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小さな嘘!ですわ

「私、結婚したい方がいらっしゃいますの」

「結婚したい相手?それは、アクア王子より素晴らしい方なのかい?」

「えぇ。きっと父様も母様も納得してくださる方ですわ」


口元に笑みを浮かべてみるも、父様は何処か疑っているような表情をしている。


母様の方を盗み見れば、何処か魂が抜けたような表情をしながら私の事をぼんやりと見つめていた。


淑女の母様が、そんな表情を見せていいと思っているのかしら。家族の前だから良いけれど。


父様の方に目を戻すと、何処か探るような目線を向けながら笑みを浮かべながら、口を開いた。


「して、その相手は?」

「その方の名は・・・守護の王子、ウィル・アゲート・ガーディアン様ですわ」

「守護の王子か・・・」


父様の顔が一瞬怯んだのを私は見逃さなかった。

言い忘れていたけど、私は別にアクア様の結婚が嫌なわけでない。

寧ろ個人的に好きな人物だ。

前世では、何度リリーとアクアが一緒になる事を夢見たか。一番好きな人物と言っても過言ではない。


けど、一番好きだからという理由で結婚してしまうのは、駄目なような気がする。

ただ好きという理由だけで、婚約者になったらどんな末路を辿るのか。私は身をもって知っていた。


だから私は争いとは無縁の中立国、ウィルのいるグリス国へ嫁ぐことを望んだのだ。


「相手も同じく王子で、争いとは無縁に近い中立国グリスですわ。アクア様に比肩を取らないお方だと思っております。如何でしょう父様、母様」

「確かにそうだな。しかし、お前とウィル王子の接点はなかったはずだが?」

「それを言うなら私、アクア王子との接点はありませんわ。ただアクア王子のいる国は、数年ほど前まで炎の王子アレクサンダー様の国と争いを繰り広げていた国・・・今は終戦しておりますが、まだお互いの緊張状態がとけたわけではございません。もし争いが再び起きれば私は、次期国王候補であるアクア様と共に命を狙われるかもしれません」


ハッキリとした口調で、出来るだけ分かりやすく。でもオブラートに包むような口調で告げた。

父様の目つきが鋭くなった。

出てきた出てきた・・・これが人の本性だ。


「つまり、シフォンは自分の身可愛さに平和の国を選ぶんだね」

「あらいけませんか?立場も家柄もアクア様とは、何一つ変わらないのに。父様は一体何がご不満で?父様の言い方、それではまるで私の為ではなく、他の何かの為に婚約させようとしているようにしか見えませんわ」

「シフォン!御父上に対して、なんて無礼な事をいうの!我儘もいい加減になさい!」


母様は、私の物言いが気に入らないのか、ガタリッと椅子をたて立ち上がり、ズカズカとドレスの裾を持ち私のいる方へやってくると、大きな声で私の事を叱りつけた。


普通の子供なら此処まで来れば怯え、泣き謝る事だろう。

けど、申し訳ないけど、私はそこまで可愛くないのだ。


「私が我儘なのは、今に始まった事なんですの?母様。私はいつも我儘ですわ」

「それをおやめなさいと言っているのです!」

「我儘はどちらですか母様、父様」

「何ですって・・・?」


母様は顔を真っ赤にして、私に対して怒鳴ってきた。

あらあら淑女がこのように声を荒げて良いのか。


前世の私のお母様は、そんな風に声を荒げる姿を見たことはなかった。


「言えないのなら私からハッキリと申し上げます・・・父様、母様。私を政治の為にアクア様と結婚させようとしていらっしゃいますね?」

「っ・・ど、如何して・・」

「どうしてって簡単な事ですよ。ウィル様との婚約渋ったじゃないですか。それだけです」

「それだけで、シフォンは婚約を結ばれていると思ったのかい?」

「はい。違いますか?」


父様は押し黙ってしまった。

いやぁ8歳の娘だ、十何歳と年上の男性を論破してしまった。


なんか怪しまれそうだけど、これで父様と母様を私を政治の道具として扱っている事が分かった。


「・・・そうだ。我がメピュア国と、アクア王子の住むリキュア国は今回同盟を結ぶことになった。それはリキュア国は警戒しての和平条約でもあった。それを明確な物にする為、シフォンをアクア王子に嫁がせるという事が決定した」

「それは、父様から申したことなのですか?」

「旦那様がそのような事言うはず有りません!しかし・・苦渋の選択でしたの」

「シフォンの幸せを選ぶか、それともラピスラズリ家の栄光を選ぶか」

「成程。それで父様はラピスラズリ家の栄光を選んだわけですか・・・栄光欲しさの貪欲さで」

「!シフォン!如何して貴女は御父上にそんな事が言えるのです!!」


あんなに愛想の良い笑みを浮かべていた母様はもういない。父様も顔を俯かせて此方を見ようともしない。


けど、貪欲が悪いわけではない。

お綺麗な事だけしていれば、ラピスラズリ家は地に落ちていた事だろう。


なにより、父様と母様は私の事を愛してくれている。

それは今までの記憶が証明していた。


「いえいえ馬鹿に等しておりません。逆に素晴らしい決断だと思いますわ。それに私、アクア様との婚約受けようと思ってますもの」

「良いのかい?ウィル王子の事は」

「あれは、父様に私を政治の道具として使おうとしているという根拠を得る為についた、嘘ですわ。そもそも私に好きな方などいらっしゃいませんもの」

「・・・シフォン」

「はい」

「君は、賢くなったね」


父様は顔を上げて、優しく微笑んだ。

その笑みは、あの時浮かべていた愛想の良い笑みではなく、父親が子供に向ける慈愛に満ちた笑みだった。


賢くなった・・・か。賢くなったというよりか、強かという言葉が似合うんじゃないだろうか。


私は賢いなんて言葉じゃ言い表せないほど狡い女。

理由もなく父様と母様を追いつめた。


「では、アクア王子との婚約、受け入れてくれるね?」

「はい父様。母様、先程は失礼な事ばかり言って申し訳ありませんでした」

「シフォン・・・いいえ、母も大人げなかったわ。許して頂戴」


母様は申し訳なさそうな顔をしながら、私の頭を優しく撫でてくれた。

本当に、シフォンは両親から深く深く愛されているのね。


「シフォン。お前にラピスラズリ家の、そしてメピュア国の命運を任せるよ」

「お任せください父様。必ずやご期待にお答えいたします。それでは、失礼いたします」


父様からしっかりとした意思のある瞳で、言われれば娘として答えないわけにはいかない。


そして私は椅子から立ち上がり、淑女の礼を取ると父様と母様も元を離れた。


部屋から出て、誰もいない事を確認すると、小さく息を吐き出しながら壁に寄りかかった。


「はぁぁ・・・久し振りに神経すり減らしましたわ」


緊張した・・・前世では2年近く幽閉それていた為社交界とは無縁の生活を送っていた。


久し振りに社交界、いや腹の読み合い特有の神経を使ったため、どっと疲れてしまった。


大きく深呼吸をして壁から背を離すと、ヨロヨロとしながら自室へ向かった。

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