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闇の魔法!ですわ

メフィストと王の間に輝くステンドグラスを見つめていると、行き成りメフィストが勢いよく後ろを振り返った。


その手には何時の間にか漆黒の剣が握られており、その剣先は王の間の入口付近に向けられていた。


私も振り返ったが、そこには誰もいなかった。


「どうしたんですか?」と言おうと口を開きかけたが、私はメフィストの気迫に押され出掛った言葉を飲み込んだ。


ピリピリと肌を刺激する魔力の気配、血の様に赤い瞳は釣り上がり、その鋭い目付きは私には見えない敵を蛇の様に感知して睨みつけていた。


「シフォンちゃん」

「は、い」


メフィストは私の方を一切見ずに、私に声を掛ける。


私は恐る恐ると言った様子で返事をすれば、メフィストは警戒を緩めない緊張が滲んだ声を漏らした。


「怖がらせたらごめんね」


ただその一言だけを言うと、メフィストは剣を持っていた片手を強く強く握りしめた。


その力は剣の柄部分がメフィストの握力により、ミシミシと軋む音が私を耳に届くほどだった。


一体に何をしようとしているのか私には分からなかったが、握り締めている柄部分を中心に黒い霧のようなものが溢れ出し、何時の間にかその霧はメフィストの持つ漆黒の剣を纏う様に、剣を包み込んだ。


その時、私は初めて理解した。


これは、闇の魔法だ。

光の魔法を持つアンタークとは違う、光すら飲み込まんとする貪欲な力。


「『闇よ、暴け』」


そうメフィストが呟くと、闇を纏った剣を徐に地面へ突き立てた。


すると床と剣の衝撃音が王の間全体に鳴り響き、闇が波紋のように広がって行った。


しかし暫くするとその闇の波が、何かに当たったかのように避けて行く。まるで水が岩などにぶつかり割けて行くようだった。


そのような現象が3つほどこの王の間には出来ていた。


「みーつけたァ」


それを確認したメフィストは口元を深い三日月の形に作り上げると、彼の地の様に赤いの瞳と同じような色をした口腔が僅かに見えた。


その口元から洩れる息は、まるで悪魔の様に悍ましく見えたが、それを浮かべるメフィストの横顔は一つの絵画のように美しかった。


メフィストは床に突き立てていた剣を離すと、流れるような動作で剣で空を切った。


しかしその瞬間、剣に纏わりついていた霧のような闇が禍々しい腕のような形に姿を変えた。


その腕は3つ出来上がり、その3つの腕は闇の波が割けている場所に飛びかかる様に向かって行くと、腕は何かを掴むような形を取った。


すると、その腕は何かを吸い取っているようだった。


暫くその様子を見ていると、何もいなかった場所に三人の人間が姿を現した。


闇の腕は三人の人間の首を鷲掴みにしていたらしく、三人の体は宙に浮き足は爪先が着くか着かないかぐらいの高さに持ち上げられていた。


呼吸する部分を押さえつけられているのか、三人は酸素を求めてもがき苦しんでいるようだった。


そのもがきにより、三人の顔を隠していたマントのフードがパサリと落ちて、三人の素顔が見えるようになったが私は彼らの顔を見た瞬間ゾッとした。


彼らは既に人間の顔をしていなかった。


その頬は痩せこけ、肌は薄い青緑色に変色していた。そして彼らの目玉は飛び出しており、その瞳の焦点も正しくあっていない様だった。


闇の腕から逃れようともがくその腕は、枯れた木の枝の様に細くまさに骨と皮だけになっていた。その腕の皮も顔の色と同じように薄い青緑へと変色していた。


メフィストは剣を仕舞うと、ゆっくりと人間の姿からかけ離れている者達に近づいて行く。


「シフォンちゃん、ごめんね。気味が悪いでしょ?これが大した魔力も知識を持っていないのに、黒魔術へ手を出した者の成れの果てだよ」

「くろ、魔術・・・?」


私は震える体に鞭を打ってメフィストの元へ駆けより、彼の声に反応した。


メフィストは此方を見ずに、その目線は黒魔術に手を出したとされる人間たちに向けられていた。


私もメフィストの目線の方に目を向け、悍ましい姿に成れ果てた彼らの方を見た。


「悪魔と契約して、他人を傷つけたり自身の欲望を満たす為の力だよ」

「その、成れの果てが彼らだと・・・?」

「ただの悪魔ならこうはならなかっただろうけどね・・・あいつ等、邪神に手を出したようだよ」


そういうメフィストの瞳と声は何処までも冷たい。


確か、ここに来る時ラムから「最近ブラックローズ帝国では怪しい魔術が横行している」と馬車の中で言っていたことを思い出す。


そしてメフィストが偵察の時に話していた事を思い出す。


『黒魔術が、本当に魔術として成立しているのか。それとも所謂一種の願掛けみたいなもので、確実に成立していないものかもしれない』

『噂を確立させたいんなら、人々が噂したくなるような事実を見せつける必要がある』


本当に黒魔術は成立していた。


人々が噂したくなるような事実。

人々が噂したくなるような力。


この国で魔力は持つ者は限られる。


それは、王家の人間かその王家の血を惹く貴族。

しかし見た限り、彼らは王家の人間でもなければ、貴族の人間でもないみすぼらしい格好をしている。


つまりこれは、魔力を持つ王家や貴族たちの仕業ではない。


「考えたねぇ・・・悪魔と違って邪神の召喚に魔力は必要ないものね」

「メフィスト様、その邪神というのは何なんですか?」

「うーん・・・分かり易く言えばその名の通り邪悪な神。人々に災いと不幸をもたらす存在。どうやら今流行っている黒魔術は悪魔じゃなくて、邪神の力を借りた物らしい。けど、邪神に人の願いを叶えるなんて力はない」

「え?」


「違う!!!」


メフィストがそう断言した途端、闇の腕に首を掴まれ苦しんでいた人間が目の色を変えてメフィストを睨みつけて叫んだ。


それと同時に同じく掴まれていた人間も目の色を変えてメフィストを睨みつけていた。


その目には確実な敵意が含まれていたが、メフィストは気にしていない様だった。


メフィストのそんな態度が癪に触ったのか、最初に違うと断言した人間は喚き散らし始めた。


それに反響するように他の人間も叫び始めた。


「あのお方は我らに力を与えた!」

「あのお方の力は強大なのじゃ!貴様らのような飯事のようなちんけな魔力とは違う!」

「そのちんけな魔力に身動き封じられてるんだけど君達」

「黙れ!我らを虫けらのように軽んじる貴様のような奴の言葉など我らには聞こえぬ!」

「会話できてる時点で聞こえてるじゃんもう・・・」


メフィストは辟易とした様子で彼らを見つめていた。


どうも彼らの様子が私には可笑しいように見えた。

まるで盲信しているような、狂気に陥っているような、理性と冷静さが欠けた行動だ。


「どうやら撹乱しているようだね」

「撹乱?」

「邪神を召喚した時に精神も一緒にやられちゃったんだろうね。今の此奴らは真面じゃない。一般的に悪魔は人間の魂や肉体をエネルギーとしているから、相手の望みを叶える代わりに魂や肉体を代償として奪って行く。けど、邪神には生贄とか魂とか必要ない。だから捧げられても無意味だし、人間の願いなんて叶えちゃくれない。まぁそれは邪神じゃなくても一般的に慈悲深いとされる神にも当てはまる事だけどね」

「でも、彼らは力を与えてくれたって・・・」

「恐らく邪神を召喚した時に精神をやられて、そう思い込んでいるだけ。実際は何の力も持たない平民だよ」


そうメフィストは手品の種明かしをするかのように話す。


「でも、姿消せてましたよね?私、見えなかったです」


私が疑問に思った事を問えば「あぁそれはね?」とメフィストは彼らが纏っているマントを手に持ってヒラヒラと動かした。


「姿を消せていたのは、この魔道具であるマント。けどこれは偽物で姿を消せても、魔力を持つ人間からすれば丸分かりなんだよ。ほら物語とかで透明マントって聞いた事ない?」

「あーなるほど・・・つまり彼らが今着ているマントは透明マントの模倣品?」

「そう。だから僕の闇の魔法で透明マントに使われていた魔力を吸い込んだ。今じゃこれはただのダサいマントだ」


「けど」そうメフィストは言うと、仕舞っていた剣を取り出し一人の人間の首元を剣先を向けた。


「実行犯は君達じゃないね・・・透明マントは所謂非合法の魔道具。普通の平民が手に入れられる物じゃあない。しかも悪魔じゃなくて邪神に手を出したと言う事は、恐らく怪しい魔術組合(ギルド)じゃなくて、宗教団体だろうね」


そう淡々と話すメフィストの瞳は、一切の慈悲などを捨てていた。


何処までも冷徹で冷静な瞳は、先程まで叫びまわっていた彼らの口を封じる程の威圧感を含んでおり、何時の間にか彼らはガタガタと体を震わせ、ただでさえ人間を辞めた薄い青緑色の肌はますます青くなっていきなお気味悪かった。


「あ、ぁ・・・」

「実は、最近怪しい宗教団体が謎の儀式をしていると言う話が上がって来ていてね。怪しい黒魔術に怪しい宗教団体。二つも事件が重なって大変だったが・・・手間が省けそうだ」

「ち、違う!!!」

「違っても構わない。その宗教団体を調べる大義名分が出来たのだから。もし違ったとしても宗教団体の件は片が付くし、その後はじっくり黒魔術の件について調べる事が出来るだろう」


喉を鳴らして笑うメフィストは、傍から見たら魔王のようだった。


するといきなりメフィストは彼らの首元を掴んでいた闇の腕を切り落とした。


掴まれていた三人は地面に叩きつけられ、苦しそうに咳をしていた。


「まぁ今回は大した被害もないし、目を瞑ってあげよう・・・さぁ行くと良い」


メフィストが見下ろしながら地面に倒れ込んでいる三人を睨みつけると、三人は喉の奥から小さな悲鳴を一つ漏らすと、我先にと王の間を転がる様に出て行った。


そして王の間には私達だけが残されていた。


「どうして彼らを逃がしたんです?」


私が不満げにそう聞けば、メフィストはニッコリと何時ものような胡散臭い笑みを浮かべて此方を見た。


()()逃がしただけだと思う?」

「・・・まさか」

「彼らはきっと根城に帰る事だろう。僕に詰め寄られても違うと否定して見せたから、忠誠心はそれなりのものだろうし、あの見た目じゃどこにもいけない。彼らは根城に帰るしかない。彼らには、僕らをその根城に案内する役目を担ってもらおう」


そう言うとメフィストは両手を胸元に差し出すと「『闇よ、姿を現せ』」と呟いた。


するとメフィストの手から黒い泥のような物が溢れ出し、それは姿を変えていき、気づくと黒い仔犬が三匹メフィストの両手に乗っかっていた。


「か、可愛い・・・」

「さぁ行って。頼んだよ」


私が思わずそう呟くと、メフィストは小さく微笑むと、黒い仔犬にそう呼びかける。


黒い仔犬たちはそれに答えるように「キャンッ」と吠えると、メフィストの手から飛び降りて走り去り、何時の間にか暗闇に消えて行った。


「あの仔犬は・・・メフィスト様の魔法の一つですか?」

「正解。あれは標的の影に潜んで、僕らを彼らの根城にまで案内させる事が出来るんだ。あとシフォンちゃんにも」


メフィストはそう言うと、もう一匹黒い仔犬を生み出した。


そしてメフィストはステンドグラスの光によって生み出されていた私の影にその仔犬を投げ入れた。


仔犬は私の影に飲まれ、姿が見えなくなった。


「どうして私に」

「シフォンちゃんは帽子を被っていたとはいえ、顔を見られてる可能性がある。もしかしたら宗教団体が逆恨みとしてシフォンちゃんを誘拐する可能性がある。これはその時、シフォンちゃんをすぐ見つける事が出来るようにするための保険」


そしてメフィストは「さぁもう帰ろう。疲れただろう」と言って私を手を取り、王の間から出て行こうとした。


私も素直に従い、王の間の後にした。

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