ヒロインの定義!ですわ
「さぁいらっしゃい!」
そう意気込んだ瞬間、晴天の空に急に眩い光が差し込んだ。
まるで全てを照らす太陽の光が、その時だけその一か所だけを照らし道を作っていた。
その道を進む者が迷わない様に。
まるで女神が降臨するかのように。
どうやら落ちてくるリリーは空が味方する程の人物らしい。
嫌われ者の悪役令嬢の私は、家の図書室でこの世界に招待されたというのに、随分と待遇の差があるみたいね?
いや、こんな事考えてるから嫌われ者の悪役令嬢として再び目覚めてしまうのだろう。
「でも、さすがに目立ちすぎじゃない?」
苦笑しながら悪態付くと、クロエの手綱を引いてゆっくり近づいた。普通の馬だったらこんな超常現象に怯えて暴れ、逃げ出してしまうだろう。
しかし、さすがロジャードが選んだ馬で、私の相棒の黒馬であるクロエは動じていない。そんなクロエの首元を優しく撫でると、嬉しそうに鳴いた。
しばらく眩くて見えなかったその光に導かれる者は、だんだんその姿を現してきた。
一人の少女が怯えるように体をまるめ、真っ直ぐ私のいる開けた湖の畔へ落ちてきた。
本来ならここは、この物語の主人公であるアンタークの出番だったが、申し訳ないけどそんな悠長な事言っている場合じゃない。
そう、これは私の人生が掛かっているのよ!
そう簡単に渡しちゃ堪らないわよっ!全力で抗って見せるんだからね!
その為に私は、乗馬やら男装やらアンタークと婚約しないようにアクアと婚約したんだから!
今更逃げるなんて事はしたくない!人生ハードモードは前世だけで十分なのよ!
大丈夫よシフォン!貴方なら出来る!リリーを受け止める事が出来る!
「きゃあああああああ!!」
女性特有の金切声をあげながら落ちてくる、リリー。
そんなリリーを私はしっかりと受け止めた!
あ、意外に重い・・・いや男の人だったら軽いって感じるのか?
しかし頭の中で必死にイメージトレーニングした甲斐があった。私の腕にすっぽりと収まったリリーは、女性の私から見ても美少女だ。
勿論小説に出てくるシフォンも中々の美少女だと小説では書かれていたが、小説ではアレクサンダーから「顔以外取り柄のないお嬢サマ」とまで言われていた。
けど、やっぱりヒロイン加工という物が物語の鉄則で、めちゃくちゃ柔らかいし良い匂いがする。
これが所謂ヒロイン贔屓というやつだ。
前世で山ほどこういう物語を読んできた私だからこそ分かる。
やっぱりヒロインというのは助かったり、ハッピーエンドになるのが作者も読者も望む結末などだろう。
私のような悪役令嬢は一回危険なフラグが立つと、殆どの確率でバッドエンドだというのに。
そんな事をグルグル考えていると、私の腕の中ですっぽりと収まっていたリリーがゆっくり目を開けた。
思っていた衝撃が来ず、ビックリしているのだろう。
まぁ死ぬと思ってたら死なないんだから、そりゃあビックリするだろう。
綺麗な瞳をパチパチさせながら慌てている様子もめちゃくちゃ可愛い。
まったく、ヒロインというものは・・・。取り敢えず、話しかけてみるかな。
「平気?」
「あ、はい・・・あの、えっと」
「落ち着いて。何処か痛い所は?」
「な、ないです!」
うん、可愛いソプラノの声だ。
ヒロインの名にふさわしい。取り敢えず怪我はしてないようで良かった。
クロエから降りると、リリーを下ろしてあげた。
茶色の素朴なジャンパースカートに身を包んだリリーは心細そうに辺りを見渡し、恐る恐る私の方を見た。
「助けてくださり、有難うございました!あの、私リリー・アモントと言います!」
「リリー・・・私はシフォン・ルルーレ・ラピスラズリ。ねぇリリー、貴方空から降ってきたのよ。何か覚えてる?」
「し、信じては貰えないとは思いますが・・・白く輝く本を開いたら、その光に呑みこまれ気づいたら落ちていました」
はい、小説と同じような答え方した。
まぁそこまでは予想通りだ。
けど、あまりゆっくりしている暇はない。
急がないとロジャードやアンターク、そしてイレギュラーだったアレクサンダーが此方へ来てしまう。
リリーの存在もそうだけど、この男装している格好を見せたくないと言うのが本当の所だ。
取り敢えず、リリーは不安そうにしているし・・・。
計画通りラピスラズリ家の屋敷で働いてもらうというのが一番無難ね。
「信じる信じないは後にしましょう。リリー、貴方この世界じゃ身寄りがないでしょう?私の屋敷で雇ってあげるわ。衣食住全て保障してあげる」
「ほ、本当ですか・・・!」
「えぇ勿論。私、こう見えても公爵令嬢だから」
リリーは水色の瞳をキラキラと輝かせて私を見つめていた。
まったく、その純粋無垢の瞳で一体どれだけの男がリリーに惚れていったと思っているのか。
少なくともこの国の王子五人を虜にするんだぞ。
こういう女をランファの国では『傾国の美女』というらしい。
確か国すらも傾けさせてしまう程の魅力を持つ女の事言うらしい。
まぁ基本的に、そういう傾国の美女は悪女が多いらしい。
「一生懸命働きます!シフォン様!」
「心配しないでリリー。きっと貴方を元の世界に戻してみせる」
「シフォン・・・様」
あれ?なんかちょっと頬染めてない?
え、リリーもしかしてソッチ系じゃないよね。
物語の中では、アンタークと結婚してハッピーエンドだったし・・・。
まぁ行き成りよく分からない世界に飛ばされて来たら誰だって不安だろうし、安心できる人に縋りたいっていう気持ちは分かる気がする。
取り敢えず一時の気の迷いだろうし、何より私には婚約者のアクアがいる。
ソッとしておくのが一番だろう。うん。
しばらく様子見をしよう。
「一先ず私の屋敷へ向かいましょう。色々この国についてとか、貴方について教えて欲しいの」
「勿論です!」
よし、さっさと帰ってしまおう!
あ、ロジャードはどうしようか、早く決断しないと嫌な予感がする。
そうモヤモヤ色々考えながら、リリーを後ろに乗せようとしていると決断が遅かったのか、嫌な予感が的中してしまった。
「おーいシフォン!大丈夫か?!」
「シフォン嬢!」
「おいおい何だ何だ?今日は凄い美男子だなぁ!シフォン!」
上からロジャード、アンターク、アレクサンダー。
面倒くさい三人組みだ。
アンタークとロジャードは心配してくれてるようだけど、アレクサンダーお前は違うな。
褒めてくれるのは嬉しいけど。
もっと早く移動していれば良かった・・・!
リリーは急に現れた三人組に驚いたのか、私の後ろに隠れてしまった。
「シフォン嬢・・・その姿は」
「・・・色々ございまして」
「色々」
「えぇ、色々」
聞いてくれるなと言いたげに笑みを浮かべると、私が答えるつもりがないという事を察したのか、アンタークは苦笑いしてこれ以上深く話を掘り下げてくることなかった。
アレクサンダーも空気を読んだのか、私の格好より私の背中に隠れているリリーに興味が行ったようだ。
「ところでシフォン、そちらの御嬢さんは?さっきの光と何か関係あるのか?」
ロジャードは心配そうな顔をしながらそう聞いてきた。
心配してくれるのは有り難いが、一先ず彼らにも説明していく必要があるだろう。
私は小さく咳払いをし、リリーの名前と、リリーと光の関係、そしてリリーを我がラピスラズリ家で雇う事にした事を簡潔に、そして短く説明した。
アンタークたちは終始信じられないという表情をしていたが、今私の背中に隠れているリリーの様子を見ると、どうやら嘘ではないと思ったのか、半信半疑で納得したようだった。
「話は大体分かりました」
アンタークがその場を仕切る様に発言すると、私の目を見ながら言った。
「些か信じられるとは思いませんが、シフォン嬢の説明は筋が通っています。何より我々三人と他の兵士たちもあの光り輝く物を見ました。それは変えようのない事実と言えます。けれど、リリー嬢の存在はあまりのにもこの国の理解を超えた異質・・・それでもシフォン嬢はリリー嬢を屋敷に連れて行きますか?」
「当たり前です」
まるで試すように論すアンタークに、私は凛とした声で肯定した。不安そうにしていたリリーは、私の発言を聞いて安心したように私を見た。
8歳の頃に記憶に目覚めた時、私はこの日の為に考えに考え抜いて計画を練ってきたのだ。
今更引き返せない。
私はリリーの事を、リリー以上に知っているといっても過言ではないだろう。
「・・・分かりました。アレクサンダー、ロジャード、そしてシフォン嬢。この事は我々の中での秘密にしましょう。リリー嬢の存在が公になれば国際問題になりかねませんから」
「異議なしだぜ。まぁ様子を見るにリリーがシフォンに害を与えるとは考えにくいしな」
「シフォンは同性の友達少ないから、いい機会だと思うぜ」
「余計なお世話よ、兄さん」
面倒な三人組だけど、理解のある聡明な人達だという事を忘れていた。
これがメフィストとかだったら、絶対面倒臭い事になっていただろうけど。
「所でシフォン、リリーの事はどうするんだ?」
「一先ず私が引き入れたので、責任もって私が世話を見る。ランファに面倒を見させて、私専属メイド見習いにするわ」
「おーおー、用意周到なことだなぁ」
兄さんは笑うと、私の頭を乱雑に撫でた。
はぁ・・・これから大変な事になりそうだ。




