔の知らない人であっても正義感で助けようとするだろう。

私がヒロインになれないのは、こういう正義感が足りないからだろうな。


「このお嬢ちゃんがな?ナカヨクしてた女の子を、いちゃもんつけて帰らせちゃったんだよ〜」

「何が仲良くですか!貴方たちからぶつかってきた癖に、いちゃもんつけて怖がらせてただけじゃないですか!」

「はぁ?俺たちはただぶつかったなら筋を通せって言ってただけだぜ?それをピーピー泣いて馬鹿の一つ覚えみたいに謝るしかしなかったから、俺らが誠実な態度ってやつを教えてやろうとしてたんだよ」


はい、やっぱりこの子人を守って厄介ごとに巻き込まれてました。

そんなバカみたいな話ある???

一瞬頭に宇宙が広がったが、すぐリリーはそう言う人間なのだと、結論づけた。


「まぁでも?なぁシフォンサマ。俺たちと取引しようぜ」

「取引?」


思わず眉間に皺を寄せて、明らかに疑ってますと言わんばかりの目付きで柄の悪い男達を睨みつけると、男達は口元を下品に歪めながら、舐めるような目付きで私を見てきた。


「シフォンサマがこのお嬢ちゃんの代わりに誠意を見せてくれるってんなら、お嬢ちゃんは手放してやるぜ」

「ダメですシフォン様!!!私の事は良いので!」

「お嬢ちゃんは黙ってな。お前が余計な首を突っ込んだ結果だろ」


そう言った男は、ギロリとリリーを睨みつけるとリリーは思い当たる節があるのか、目元を潤ませながら唇を噛み締め悔しそうに俯いた。


「・・・分かりました。それでリリーを解放してくださるなら」

「おぉ!聡明なご主人サマで助かるぜ?じゃあ早速行こうか」


私が頷けば、柄の悪い二人組の男は気持ちの悪い笑みを深くして、リリーを突き放せばその流れで私の腕を掴もうとした。


その瞬間、よく手入れのされた一本の剣が私と二人の男を分断するように伸びてきた。


「シフォンお嬢様に触るな、下郎が」


そう冷たく言い放つのは、私の近衛騎士であるラムだった。

いつも見えているのかわからない細い目は、思う存分に開かれ、彼の翡翠の瞳が見えていた。


その瞳には慈悲といったもの全てが取り除かれ、いつも穏やかな青年の姿はなく、己の職務を果たそうとしている騎士の姿しかなかった。


「な、なんなんだお前は!!!」

「このお方は、お前のような人間が触れて良いお方ではない。早急に立ち去れ」

「ふざけるな!舐めやがって!」


そう言って一人の男が逆上したのか、ポケットに入れていたのか折り畳み式のナイフを取り出してラムに襲い掛かった。


しかしメピュア国の最大権力を持つラピスラズリ家の令嬢である私の近衛騎士を任され、近衛騎士長にまで上り詰めた男であるラムにとって、力しか取り柄のない男は敵ではなかったようで、軽やかに剣でナイフを弾き飛ばし、剣の柄で思いっきり男の頸あたりを殴った。

その衝撃か、男は目を回して倒れてしまった。


相棒である片割れが倒されてしまった事で、ラムの実力を知ったのか、情けない悲鳴をあげて相棒を置いてどこかへ行ってしまった。


「お怪我はありませんか?!」

「へ、平気よ・・・リリー、貴方は?」

「私は少しお尻を打っただけですから平気です!!!ごめんなさいシフォン様!!ご迷惑おかけしてしまって!!!」


リリーは顔を真っ青にして頭を下げてきた。

先程まで何とか耐えていた涙も、安心したのかその大きな瞳からポロポロと蓮の葉の上で水を転がすように溢れた。


私はそんなリリーの頭を少し撫でて、顔を上げさせると溢れる涙を指で払った。


「謝らなくて良いわ。けど、もう無茶はしないで」

「それはシフォンお嬢様、貴方にも通用しますよ」


その瞬間ラムよりも冷たい声と、冷ややかな視線が私の背中を突き刺した。

錆びたブリキの人形のように、恐る恐る首を後ろに向ければそこには、魔力を持っていないはずのランファから凍りつくような猛吹雪が舞っているように見えた。


「ラ、ランファ・・・」

「ホテルに帰るまで、お説教です」


綺麗な笑みを浮かべるランファの口元に反して、ランファの目元は鋭く尖った氷の一角のようだった。

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