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炎の王子と兄離れ!ですわ

「あぁシフォン!久しぶりだな!」

「・・・ここはラピスラズリ家だと思うのですが・・・何故ここにアレクサンダー様が?」


久し振りに我が家へ帰ってくると、燃え盛る炎のような真紅の髪の毛と小説内でグリフィンのように鋭い金色の瞳と言われた瞳を持つ炎の王子、アレクサンダーが飼い主を見つけた犬のような顔で手を振っていた。


ここは確かメピュア国のラピスラズリ家が治めている領地であるはず。

間違ってフレアランス王国に来てしまったのだろうか。


いいや違うはずだ。

何故なら、アレクサンダーの奥の方にニコニコと微笑んでいる母様がいるのだから。


ラピスラズリ家の留守を預かっていた母様がいると言う事が、ここは私シフォンの家であるラピスラズリ家である事を示している。


「あれ?聞いてなかったのか?今年行われるダイヤモンド・フェスタは記念すべき100回記念だから、今年はアンタークたちと合同でサプライズを企画してるんだ。サプライズの内容は流石にシフォンにも内緒だけどな」

「はぁ・・・いや、そうではなく!どうして我が家にいるのかお聞きしたいのです!」

「シフォンに会いたかったから」


そう真っ直ぐした目でアレクサンダーは私を見てきた。

少し前までメフィストという嘘を普段着にしたような男と関わっていたから、アレクサンダーのような真っ直ぐな目で嘘偽りなく言ってくる言葉を聞くと、思わず顔が赤くなってしまった。


そんな私を見てアレクサンダーは、人懐っこい笑みを浮かべた。


「相変わらず分かりやすい奴だなぁ」

「か、揶揄いましたね!」

「ついだよ、つい。そんな怒るなよ。可愛い顔が台無しだぞ」


こ、この人!!!

私に婚約者であるアクアがいる事を知っているくせに!!

アレクサンダーはまるでパンをこねるように私の頬を触ってくる。


呆れたように溜息を吐きながら、赤くなった頬を冷ます。

暫くすると部屋の扉が開き、ロジャードと父様が部屋に入ってきた。


父様とロジャードは、まさか部屋にアレクサンダーがいるとは思っていなかったのか、唖然とした表情でアレクサンダーを見つめていた。


「お久しぶりです、ラピスラズリ公爵。ロジャードさん」

「ア、アレクサンダー殿下・・・?どうして我が家にいらっしゃるんです?」


父様は苦笑いを浮かべながら、アレクサンダーに質問すると、アレクサンダーは愛想良く微笑んだ。


「アンタークに少し用があったので、その帰りに寄ってみたんですよ。でもブラックローズ帝国へ訪問してらっしゃるとは・・・お疲れのところすみません」

「え、いや、それは構いませんが・・・カトリーヌ、何で連絡してくれなかったんだ?」


あの父様が驚いている・・・。

しかし比較的飲み込みの早いロジャードは、アレクサンダーの急な訪問を受け入れたのか、ケラケラと笑い出した。


母様もいつも冷静な父様が混乱している様子が面白いのか、ボールを転がすように淑女らしく微笑んだ。


「そうおっしゃっても・・・恐らく入れ違いになると思って。あと私からのサプライズですわ」

「心臓に悪いサプライズはやめてくれ、カトリーヌ」

「うふふ、ごめんなさいあなた」


私はそんな両親の会話を盗み聞きながら、苦しそうに笑うロジャードを盗み見た。


原作通りのシフォンであれば空気も読まず「はしたない!」と声を荒げていた事だろう。

しかし、今の私は前世の事や原作のシフォンの事でしっかりと学習している為、そんな野暮な事はしない。


確実にそんな事を言えば、空気を壊すのが目に見えているから。


「はーあ!面白い!!やっぱりシフォンの近くにいれば、退屈しねぇなぁ!」

「兄さん、その言い方ではまるで私が騒がしい原因みたいですわ」

「悪い意味じゃねぇよ!シフォンが非凡な才能を持つ人間を集める才能があるって事だ」


非凡な才能を持つ人間を集めるって言ったって。

確かにアレクサンダーもロジャードも、原作のメインキャラクターといっても過言ではない人物だった。


だからこそ、多くの才能や努力する力に恵まれている。


しかし、そういう人の中心にいる者は総じて変わり者だ。

煩かったり、変に行動力があったり、胡散臭かったら、逆に真っ直ぐ過ぎたり。


そんな多くの人の中心にいるような人間に、囲まれ続けると考えれば、今の私ならすぐに胃が痛くなるだろう。

前世の私であれば、自分の力じゃないのに自分が凄い人になったと錯覚して、鼻高く自慢していた。


身の丈に合わない権力は身を滅ぼす。

私は知っている。

何故なら前世の私がそうだったからだ。


「確かにシフォンは色んな人を惹きつけるよなぁ」


アレクサンダーは腕を組みながらしみじみとロジャードが言った意味を味わうように頷き、私の方を見た。


そんなアレクサンダーの瞳が、癪に触る慈愛が含んでいた為、私は不機嫌を露わにしてアレクサンダーに喰いかかった。


「アレクサンダー様まで・・・そんな事ありません!」

「それがシフォンの才能だろう。兄さんはそう思ってる」

「兄さん・・・才能って言えば何でも許されると思ってません?」


私の後ろでケラケラと笑っているロジャードを、自分の目尻を釣り上げて睨みつけながら言う。

しかし、ロジャードに私の睨みはあまり効き目がないのか、ヘラヘラとした様子でいつものように私の頭をゴワゴワと撫でた。


いつもなら撫でられても何とも思わないが、ブラックローズ帝国でのリリーとの光景が一瞬にして私の頭の中を駆け巡った。


その瞬間私の頭を撫でていたロジャードの手を払い落として、アレクサンダーの後ろに隠れた。


いきなり始まった兄妹喧嘩に目を丸くしたアレクサンダーの体を壁にするようにして後ろから覗き込めば、ロジャードは目を見開き唖然とした顔で私を見ていた。

その顔はあからさまなショックに歪んでいる。


「シ、シフォン・・・?な、なんで?何でなんだ?!?!」

「・・・」

「何で無視するんだ!!!頼むシフォン!せめて何か喋ってくれ!寂しいだろう!」


ロジャードは目を潤ませながら喚き散らし、手を震わせながら恐る恐ると言った様子で此方は近づいてくる。


私はそれから逃げるようにアレクサンダーの背中に隠れる。

そんな様子にロジャードは再びショックを受ける。


「シフォン!!!何で兄さんから避けるんだ!」

「・・・」

「せ、せめて無視しないでくれ!」

「ロジャードさん、何かしたんじゃないですか?あなた、ちょっと・・・アレですし」

「アレってなんだ!アレクサンダー!お前も俺と対して性格変わらないだろう!ブラックローズ帝国では普通だったのに!」


ロジャードはそう泣き叫ぶように言うが、私はアレクサンダーを盾にして考えていた。


リリーとロジャードが、もし恋仲にでもなれば。

私はリリーの事をお義姉様と呼ばなくてはならないという事?!

それは、なんか・・・凄く、微妙な感じがする。


いやでも、ロジャードとリリーがもし恋仲になって、結婚する事になっても、私もアクアと結婚してメピュア国を出てリキュア国で暮らす事になるから、あまり私は関係ないかもしれない。


まぁでもリリーは良い子だ。

爵位だけの令嬢をラピスラズリ家に迎え入れて、もしラピスラズリ家を破滅させるような事があれば・・・。


策士な一面がある父様も、少し感情の起伏が激しい母様も、私やロジャードを心から愛してくれている良い人達だ。


もしラピスラズリ家を破滅させてしまえば、一度暴落しかけた我が家を苦労しながらも、決して逃げ出さず生涯かけて復興させた爺様に申し訳が立たない。


だとすれば、変な令嬢を娶るよりもリリーとロジャードに恋仲になって貰った方がリキュア国に嫁ぐ私も安心だ。


そうなると、私はあまり兄と関わらない方が良いだろう。

リリーとロジャードの仲を引き裂く存在にはなりたくない!

そんなの原作のシフォンだ!


「兄さん・・・」

「何だシフォン!兄さんが何か悪い事したなら謝るぞ!」

「私・・・兄離れしますわ!!!」


「ハ・・・ハァァァァァ?!?!?!」


その日、兄さんの叫び声がラピスラズリ家に木霊した。

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