ダイヤモンド・フェスタ開催!ですわ
雲一つない晴天。
その天に宮殿の庭に集まった国民たちの歓声が響いていた。
「5年に一度のダイヤモンド・フェスタ。こうしてまた開催できることを光栄に思います。さぁこのダイヤモンド・フェスタ!大いに盛り上がりましょう!」
リキュア国のマレ女王がそう声高らかに宣言すると、国民たちの歓声が先程とは比にならないレベルに盛り上がり、溢れんばかりの噴水が空に伸びた。
アーチを描くように多くの水が湧き上がり、その噴水は太陽によってキラキラと輝いている。
現在私は王族専用の観客部屋でアクアと共に開会式を見ていた。
例えメピュア国で大きな権力を持つラピスラズリ家と言っても、私は一貴族である事には違いない。
だから普通私はこの王族専用の観客部屋に立ち入る事は許されない。
けれど私は今、アクアと共に王族専用の観客部屋にいる。
「あ、あのアクア様。宜しいのですか?私は王族ではなく、貴族ですが・・・」
「いいよ、別に・・・僕が許可出してるんだし」
アクアに恐る恐る聞けば、アクアは照れ臭そうに呟いて反対方向を向いてしまった。
婚約者であるアクアとは久し振りに再会したが、身長はグッと伸びていたし、元々整っていたその端正な顔立ちには磨きがかかっていた。
太陽に照らされる海のようにキラキラと輝く白銀色のアクアの髪の毛は、やはり小説で書かれていた通り美しい。
一面ガラス張りのこの部屋からは開催式を一望する事が出来る。
相変わらず綺麗な国だなぁと思いながら、辺りを見渡した。
「何か気になるものでもあるの?」
あ、ついキョロキョロしすぎてしまったかしら?
反対を向いていたアクアは私が辺りを忙しなく見渡していた事に気づいたのか、首を傾げながら聞いてきた。
「ごめんなさい!相変わらずリキュア国は綺麗だと思いまして・・・」
「そう?まぁ君が言うならそうなんだろうね」
「アクア様は毎日この景色を見てますものね。私は久し振りでしたから」
「・・・シフォンは全然こっち来てくれない」
「え?」
アクアの方を見れば彼は白い肌を赤くして、拗ねたような顔をして此方をジロリと睨み付けていた。
そして私のドレスの裾を掴んで、熱を纏った瞳で私を見つめてきた。
「君は、僕の婚約者なのに・・・」
「アクア様」
な、なんて愛らしい事を!!!
まさかそんな可愛らしい事をおっしゃるとは!
元々可愛らしい人だったけど、こんなヤキモチを焼いてくださるだなんて!
「ふふふっ」
「な、なに?何で笑うのさ!」
アクアは顔を真っ赤にさせて私に詰め寄る。
彼は本気だったのに、私が笑った事に腹を立てたらしい。
しかし、私からしたら生まれたての子猫が必死に威嚇しているようにしか見えなかった。
「ごめんなさい。つい」
「はぁ・・・まぁいいや。君、この後どうするの?」
「え?あぁそうですね、特に用事は・・・」
「なら僕が・・・案内してあげても、いいけど」
素っ気なさそうにアクアは言うが、その瞳には期待と緊張が入り混じっている。
何も知らなければ迷惑だと思うかもしれない。
けど私は小説を見た私は、アクアが素直になれないだけだと知っている。
だから私は彼が求める答えがわかる。
「えぇ是非」
私が笑って肯定すれば、アクアの顔は安堵に包まれた。
こう言うわかりやすいところが可愛らしいのだけど、きっとこれを言ったら確実にアクアは怒るだろうから言わないでおこう。
いや、怒ると言うか拗ねるだろう。
その姿も恐らく可愛らしいのだろうが、のちのち面倒な事になる事は分かっているから、黙っておこう。
「そう言えばここ開会式にはウィル様やアンターク様などもいらっしゃるらしいですね」
「まぁね・・・絶対邪魔してくる」
「え?何か仰りました?」」
なにやらボソッとアクアが言ったような気もしたが、丁度パレードが開催されたのか、盛大な音楽が鳴り響いた為聞こえなかった。
失礼を承知で聞き直せば、アクアは「何でもない」とだけ言って、何やら考え込んでしまった。
「絶対邪魔してくるに決まってる・・・シフォンは僕の婚約者なのに・・・」
「確かエリザも来るって言ってましたわね・・・エリザは芸術学校に通っているから中々会えなかったから、久しぶりの会いたいですわ」
そう。私の親友となってくれた唯一の女の子友達のエリザベート・ジーン・インカローズは祖父であるカーティスが経営している芸術学校に入学した。
その芸術学校は全寮制で、中々会うことが出来ない。
会うことが出来るのは、長期休みだけなのだがその長期休みも課題とか美術館周りをしていているようだった。
ちなみに婚約者とは今でも小競り合いをしているらしいが、カーティス曰く、前よりは二人とも大人になったと言っていた。
いつかエリザの婚約者にも会ってみたいものですわね。
エリザとの再会に胸を躍らせていれば、先に考え事から帰還していたアクアが声をかけてきた。
「そろそろ僕らも行こう」
「あ、そうですわね。私、リキュア国の食事楽しみにしてましたの」
「そう・・・じゃあフードエリアに行こう。沢山の屋台が出ているはずだから」
「楽しみですわ!あ、でもこの格好じゃ目立ちますわよね?」
「うーん・・・ここはお忍び、かな?」
アクアは少し考え込むと、悪戯っ子の笑みを浮かべて私の手を引き、王族専用の観客部屋を出て行った。
「ど、どちらへ?!」
アクアに手を引かれながら、ズンズンとカーペットの敷かれた廊下を進んでいきながら聞く。
そんなアクアの顔を盗み見るとその顔はとても楽しそうで、阻止するなんて事は私には出来なかった。
暫く歩いていると、一人の初老の女性が扉の前に立っていた。
「お待ちしておりました殿下、シフォン様」
「えっと・・・」
深々と頭を下げた右目にモノクルをかけた女性に名前を呼ばれ、私は酷く戸惑った。
いや、皆さんも考えてみてほしい。
知らない人に名前を呼ばれると言うのは、恐ろしくないだろうか。
一応私は貴族の人間で、私が知らなくても他の人が知っているなんて事は頻繁にある。
だからこそ恐怖なんてものは感じなかったが、戸惑うものは戸惑う。
「あぁシフォンは会った事ないか。この人はマーヤ・カルチェンコ夫人。この宮殿の女官長だよ」
女官長。
それはつまり、マレ女王やアクアの姉であるルージュのお世話係!!!
正直言ってルージュからは相変わらず殺気を含んだ目で睨み付けられている。
今回も私はロジャードと共に貴族席で見ようとしていたのだが、アクアが私を王族専用の観客部屋に連れてきてしまった。
その時のルージュのお顔と言ったら・・・。
まるでロジャードが見せてくれたサフィラスの作品『ハンニャ』だった。
あまりの恐ろしさに、一国の王女様として如何なものかと思ったが、アクアがルージュの方を向いた瞬間凄い速さでにこやかに微笑んだ。
あまりの変わり身の早さに、ルージュはそういう魔法が使えるのかと思った。
「マーヤ、シフォンに似合う服、見繕ってあげてほしい」
「かしこまりました。このマーヤ、命に代えてでも完遂致します」
「うーん?え?どう言う事ですか?私、服持ってきていますわ」
「・・・メフィストの服は着たのに、僕の服は着れないの?」
「なぜそれを?!?!」
アクアに詰め寄れば、どうやらメフィストがアクアに自慢したのだという。
それに嫉妬・・・アクアは嫉妬とは認めていないが、確実に嫉妬したアクアはこのダイヤモンド・フェスタで私にリキュア国のデザイナーがデザインした服を着せたいと思ったと言う。
何を彼がそこまで駆り立てるのか知らないが、どうやら撤回する事は出来ないらしい。
私は言われるがままマーヤ夫人に連れられ、衣装部屋に放り込まれた。




