兄さんからのプレゼント!ですわ
「・・兄さん、これって」
「見て驚け!!俺からお前への誕生日プレゼントは!この闇の様に黒い馬だ!」
闇に染まってしまいそうな程、黒毛並を持つその馬は月明りに照らされて美しく佇んでいた。
優しそうな黒い瞳は、私の事をただただジッと見つめていて、何処か心を覗かれそうな気分になった。
「とても、綺麗・・・」
「そうだろう?お前の為に、あっちこっちの馬を売ってる業者に掛け合ってな、大人しくて尚且つ美しい馬を見繕ったんだよ。しかも力強いんだ!こんな良い馬は早々ないって馬売りの親父も言ってた」
アンタークや、アレクサンダー、ウィルにアクア、そしてメフィストからのプレゼントもまだ見ていないがきっと素晴らしい物なんだろう。
きっと、多くの令嬢たちが望むような素晴らしい物を。
けど、私の中で一番欲しくて心を打つのはこの美しくも力強い、この馬だった。
『リリーと魔法の王子様』に出てくるシフォンが馬なんて貰ったら、絶対憤慨していた事だろう。
いや、前世の私だって馬なんて貰ったら激怒していただろう。
『この高貴の私に馬ですって?!』とか言って、送ってくれた人に対して怒鳴り散らしていた。
私もこの数年で、本当に変わったような気がする。
8歳の頃に自分が前世読んでいた物語に出てくる悪役令嬢のシフォン・ルルーレ・ラピスラズリに転生しているなんて、前世の私だったら考えもしなかっただろう。
しかも、私はシフォンと同じく所謂悪役令嬢だ。
元悪役令嬢の私が、再び悪役令嬢に転生するなんて神様という物がいるのであれば、その神様はとんでもない悪戯好きで性格が悪い。
いや、これは前世してしまった罪への罰なのかもしれない。
そう思うと私は神に自信満々な笑みを浮かべたくなる。
神は前世の自分を思い出させて苦労させたかったのかもしれないが、そんなに可愛い性格じゃないという証明だこれは!
案外強かに生きているような気がする・・・。
「有難う兄さん。とっても嬉しい!あぁなんて綺麗なの」
「はっはっはっ!俺も最初、お前が乗馬したいなんて言われた時は驚いたが、ここ数年で本当にうまくなった。乗馬をする令嬢。面白いな」
「でしょう?そうだ、兄さん。この子に名前はあるの?」
「いーや?こいつ雄だからな、お前が好きなように名前を付けると良いさ」
「そうね・・・ごめんなさいね。一日待ってくれる?これから貴方と私は相棒になるのだから、しっかり意味を含めた、素敵な名前を貴方に送りたいの。良いかしら?」
そう私が聞けば、まるでこの馬は人間の言葉が分かるかのように鳴いた。
あまりのタイミングの良さに、まさか彼は人間の言葉が分かるのではないかと思ってしまい、思わず兄さんと顔を見合わせて笑った。
「そうかそうか、此奴は人の言葉が分かるんだな」
「そうかもしれないわ。なんて賢いのかしら!」
「取りあえず、俺は此奴を馬小屋に連れて行くから、シフォンは会場に戻れ」
「あら兄さん。私も行くわ」
「駄目だ。今日のパーティーの主役はお前なんだぞ?主役のシフォンが何時までも行方不明になってるわけにもいかないからな。ほら、また明日会えば良い」
「・・・うん、わかった。じゃあ兄さんまた後で。そして本当に素敵なプレゼントを有難う!」
そう兄さんに感謝を伝えると、兄さんは何処か照れくさそうに笑うと、これから私の相棒となる馬を手綱を引いて馬小屋へ向かい、私は小走りで会場へ戻る事にした。
会場に再び戻ると、多くの人達がやはり私の事を探しているだろう。
そして、何処に行っていたのかと聞かれてしまうだろう。
しかし、母様と乗馬の練習をする許可を貰うとき、他の人には内緒という条件で許可して貰っていた。
今ここで兄さんに、馬をプレゼントして貰ったと正直に言ってしまえば、何故馬を貰ったのかと聞かれその理由を答えるには、乗馬をしている事を告げなければならない。
もし周りにバレてしまえば、きっと母様はカンカンに怒って乗馬をする事を許してくれないだろう。
なんて答えようか、悩んでいる内に会場へ到着してしまい会場へ入ると、私を見つけたアクアが此方へ向かってきた。
「良かった、何処に行ったのかと・・・」
「ごめんなさいアクア様。少し疲れてしまって、夜風に当たっていましたの」
「そっか。もう大丈夫?・・いや、別に君の事を心配している訳じゃないけどっ」
「うふふ・・ご心配有難うございます。大丈夫です」
相変わらずアクアは、少し素直じゃない所がある。
けど、その言葉の前に、明らかに私を心配していると思われた発言だし、何より彼の行動から見ると、私に対する警戒心は無い様に見える。
じゃあ何でそんな素直じゃないのか・・・まぁそこも物語の特徴なのかもしれない。
その後、アクアとダンスを踊ったり流れでウィルとダンスを踊り、その後アレクサンダー、アンタークに続き何故か知らないがメフィストとも踊る事になった。
優雅な音楽に合わせながら、闇の王子と言われるメフィストと踊るのはある意味精神が削られる。
もしヒールで足でも踏んでしまったら・・・いや、ない。
そんな事絶対にありえないから。
闇を思わせる黒いスーツも、メフィストにはとても似合っていて、今日やってきた令嬢からは小さな歓声が度々聞こえる。
一寸待て令嬢よ、お前達私の誕生日を祝いにやってきてくれたのではないのか?
そんな令嬢達の歓声を受けているメフィストの顔を、盗み見るとやはり整っていると思う。
私の視線に気づいたのか、メフィストは私へ目線を下ろした。
まるで血の様に赤い瞳を細めて笑うメフィストは、相変わらず本心が読めない笑みだ。
「なぁに?そんなに見つめないでよシフォンちゃん。照れちゃうよ」
「何をおっしゃいますか。貴方の顔から照れるなんて感情、私には読み取れませんわ」
「ふふっ褒め言葉として受け取っておくよ。僕の国じゃ、感情を読み取らせた方が負けだからね」
「あらやだ、怖いですわ」
「・・・僕からしたら、君も全然感情が読み取れないよ?僕と君は、何処か似てる」
この男、相変わらず食えない男だ。
心の底まで見透かすような、赤い瞳が私は何処か怖くて苦手だったのだ。
というか、私とメフィストが似てる?どうして彼はそんな風に思うのだろうか。
「まぁ何時か気づくだろうさ。そう言えば、今度君僕の国来るんでしょう?」
「えぇ?!」
「その反応じゃ、シフォンちゃん知らなかったんだ。良い国だから、良かったら引っ越しても良いよ?それとも僕のお嫁に来る?」
「結構です!」
そして、私の誕生日パーティー終了後、私は父様の所に急いで向かった。
待って待って待って!私、ブラックローズ帝国に行くの?え?なんで?そんな疑問が頭の中を過る。
もし国同士の視察なのであれば、私が付いて行く必要だって・・・私何かした?
そんな不安を胸に私は父様に話を聞くことにした。
父様がいうに、今回の視察は父様と次期当主である兄さんの二人で行うはずだったのだが、だったらせっかくだし私も連れて行こうとの話になったという。
何故?そう聞けば、兄さんが寂しいとの一点張りだったという。
おいおい、兄さん。シスコンも行き過ぎなような気がするのは気のせいだろうか?何故父様は止めなかったのか!
聞けば、下の者を可愛がりたくなる気持ちが分かったとの事だ。
分かった、父様もブラコンだな絶対。
絶対自分の弟可愛がってただろう。
そして、分家を作った理由が何となく分かった。
それは、当主争いで弟を危険に晒したくなかったからだろう。
弟想いと聞けば聞こえはいいが、過保護すぎるのも考え物だろうと私は思った。
私を支えてくれたランファは、もういない。
幼少期から私の傍にいてくれたのは、とうとうラムだけになってしまった。
16歳になった今日。ようやく物語がスタートする。
「負けないわ!!来るなら来なさい!・・・あ、やっぱりちょっとまだ心の準備が」
そう私は情けない言葉を零しながら、眠りについた。




