いざ出陣!ですわ
「いざ出陣!」
「どこの戦場にいくつもりだよ、シフォン」
「何でいる」
愛馬であるクロエのいる馬小屋で、リュミエール湖に向かおうとしていた所、面白いものを見つけたかのような笑みを浮かべながら此方を見ている兄さんの姿を確認。
どうしているの、兄さん。
貴方は今確か剣技の訓練中ではなかっただろうか。
だから私はロジャードに見つからない様に、コッソリ馬小屋にやってきたというのに・・・。
何処で嗅ぎつけて来たのか、疑問が絶えない。
「今更俺様に剣技の訓練なんて必要ねぇって言えば分かるか?」
「・・・サボったの?」
「そういう事!話が早くて助かるぜシフォン。それで?俺は答えたが、お前は俺が何処に行くのかっていう質問に答えてねぇぜ?」
うわ、なんて嫌な男。
話しずらして、リュミエール湖に向かおうと思ったのに、本当に抜け目のない男だ。
・・・正直に言って、ロジャードにアンタークを足止めしといてもらう事は出来ないだろうか。
そうすれば、私の姿はそんなハッキリ見られないし、ラピスラズリ家の位も傷つけずに済むかもしれない。
使える物は、使わなくては・・・。
「・・・リュミエール湖に行くの」
「はぁ?お前その恰好でいくのか?それに今はやめとけ。昨日言っただろうが、今日はアンターク王子がリュミエール湖を乗馬するって」
「それでも行きたいの!いいえ、行かなきゃならないの!」
そう必死に伝えれば、ロジャードは困ったような顔をしながら綺麗な銀色の髪の毛を乱暴に掻くと、仕方ないと言いたげに笑った。
相変わらず、ロジャードは理解が早くて助かる。
「ったく俺の我儘な御姫様には困ったもんだぜ」
「でも、好きでしょう?」
「ッッ・・・どこでそんな男落としの技覚えて来ちまったんだよ。お兄様は心配だ」
ロジャードは少し照れたような表情を見せたが、どうして照れたのかは私には分からなかった。
というか、そんな事は如何でも良い。早く行かなくてはリリーが落ちてきてしまう。
「それにしても、勢いで付いて来たがどうして急にリュミエール湖へ行こうと思ったんだ」
「・・・それは」
「シフォン」
ロジャードも自分の愛馬に跨りながら、言い淀む私にしっかりとした目で見つめてきた。
どうやら嘘は通じないらしい。
けど、もしここで本当の事を話してしまうのは駄目だ。
説明するのが面倒くさいっていうのもあるけど、第一信じて貰える可能性のほうが低い。
頭のおかしい奴だと思われる。
唯でさえ、婚約者が他国の王子だったりして他の貴族から目付けられてたり、他の令嬢とは違う趣味嗜好をしているからメイドや執事からは奇怪な者のような扱いを受けているのだから。
それに前世とか『リリーと魔法の王子達』とかいうわけの分からない小説の世界とか言い出したら、もう本当に医者を呼ばれてしまう。
それだけは絶対にダメだ。
絶対に阻止しなければならない!私の脱・悪役令嬢生活の為に!
「・・・内緒にしてくれる?」
「勿論だっつの」
「実は・・・この間リュミエール湖へ散歩に行った時、子猫連れの猫を見つけたんです」
「猫ぉ??」
「えぇ・・・でも屋敷に者に猫アレルギーの人がいて、連れて帰る事が出来なかったから、餌や毛布を持って居て、リュミエール湖で面倒を見ていたの」
適当な話だ。出鱈目だ。
屋敷に猫アレルギーの人がいるなんて知らないし、そもそもリュミエール湖に猫がいるとかも分からない。
取り敢えず私が頭のおかしい人間ではない事、そしてリュミエール湖に行く理由を説明しなければならない。
「じゃあなんて今日なんだ?」
「・・・それは行きながら話すよ」
そう言えば、馬の手綱を操り家の者がいないかどうか確かめて、ラピスラズリ家の屋敷から飛び出した。
馬を走らせながら、ロジャードと並行しリュミエール湖を目指した。
「明日!嵐が来るっていうの知ってる?!」
「あぁ!そういう事か!」
「えぇ、まだ子猫たちは生後3か月ぐらいなの!嵐が来たらとんでもない事になるわ!だから保護しようと思ったの!」
馬に乗っている為普通の声じゃ聞こえない、だから声を張り上げる必要がある。
普通の令嬢なら大声を出すなんてはしたないとか言うだろう。
なのに大声でキャハキャハ笑うのは反比例してない?とは言ってはダメだ。
確実に殺される、貴族社会的に。
私も前世、そんな事を言ってきた平民上がりの少女にそれはきつーくきつーくお仕置きしたものだ。
今思えば本当にそうとか思えない。
ごめんなさい、前世のあの御嬢さん。
しばらく馬を走らせていると、リュミエール湖が見えてきた。
馬を止めて見渡すと、遠くの方に少数の護衛とアンタークに・・・あれは、アレクサンダー?!
どうしてアレクサンダーとアンタークが一緒にいるの?!
小説内ではアンタークだけのはずだったのに。
いや、前も確か小説の中では出て来なかったアクアの姉、ルージュが出てきていた。
多少のイレギュラーがあっても、可笑しくはないのかもしれない。
「おーありゃあアレクサンダーに、アンターク様じゃねぇか」
ロジャードも気づいたのか、そう呟いた。
相変わらずロジャードとアレクサンダーは師弟関係にあるため、敬称なしのようだ。
まぁ勿論、それはプライベートの場合のみだが。
さすがに公の場で敬称無しは不敬罪と思われても仕方ないしね。
「兄さん、ここまでついて来てもらって悪いんだけど、子猫を産んだばかりの猫って凄い警戒心が強くて、兄さんが来たら驚いてしまうかもしれないから・・・・」
「それもそうだな・・・じゃあ俺はここで待ってるから・・でもどうするつもりだ?屋敷には持って帰れないぞ」
「あー・・・それは何とかします!兄さんは、アンターク様やアレクサンダー様が猫の方に行かない様、時間を稼いでください!」
「あ、コラ!!」
無理やり話を切り上げると、私はクロエの手綱を引きリュミエール湖の林の方へ走って行った。
確か小説では、アンタークとリリーが出会うのは開けた湖の畔だという。
リュミエール湖はそんなに大きな湖ではなく、地図でチェックした結果開けた湖の畔へは馬で走らせて5,6分だという。
開けた部分なため、もしかしたらアンタークやアレクサンダー、ロジャードにリリーが落ちてくる所が見られてしまうかもしれない。
だとしても、私がリリーを抱き止めない事には、アンタークかアレクサンダーの元へリリーが行ってしまう・・・。
何より、私は今令嬢とは思えない中性的な格好をしているから遠目からでは間違ってもシフォン・ルルーレ・ラピスラズリ公爵令嬢だとは思わないはず!
小説通りならアンタークたちは此方へ来てしまうが、ロジャードに足止めを頼んでいるから少しは時間をずらす事が出来るだろう。
クロエは走らせて、何とか湖の畔にやってくると馬を降り辺りを見渡した。
本当に明日嵐が来るのかしら?
そう思ってしまいそうなほど、よく晴れた日。
これが賊に言う嵐が来る前の静けさというのかしら、湖には魚がいるらしいがその面影は一切ない。
リリーが来る事を暗示しているのか、それとも嵐の到来か、それとも別の何かか・・・それは分からない。
分からないけど、怯えていては始まらない。
怯えていれば、小説に出てくる悪役令嬢シフォンと同じような結末になってしまうかもしれない!
それは絶対阻止しなければならない、阻止しなければならない!大切な事だから何回でも言うけれど。
この日に備えて、私は何度も何度も計画を練って、練って、練り込んできた。
リリーを保護して、我がラピスラズリ家でメイドとして面倒を見る!絶対王子達には会わせない!
そして適当な商人の良さそうな男をリリーを出会わせ、幸せに暮らさせるのだ!うん!
「さぁいらっしゃい!リリー・アモント!」
このシフォン・ルルーレ・ラピスラズリがお相手するわ!




