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奇縁の水占い!ですわ

人混みに紛れ、一瞬にしてルネは姿を消した。

そして私とアクアは残された不気味な雰囲気を肌で感じていた。


周りには多くの人がいて、遠くからはパレードの賑やかな音楽が聞こえるのに、私たちのいる所だけまるでウィルが結界魔法でも使っているのではないかと思うぐらい、遮断されているように感じた。


「ごめん、嫌な思いをさせたね」


その空間を打ち破るように、アクアが私に謝罪してきた。

普段ならいくら私が公爵家の人間であっても、一国の王子であり次期国王が謝罪するのは、あまり褒められた事ではない。


貴族や王族は、良くも悪くも上に立つ者としての行動を求められる。

国の安寧と、国民たちの平和の為に。


「アクア様が謝れる事ではありませんわ。少し驚いてしまっただけです」

「あいつ、聖女っていう立場を利用してやりたい放題なんだよ」


アクアは忌々しいと言わんばかりに吐き捨てると、倒れるようにベンチへ座り込んだ。

そして重く息を吐き出すと、ルネが残していた独特の雰囲気が薄れていくのを感じていた。


「あ、アイスクリームが・・・」


指にトロリとした液体が下に伝っていくのを感じて、視線を向ければ溶けてしまい、原型を失ったアイスクリームの姿があった。

カリカリだったコーンも、液体と化したアイスクリームが染み込んで柔らかくなってしまっていた。


「あいつのせいでダメになっちゃったね」

「いえ、私が早く食べなかったからですわ。アクア様のもダメになっちゃいましたね」


アクアの手元を見れば、私のよりかはまだ多少原型を保っているが、3分の2は溶け切ったアイスクリームがコーンの上に乗っていた。


彼も自身の手元を見て、もう美味しく食べれる時間を過ぎてしまった事を悟ったのか、忌々しいと言いたげに重い息を吐いた。


「もういいや、他の食べに行こう」


アクアはそう言い切ると、私の分のアイスクリームを奪うように取ると、フードエリアに設置されているゴミ箱に投げ捨てた。


そしてまだルネの余韻に唖然としながらベンチに座っていた私に、アクアはゴミ箱に捨ててやってきた。


「シフォン、手出して。アイスクリームで汚れちゃってる」

「え?あぁ・・・はい」


恐る恐る手を差し出すと、アクアは自身の手を私の手にかざした。


「『水よ、清めろ』」


そうボソッと周りの人に聞こえないように言うと、アクアの手から冷たい水が溢れ出た。

その溢れ出た冷たい水は、私の手に絡みついていたアイスクリームを濯ぎ落としていく。


数分もしないうちに私の手は清められ、水に濡れていた。


「これ水魔法ですね?」

「うん、そう。シフォンには初めて見せたかな」

「はい!有難うございます!とても綺麗な魔法でしたわ」


私が素直な言葉を告げると、アクアは頬を桃色に染めて恥ずかしげに目線を外してしまった。

相変わらず褒め慣れていないようだ。

私はマーヤ夫人から持たされていた白いハンカチをポケットから取り出して、水分を拭き取っていく。


「ほ、ほらもう行くよ!!!」

「はーい」


アクアは居心地が悪かったのか、照れ臭そうにそう言い放つと私の手を乱暴に掴み、ベンチから立たせ人混みへ入る。

私も慌ててアクアに着いて行き、ハンカチをポケットに急いで入れる。


恐らく乱雑にポケットへも出してしまったから、ハンカチはクシャクシャになってしまっているだろう。

後でちゃんと直しておかないとなぁ、と頭の隅で考えながら転ばないように一生懸命ついていく。


「そこのスミレのお嬢さん」


人通りの多い道を歩いていると、ふと声をかけられた。

スミレのお嬢さん。スミレって確か紫色の花だった気がする。

この人通りの多い中で、スミレの花に該当する姿をしているのはスミレの花と同じ紫色の髪色を持つ私だけだ。


断じて自意識過剰とかではない・・・はず。


足を止めて、声をかけてきた人物の方を見れば亜麻色のマントを見に纏い、首には何かの紋章が入った懐中時計を下げた老人がいた。

立派な白い髭を携えた老人は露店商のようで藁椅子に座りながら、その老人の前には水が入った大きめの銀色の器があった。


「占っていかないかい?特別にタダで」

「えっと、あの」

「シフォン?どうしたの?」

「アクア様。その、占いに誘われてしまって」


私が足を止めた事に気づいたアクアが話しかけてくると、私は苦笑いを浮かべながら老人の事を説明した。

アクアが目付きを鋭くして老人を睨むが、その首に下げられた懐中時計を見た瞬間、警戒を弱めた。


「その懐中時計、術師同盟の人間だな」

「おぉ、良くお分かりになられましたのぅ」


アクアがそう言えば老人は驚いたように目を丸めたが、すぐ白髭を片手で触りながら、嬉しそうに微笑んだ。


「術師同盟?」

「ただの老ぼれ占い集団ですわい。わしの水占いはお世辞じゃないが、良く当たりますぞ」

「水占いって、札を水に浮かべたら文字が浮かび上がるってやつですか?」

「一般的の奴はそうじゃが、わしのやつは一味違いますわい。わしの占いは札ではなく、片手をこの聖水の中に入れて貰うと、その人の運勢や未来に共鳴して色が変わるんですよ」


気がつけば、すっかり占いの客になってしまっているが、少しワクワクしている。

女の子は一回ぐらいは恋の占いや手相といったものに興味を持つ時代がある。


私も前世は熱狂的な占いファンだったが、良い結果が出る限りやり続けると言う意味のない事をしてしまっていた。

今はそこまで占いを信じているわけではないが、別に嫌いというわけでもないし、一つの暇つぶしとして興味がある。


「さぁスミレのお嬢さん、手を水の中へ」

「はい・・・」


少し胸をドキドキさせながら、片手を水の中にいれた。

その水はひんやりしていた。

けど気持ち良い冷たさで、指の先からじんわりと体の熱を冷ましてくれているのを感じた。


すると、だんだん水の色が変わり始めた。

綺麗に透き通っていた水は、まるで絵の具を垂らしたかのように広がっていく。

それは赤色だったり、青色だったり、緑色だったり、多くの色が広がり、実に色鮮やかだった。


最終的にその色は一つになり、そして。


真っ黒に染め上げた。


「黒・・・?」

「あの、これって」


私とアクアは、入れていた手すら見えなくなるほどに真っ黒に染まった銀の器を凝視した。

まるで夜に手を突っ込んだような、あるいは黒いインクを全て入れたように真っ黒だった。


心配になって老人の方を見れば、先程までにこやかに微笑んでいた老人の顔が緊張感のある顔つきに変わっていた。


老人は息を殺しながら私の方を見てきた。

そして恐る恐ると言った様子で口を開いた。


「スミレのお嬢さん。アンタには奇縁に絡まれておる」

「奇縁?」


聞いた事もない言葉に首を傾げれば、老人は真面目な顔をして説明してくれた。


「わしら術師同盟の間で、最も不吉で回避するのが難しいとされている縁の事じゃ。縁とはつまり、人と人との繋がりを意味する。普通の縁なら問題ないが、奇縁は不幸や苦労を呼び寄せる」

「そ、そんな・・・」

「色んな色が絡み合い、そして黒く染まった。それはつまり、スミレのお嬢さんに多くの人間が集まり・・・最終的に破滅すると言う事を暗示している」


破滅という言葉を聞いた瞬間、私の心臓は大きな音を立てた。


その言葉は私が何度も何度も魘され、悩み、恐れた未来。

原作のシフォンと、前世の私に訪れた不幸。


それを回避するため、私は悪役令嬢を辞めるよう努力してきた。

乗馬まで習い、リリーとアンタークの出会いを邪魔した。

全ては、破滅したくない一心で。


「破滅・・・」


思わず溢れた声は、自分でも驚くぐらい元気がなかった。


「どうしたら、良いんでしょうか」


縋るような思いで老人を見つめれば、老人は私を安心させるように笑い口を開いた。


「安心なされ、スミレのお嬢さん。さっきも言った通り、奇縁というのは色んな縁が絡み合っている状態をいう。絡まった糸を解くように、一つ一つこれから訪れる事件を解決していく事で、奇縁はただの縁となるじゃろう」

「ただの縁に・・・」

「無論、簡単な事ではないかもしれぬが、スミレのお嬢さんには素敵なナイトがいるようじゃし、大丈夫でしょうな」


そう言う老人はお茶目にウインクすると、その視線の先にはアクアと、平民の服に身を包んだアンターク、ウィル、メフィスト、ロジャード、アレクサンダーの姿があった。


「な、なんで皆さまここに?!?!」


私が驚きのあまり声を上げると、路地の裏で隠れるように此方を伺っていた5人は苦笑いをしながらゾロゾロと出てきた。

アクアは何故か天を仰いでいる。


「ほら見つかったじゃないですか。僕は反対したんですよ」

「何言ってんの〜?アンタークも結局ノリノリだったじゃない」

「いやぁごめんね二人とも。アレクサンダーが行きたいって言うから」

「おい待て!着いて行こうって言い出したのはロジャードの方だぞ?!それに俺たちのこの平民服用意したのはウィル!お前じゃねぇか!」

「あーあー、聞こえないですねぇ」

「うわぁぁぁん!!!シフォンは俺が守るからな!!!」

「ほら、来ると思った。絶対邪魔してくると思ってたんだよ」


まさに烏合の衆である。

そして何より周りの目が痛い。

お忍びなんかではない、完全にバレてしまっている。


「こんなにも頼もしいナイトがいるなら、大丈夫じゃ。安心なされよ」

「は、はい」


老人はそう言って笑った。

しかし私は、彼らが私を助ける縁になるか、それとも私を殺す奇縁となるかはまだ分からなかった。

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