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嫌な予感は的中するもの!ですわ

私はメフィストと共にシュメッターリング城から戻り、無事元の城へと帰る事が出来た。


メフィストは「今回あった事を報告してくる」と言って私の部屋に送り届けた後、颯爽と去って行った。


今日一日で起きた膨大な出来事の疲労が、今になって押し寄せてきた。


肩は重く、足がズキズキと痛む。


でもそれ以上に私は精神的疲労の方が大きい事に何となく気づいた。


もう指一本すら動かしたくなかったが、いつまでもこの部屋の前で突っ立っている訳にもいかず、私が気合を入れ直して金色の装飾されたドアノブに手を伸ばし、ドアを開ける。


部屋の中に入れば、そこにはお湯を溜めた桶を抱えたランファの姿があり、ランファは私が帰った事に気づくとニッコリと微笑んだ。


「お帰りなさいませ、シフォンお嬢様。お疲れでしょう?簡易で申し訳ありませんが、足湯をご用意させて頂きました」

「ランファ・・・」


自分で自分の声の弱々しさに驚いた。


どうやら私は自分でも気づかない内に気を張っていたらしい。それがランファを見た瞬間、張りつめていた糸が打ち切られた。


子供が転んだあと、お母さんとかの顔を見て急に泣き出してしまうのと同じ原理なのかもしれない。


「ただいま、ランファ」

「随分とお疲れですね。慣れない土地でしたから、仕方ありませんが。あ、帽子とストールをお預かりします。」


そう言ってランファは帽子とストールを受け取り、クローゼットに仕舞った。


自身の着ている服を見下ろせば、身に纏っている黒色のクラシカルなワンピースに、靴。


この全てがブラックローズ帝国のものであり、メフィストがデザインしたものである事を思い出した。


「シフォンお嬢様がお出掛けになられた後、こちらのお城で働いているシルヴィさんという方がいらっしゃりまして。シフォンお嬢様が脱いだお洋服を届けてくださいました。その時今着ているお洋服は差し上げるとの事でした」

「全部?」

「はい。帽子からストール、ワンピースに靴も全部」


まぁ確かに、メフィストには姉や妹はいない。

この服はきっと私に着せるためだけにデザインしたのだろう。


だから返されても他の使い道がない。

だったらいっその事貰ってくれという感じなのだろうか。


あの男が単純な好意で服とか送るわけないし。

もし単純な好意だとしたら私は鳥肌が立つレベルで今着ている服を投げ捨てる。


そんな事を考えているとランファは支度が出来たのか「どうぞソファーに」と勧めた。


私はランファに言われた通り部屋に備え付けられたソファーに座ると、ランファは私の足元に跪き私のドレスの裾をお湯に浸からないように少しだけ上げると、桶に入ったお湯に私の足を浸ける。


「あったかい・・・」

「足が少しだけ張ってますね。シフォンお嬢様は乗馬はなさりますけど、あまり走り込んだりはしませんからね」

「乗馬で結構体力ある方だと錯覚してしまったわ」

「いえいえ、他のご令嬢に比べて体力ある方だと思いますよ。けど、慣れない靴で慣れない場所を歩いたので余計に疲れてしまったんでしょう。心と体は密接に関わっていますから」


ランファは私の足にお湯を掛けながら、優しく脹脛や足の裏などをマッサージしてくれている。


少し熱めのお湯とランファのマッサージが、足の先まで詰め切った疲れを解してくれているような感覚がした。


口から洩れる至福の息が、私が心底疲れていたことを教えてくれる。


そう言えば、リリーの姿が見当たらない事に気づき、私は周りを見渡した。


リリーはこの世界に来て、私の専属メイド見習いとしてランファが教育しており、ランファに付き従い私好みの紅茶の淹れ方を教わったり、掃除洗濯などの一般的な事もやっているようだった。


最後にリリーの姿を見たのはこの城について、挨拶の時にランファと一緒に荷卸しを手伝っていた時に横目で見たぐらいだった気がする。


「ねぇランファ、リリーは何処に?一緒じゃないの?」

「リリーは今、料理の手伝いをしています」

「成程ね・・・有難う、もう足湯は良いわ。随分楽になった」

「ではタオルをお持ちいたしますね。シフォンお嬢様、お腹の方は大丈夫ですか?もうすぐ晩餐会の時間ですが、もし小腹が空いていればクッキーか何かを」

「あー・・・いえ、大丈夫よ。その代り紅茶を淹れてくれるかしら」

「承りました」


ランファは一通り私の足を拭き終ると、桶とタオルを持って部屋を出て行った。


座り心地が無駄に良いソファーに背中を預けながら、心の中を縦横無尽に蔓延るこのモヤモヤの原因を私は探っていた。

何なんだろうか、このモヤモヤは。


不安というか、緊張とも違う妙な気分。


「なんか・・・嫌な予感がする」


私はそんな気分を追い払おうと、首を左右に振る。

そしてパンッと乾いた音を立てながら両手で自身の頬を叩く。


ジンジンと痺れる痛みが両頬を中心に広がっていくが、逆にこの痛みが心と頭をスッキリさせてくれる。


この後はランファも言っていたけれど、晩餐会。

一泊の予定だったから、明日の今頃にはきっともうブラックローズ帝国からは帰れているはず!


きっと普段と慣れない場所にいるからこうしてちょっと落ち着けないだけ。


嫌な予感とか言ってしまったけれど、所詮は予感。当たらない可能性の方が高いんだから。


「ランファの紅茶を飲んで、晩餐会に出て、湯あみして、さっさと寝てしまいましょう!」


嫌な予感が当たらない事を願って。











「はぁ・・・疲れた」

「お疲れ様でしたシフォンお嬢様」


無事晩餐会が終わり、私は自室でネグリジェに着替えていた。


少し離れた所でランファが脱いだドレスをクローゼットに仕舞っているのが見えた。


今回の晩餐会はお互いの親族のみの晩餐会で、ブラックローズ帝国の皇帝夫婦とメフィスト。

こちらは父様とロジャードと私の三人。


ニコニコと微笑みながら、ブラックローズ帝国での食事。美味しかったけど、緊張していたせいか全然食べた気にならなかった。


私が前世食事マナーとかをマスターしていなければ、大失敗していても可笑しくはなかったレベルで緊張した。


その後暫くお喋りをしていたけれど、リーゼロッテ王妃が「シフォンさん。大分疲れているようですわね、もうおやすみなさい」と気を使ってくださり、私は晩餐会の会場を後にした。


すぐさま部屋に戻って、私はランファに湯浴みの準備をさせた。


足湯も良かったけど、やっぱり全身お湯に浸かるのが一番気持ちが良いような気がする。


前世じゃお湯に浸かるなんて言う習慣が殆どなかったから、初めはちょっと驚いたけど今となっては一番大好きな時間かもしれない。


その後すぐ化粧水だのスキンケアを施して、水色の肌触りのいいネグリジェに身を包み、私はベッドの中に入った。


ランファが良く眠れるようにと入れてくれた蜂蜜入りのホットミルクを飲み干して、空のマグカップをランファに渡す。


「今日はお疲れですから、ゆっくりお休みくださいね」

「そうさせて貰うわ。お休み、ランファ」

「お休みなさいませ、シフォンお嬢様」


ランファはニコッと微笑みと、ベッド脇に置いてあるランタンを手に持ち部屋から出て行った。


私はベッドの中に潜り込み早く寝てしまおうと、目を閉じた。

もう体と精神が疲れ切っている事は分かっていたから、早く深い眠りに落ちてしまいたかった。


しかし、待てど暮らせど、全く持って眠りがやってくる気配がしない。

体は疲れているのに、脳が冴えてしまっているせいかもしれない。


目を閉じても、羊を数えても眠れない!

逆に羊を数える事に集中しちゃって、寝れる気がしない!


「寝れない・・・あぁ寝れない!」


私は少し大きい声でそう叫ぶと、ベッドから起き上がった。

そしてベッド付近の窓に視線をやった。


寝る前にランファが閉めてくれた紺色の厚い生地で作られたカーテンは、太陽の光さえも遮断してしまいそうな程だった。


私はベッドから降りると、覗くようにカーテンの少しだけ開けた。


その時私の目に飛び込んできた光景は、目を疑うようなものだった。


「あれは、リリーと・・・ロジャード?」


窓の向こう側は外で、良く見れば渡り廊下になっており、二人は何か喋りながら歩いているのが分かる。


流石に声までは聞こえないが、ロジャードが持っているランタンに照らされた二人の表情や酷く穏やかで時折照らされるリリーの頬は、ランタンの明かりではない赤さが滲んでいた。


え、え、え?

まさかのリリーは、ロジャードと・・・?


いやまぁ確かに、原作でもリリーとロジャードの絡みはあったけど、基本的にロジャードはリリーを苛めるシフォンを止める役割で、どちらかと言えばリリーはロジャードを実の兄の様に慕っていたような?


でも此処は小説の世界ではあるけれど、彼らからすれば現実の世界。


斬られれば血が出るし、病気になれば死んでしまう事もあるのだ。


そんな世界で私は色々と原作をぶち壊すような真似をしてきたから、どんな事が起こってもあまり驚かないようにしていたのだけど。


「ま、まさかロジャードとは・・・まぁ一番身近にいるイケメンってロジャードだものね」


気づいた時には既にロジャードとリリーは渡り廊下を渡り切っており、姿は見えなくなっていた。


私はヨロヨロと窓から離れ、倒れ込むようにベッドへ潜り込んだ。


あまりの出来事に頭が働かない。

本当に嫌な予感が的中してしまった。


でも、如何してこれが嫌な事なのか、私には理解出来なかった。

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