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爆弾発言には気をつけて!ですわ

「お帰りなさいませ!シフォン様!」

「・・・ただいま、リリー。今日も元気ね」


ロジャードともに宮殿から帰ってきた私は、疲労が溜まりに溜まった肩を見つめて苦笑いを漏らしながら自室へ戻ると、メイド服に身を包み、にこやかに笑うリリーの姿があった。


リリーは私から脱いだコートを受け取ると、慣れた手つきでクローゼットに私のコートを戻していた。


本来ならリリーは、アンタークのいる宮殿で暮らしていたはずだったが、私が原作を変えてしまった為、リリーは今ラピスラズリ家で私専属のメイド見習いをしている。


最初は緊張や不安が滲んでいた顔も、二週間も過ぎた頃には小説内で書かれていた百合のような柔らかい笑みを浮かべるようになっていた。


私はリリーの姿を目で追いながらと、少し休憩しよう愛用のソファーに背中を預けて、息を長く吐き出した。


そんな私の様子を見ていたのかリリーは部屋の端に寄せていたワゴンを机の前に持ってきた。


「もし宜しければ、ハーブティーをお淹れ致しましょうか」

「ハーブティー?」

「はい!ランファさんが疲労回復の為にハーブを調合してくださったんです」


そういうと、リリーは一つの缶を取り出すと、その缶の蓋を横に捻って開けた。

するとふわりと風になって、ハーブのいい匂いが鼻腔をくすぐった。


「いい匂いね・・・お願いしようかしら」

「かしこまりました!すぐお淹れしますね!」


リリーのご機嫌な鼻歌を聴きながら、私を天井を仰いだ。

大理石で作られた白い天井には精巧な模様が彫られており、改めてラピスラズリ家の力の強さを思い知らされる。


ラピスラズリ家は元々王家の人間によって作られた一族らしく、書類上はアンタークを含んだシュタイン家とは親戚同士なのだと父様は言っていた。


けど、ここ数百年、ラピスラズリ家では魔力を持って産まれたものはいない。

父様によれば、ラピスラズリ家を開いた人は元々雷の魔法を持っていたという。


しかし、だんだん雷魔法を受け継いで産まれてくる者は少なくなり、最終的に私やロジャードの世代になるまで魔力を受け継いだ者は片手で数えるぐらいしかいないという。


しかもその魔力は魔力と呼べないほど微弱なもので、せいぜい静電気ぐらいの力しか持っていなかったとロジャードは言っていた。


そこで一つの疑問が私の中を支配していた。

なぜ、王家の人間は魔力を受け継いで生まれる事が出来るのか。

例えばアクアは水魔法が使えるが、姉であるルージュはどうやら水魔法が使えないらしい。


女性は魔力を受け継げないのかしら?と思ったが、どうやらそういうわけでもないようだった。

フレアランス王国の王妃であり、アレキサンダーの母君は炎を操る魔法が使えると聞く。


それに王家の人間であれば、女性でも魔力を持つ人も少なくないようなので、どうやら男女的な差はないようだった。


そんな事を私の弱い脳みそで悩んでいると、リリーに名前を呼ばれた。

重い体をゆっくり起こせばハーブティーを淹れ終わったリリーが私の机の前にティーカップセットと、クッキーを置いていた。


「こちらのクッキーは料理長がシフォン様にと」

「あぁそうなの。では後でお礼をしに行かないといけないわね」

「新作らしいですよ!」

「そうなのね、これじゃあ太ってしまうわ」

「シフォン様は太られても可愛らしいですよ、絶対!」

「あ、ありがとう・・・じゃあ頂くわ」


リリーの熱い視線に耐えきれず、私は逃げるようにハーブティーが入ったティーカップに手を伸ばした。


湯気がたっている熱々のハーブティーを少し冷まして口に入れれば、口いっぱいに多くのハーブの風味が見事に調和した味が広がり、疲れていた体にジワジワと染み渡っていった。


ほぉっと小さな息がポロリと零れ落ちた。

そんな私の様子を見たリリーが安心したように胸を撫で下ろしたのが分かった。


半分まで飲んで、静かにティーカップをソーサーの上に戻す。


「リリーは紅茶を淹れるのが上手なのね」

「そ、そうですか?!良かった・・・!」


私がリリーを褒めれば、大袈裟に目を輝かせ嬉しそうに口元を綻ばせた。

前世の私にこうして素直に喜ぶ心があれば、もっと違う未来があったのかもしれない。


目を伏せながらそんな事を考えていれば、徐に私の部屋の扉をノックする音が聞こえた。


リリーに出るよう指示すれば、そこにいた人物はさっき屋敷前で別れたロジャードだった。

そして私の心臓は嫌な音を立てながら飛び跳ねた。


すぐさま私の頭の中を覆い尽くす、ブラックローズ帝国で見たリリーとロジャードの姿。

もし目の前でイチャイチャされたら私はどうすればいいの?!


そんな事を考えていると、ロジャードはズカズカと私の部屋に入ってくると、私が座っているソファーの横に勢いよく腰を下ろした。


「な、なに?兄さん」


私が恐る恐る顔を上げて聞けば、ロジャードの顔はいつものおちゃらけた顔をしていなかった。

私の目を真っ直ぐ見据えていた。


居心地が悪く、思わず目を逸らしてしまえばロジャードは溜息を一つ漏らした。


「リリー、悪いが部屋を出ていってくれ。シフォンと話がしたい」

「は、はい・・・分かりました」


リリーもロジャードの並々ならぬ雰囲気を感じ取ったのか、恐る恐ると言った通りに頷くと、ワゴンを持って部屋を出ていってしまった。


部屋には私とロジャードが残された。

私の部屋だというのに、まるで私の部屋ではないような、ロジャードに支配された空間に私は小さく手を振るわせた。


兄離れをした事が、そんなにロジャードの逆鱗に触れてしまったのだろうか?

もしそうだとしても、何故今になって???


「なぁシフォン」

「は、はい・・・?!」


モヤモヤと頭を動かしていれば、急に名前を呼ばれ飛び跳ねるように返事をした瞬間、私はロジャードに抱きしめられた。


抱きしめられた。

誰に?ロジャードに。

誰が?私が。


すぐさま顔が赤くなっていくのを感じた。

いくら兄妹だと言っても、こんな顔立ちの整った人に抱き締められれば、私の心の容量はすぐに満杯となってしまう!


あわあわと慌てる私を逃さないと言いたげに、ロジャードは私を抱き締める腕の力を強くしていく。


「に、兄さん?どうしたの?」

「・・・」


私が勇気を振り絞って聞いてみても、ロジャードはそれに応えることはせず、ただただ無言で私の事を抱きしめていた。


「兄さん???どうしたの?様子が変よ」


何も言わないロジャードがだんだん心配になってきた私は、背中を優しく叩けば、それに反応していきなり耳元で掠れたロジャードの声が聞こえた。


「お前と結婚したかったなぁ・・・」


それだけいうと、まるで力を失った絡繰人形のように私に全体重を預けて寝てしまった。


うん?寝てしまった?


「え?もしかして・・・本当に寝ました?」


急いで「もしもーし」と恐る恐る声をかけてみるが、ロジャードはなんの反応も示さない。

そして私の鼻には茶葉とは違う、アルコールの匂いがロジャードから香ってきた。

疑問とパニックに覆い尽くされた私の脳内である可能性が浮かび上がってきた。


え?もしかして、酔ってる???

酔っ払っている?!

もしかして、もしかしなくても酔っ払っている!!!


確かに改めてロジャードの顔を見れば、肌荒れ一つない健康的な頬には、薄ら赤みを浴びているような気がした。


そんな酔っ払った兄さんに声をあげて言いたい!!!

起こしてしまうかもしれないから、声には出さないけれど!


私はロジャードの妹だから、結婚はできない!!!

確かに義妹ではあるけども、ロジャードとは私が8歳と言う幼い頃から一緒にいるのだ。

本物の兄妹と言っても差し障りない良好的な関係ではあるし、見た目もよく似ている為初対面の人には間違いなく兄妹だと思われる。


ロジャードによって落とされた爆弾発言に私の疲れは吹っ飛んだが、体格や筋肉量が私の二倍以上あるロジャードを支え続けた私の腕は無事死亡宣告を受けた。

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