謎の聖女!ですわ
アクアに引っ張られながらも、私は何とかフードエリアへ到着する事が出来た。
色んな屋台の匂いが混ざり合い、最早なんの料理の匂いなのか分別するのが難しかった。
しかしそれでも、どの料理も美味しいという事実は変わらなかった。
「美味しそうな匂いがしますね!」
「君が楽しそうなら良かった。何か食べたいものある?」
「そうですね・・・暑いので、なにか冷たいものが食べたいです」
「なら、あっちにアイスクリームの屋台があったと思う」
そう言ってアクアは、私が人混みに埋もれてしまわないように、自らの体を盾にするようにして歩いてくれた。
肩の厚さなんて、女の私が見ても細いと思うのに、肩幅とかは結構がっしりしている気がする。
少し歩くと、アイスクリームを売っている屋台を見つけた。
よくよく考えると、私はあまりアイスクリームを食べる事がなかったような気がする。
「何にする?」
「そうですね・・・こんなに種類があると悩みますが・・・では、苺で」
「分かった。僕が注文しておくから、シフォンはあそこのベンチで座ってて」
「は、はい。有難うございます」
こういう節々とした所に、彼の紳士らしい所が見えて胸が高鳴ってしまうと同時に、何処か心がモヤモヤしてしまう。
アクアの指差したベンチに向かって腰を下ろして、モヤモヤの原因である爆弾発言を落とした義兄、ロジャードについて考えた。
あの後、何とか解放された私は寝ているロジャードを一先ず部屋に残して、ロジャードの専属執事の元に向かった。
聞けばロジャードは父様に出すはずだったワインを、ロジャードは葡萄のジュースだと思い、間違って飲んでしまったのだと言う。
匂いで気づかないものかと思ったが、どうやら相当高値の葡萄ジュースだったらしく、香りもワインに近いものだったらしい。
隠していたようだが、ロジャードも慣れない土地でYOUとして気を張り詰めていたのか疲れていたようで、よく確認せずグラスに並々注がれたワインを飲み干してしまったという。
執事が気づいた時にはもう遅かったらしく、ロジャード既に出来上がっていたようだ。
そして執事の止める声も無視して、私は部屋に押しかけてきてしまったのだとか。
目を覚ましたロジャードはすっかり酔いが冷めたようで、私に言った衝撃的な発言や行動を全て忘れてしまっていた。
何食わぬ顔をしているロジャードを見て、自分だけがロジャードの一言一句に振り回されてしまっている。
その事実に腹が立った私は、未だに兄離れを決行中だ。
けれどやはり相手が忘れていても、私は覚えている。
だからこそ気まずくて、最近は逃げるように図書室へ閉じ籠ったり、ランファを連れて街にコンサートやミュージカルを見に行ったりして、出来る限りロジャードと一緒にいないようにしている。
そのあからさまの態度に、ロジャードは悲しそうな顔をしているが、ダイヤモンド・フェスタに忙しくなり、あまり構ってくるようなことはなくなった。
「お待たせシフォン」
「あ。有難うございますアクア様」
暫くウジウジと考えていると、私が選んだ苺のアイスクリームと、恐らくアクアが選んだバニラのアイスクリームを両手に持ったアクアがやってきた。
苺味のアイスクリームを手に持ち、行儀悪いと思われないようにペロリと舐める。
冷たいアイスクリームが火照っていた熱い体を冷えしていってくれているのを感じた。
そして口に広がる苺の酸味を、ミルクの甘さが上手く調和して止まらない!
前世ではアイスクリームなんていうお菓子なかったから、初めて食べた時はビックリしたけど、暑い日はやっぱりアイスクリームね。
「美味しいですわ!」
「そう?ならよかった」
私がアクアの方を見て感想を言えば、アクアはニコッと笑いそして自分のアイスクリームを食べ始めた。
暫く二人とも無言でアイスクリームを堪能していたが、半分ほど食べ終わった時に、「あ、アクア様じゃないですか!」という女の子の声が聞こえた。
思わずその声がした方を見れば、可愛らしい女の子がそこにいた。
白色の髪の毛を三つ編みにして、ラメが塗られているのかキラキラと輝く貝殻のネックレスをつけた太陽がよく似合う女の子だ。
・・・誰???
アクアの事を知っているから、アクアの知り合い?
こんな美少女、小説に出てきたかしら?
悪役令嬢であるシフォンや、ヒロインのリリーと同じ舞台に立てるぐらいこの子の見た目は整っている。
だからこんな派手な子がいるのであれば、小説の中に出てきてもおかしくないのだが、私の記憶には三つ編みをしたの白髪の美少女はいない!!!
な、名前を聞けば思い出すだろうか?
「・・・ねぇ君、この姿見てお忍びだとか思ったりしないわけ?本当に君って頭回らないよね」
初手一番にめちゃくちゃ言う!!!
明らかに見て取れる。アクアの機嫌を、この美少女は損ねてしまった。
しかし、その美少女は不機嫌なアクアの様子に怯む事なくアクアの空いている隣のベンチに腰を下ろした。
え、あ、私無視ですか?
バリバリ今私アクアの横にいるんですけど、見えてません???
アクア、今謎の美少女と私に挟まれてる状態なんですけども。
「こんな所で会えるなんて!これも神の思し召しでしょうか?」
「君みたいな視野が狭くて、頭も弱くて、常識外れの女を聖女にするなんて、この国の教会も終わってるね。人の声が聞こえないの?耳まで悪くなった?」
もう完全に理解しました。
どうやらアクアはこの謎の美少女が嫌いなようで・・・うん?
「聖女?」
「シフォンは会ったことなかったよね。こいつは、ルネ・フェルセン。頭も耳も視野も悪い、負の聖女だよ」
「まぁ失礼しちゃいます。私は負の聖女ではありません。正真正銘、この国で認められた聖女ですわ。それに私は人の声が聞こえないのではなく、聞かないのです。神以外の声なんて、聖女である私には意味のないものですから」
そう言ってルネと名乗る美少女はベンチから立ち上がり、俯く私の顔見ようと覗き込んで、ニコリと微笑んだ。
その笑みがどこか不気味で、人間の思考の向こう側にいるようにも思えた。
「でも挨拶はした方が宜しいですね!神の使者である聖女として!初めまして、先程アクア様がおっしゃりましたが、私はルネ・フェルセン。聖十二使徒の一人、信仰のルネと言った方が、馴染み深いでしょうか?」
聖十二使徒。
それはつまり、神の声を聞くと言う特殊な力を持つ12人達の総称。
平等のローライト。
希望のビビ。
博愛のエリーゼ。
慈悲のイヴ。
正義のジャック。
知恵のザカライア。
不屈のアルフレード。
純潔のリーズア。
安息のベル。
救済のドミニク。
不殺のエミリア。
そして最後に信仰のルネ。
この12人は生まれた国も性別も、年齢も関係なく共通して神の声を聞くことが出来るもいう力を持つ。
神から御神託を得たり、これから起きる災害や戦争などを未来予知する事が出来る集団の事を聖十二使徒という。
そして今私の目の前に立っていたルネは、その聖十二使徒の一人という。
ルネを含んだ聖十二使徒は、人前に出る事は殆どない。
都市伝説の一つとして語られているほど謎が多い組織なのだ。
取り敢えず、ルネは挨拶してくれたのだから、私も挨拶を返すべきだ。
「御丁寧にどうも。私はシフォン・ルルーレ・ラピスラズリ。お会いできて光栄です」
「あぁ、アクア様の御婚約者の・・・」
するとルネは私を値踏みするような目付きで、ジロジロと見てきた。
ルネのその目線が何となく気持ち悪くて、萎縮してしまった。
アクアは私が嫌がっているのに気づいたのか、ガタンッと音を立てて立ち上がり、私とルネの間に割って入った。
「いい加減にしてくれない?いくら聖女だからって人に嫌がる事していいわけ?」
「あら、お気分を害させてしまい申し訳ありませんでしたわ、シフォン様」
「い、いえ・・・」
あまりにも素直に謝るものだから拍子抜けしてしまい、思わず謝罪を受け入れてしまった。
ルネはコロコロとビー玉を転がすように笑う。
「うふふ。お二人に神の御加護がありますように」
それだけ言うと、ルネは鼻歌でも歌うかのように人混みに紛れて、消えてしまった。
元からそこにいなかったように。




