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最後の日と最初の日!ですわ

ウィルとは婚約者にはなれなかったが、主人公枠であるアンタークの婚約者になる事は阻止できた。


婚約者であるアクアとは文通を通して仲良くやっているし、ついこの間もお茶会をした。


義理の兄であるロジャードとは、小説のシフォンとは違い良好の仲を保っている。


ウィルともアクア繋がりで仲良くなり、家族と温泉旅行に行く事も計画中だ。


母様に許しを貰って、乗馬を習いリリーがいつ落ちてきても抱き止める事も出来る。


新しい友人であるエリザベートとは、愛称であるエリザと呼ぶほど仲良くなった。


順風満帆と言っても良い出来栄えだ。

唯一の問題は、私が一番危惧している人物メフィストと予想外にも早く出会ってしまった事。


小説内では、あのお茶会で出会うのはアンタークだけで、お茶会ではシフォンとアンタークの婚約発表の場でもあった。


そしてアレクサンダーとは、そのお茶会に招かれて知り合うという設定だ。


メフィストとシフォンの出会いは詳しくは書かれてはいない。


しかし、記憶を手繰り寄せると微かな記憶で、メフィストとシフォンの出会いはメフィストの国であるブラックローズ帝国だという事を思い出した。


父様の偵察で嫌々ブラックローズ帝国に来たシフォンは、メフィストと出会う。


そこでシフォンがメフィストにどんな思いを抱いたのかは書かれていないから分からない。


けど、どうせ『めっちゃ格好良い』で終わっている事だろう。

そしてメフィストは『頭悪そう~』とか絶対に思っている。

相変わらず腹が立つ男だ。


まぁなんやかんや言っているが、それなりに仲良くやっている方だと私は思う。

私は特に大きな病気にも、嫌がらせや嫉妬をする事もなく私は平凡な公爵令嬢をやっている。


そんな私もすくすく成長し、8年と言う月日が流れた。



「シフォン!起きろ!」

「うわぁぁ?!な、何?!」


急な大声に私は体中に雷でも落ちた感覚に襲われた。

いや、実際に雷に当たった事はないのだけれど。


何時もなら眠たくて、目なんか数分もしないと開かないと言うのに、大声によりパッチリだ。

しかし、この声を上げた人物は大体検討は付いていた。


忌々しいものを見るかのような目で、私はその人物を睨みつけた


「お・は・よ・う!ロジャード兄さん!」

「おはようシフォン!朝から元気だな!やっぱり誕生日が嬉しくて目覚めが良いんだな!」

「そんな事ないわよ!兄さんの大声に驚いただけ!それと兄さん!女性の部屋に無断で入らないで!」

「おうすまねぇ!それよりシフォン」

「無視?ねぇ兄さん、無視?」


お日様の光をたっぷり浴びた銀色の髪の毛が眩しくて、思わず目を細めた。


私達が兄妹である事を証明する深海の瞳は、私の物とやはり成長するにつれて変わってきた。


犬のような人懐っこさは健在だが、それと共に肉食獣のような力強い瞳をするようになった。


兄さんだけじゃない。

アンタークも、アクアも、ウィルも、メフィストも、アレクサンダーも物語の人物と同じ顔立ちになっていった。


今ではすっかり親友と言っても差し障りないほどの仲になったエリザ。


8年経った今でも相変わらず婚約者と血で血を洗うバトルを繰り広げているらしく、カーティスさんの悩みの種になっていると兄さんから聞いた。


変わって行きながら、変わらない『何か』があって私はそれが愛おしい。


「ほら兄さん!身支度するから出てって!話は後で聞くし」

「分かったぜ!絶対シフォンビックリするからなぁー!」


兄さんは屈託のない笑顔を浮かべながら、私の部屋を出て行った。

相変わらず嵐のような人だ。


するとドアから控えめなノックの音が聞こえ、私は入る許可を出した。


そこには8年前18歳で、現在26歳となったランファの姿だった。


「おはようございます、シフォンお嬢様」

「おはようランファ。今日でお別れね・・・」

「おやめくださいシフォンお嬢様。朝から私をお泣かせに?」

「そんなつもりじゃないわよ・・・ただ、寂しくなるなと思って」


そう私の誕生日である今日は、ランファがこの屋敷を去る日でもあった。


私が5歳の誕生日の時、僅か14歳だったランファはラピスラズリ家へ出稼ぎの為にやってきた。


しかし、そんなランファもずっとこの国で生涯暮らしてはいけない。ランファはあくまで出稼ぎでやってきたのだから。


ランファは元々、海を挟んだ大陸の国に住んでいた。

小さな領地の家に生まれたランファは大家族だと聞いた。

しかし小さな領地では、子供達を両親の金だけで食わしていくことは困難だった。


そこでランファを含める14歳以上の子供達は出稼ぎに出る事にしたという。


それからランファは26歳になるまで、一度も故郷へ戻らすこの国で暮らしてきた。

仕送りは一度たりとも途絶えさせた事はなかったという。

 

数年前『寂しくないの?』と聞いた私にランファは、戸惑いながらも笑って『そんな事はございません。距離は離れていても、心は繋がっております。


今でも手紙を送って近況報告をしているんですから』と笑って手紙を見せてくれた。


それは異国の字で、私は読むことは出来なかったがランファの体調を気遣っている事は何となく分かった。


「もう私も26ですからね・・・」

「そんな事ないわ。ランファは何年経っても美人だもの!」

「どこでそんな口説き文句を覚えて来たんですか・・」


ランファはクスクスと微笑みながら、私の髪の毛を櫛で丁寧に直して行った。


鏡に映る自分は、小説に出てきたシフォンそっくりで私が悪役令嬢である事実を突きつけられる。


挿絵で嘲笑いながらアンタークの腕に絡みつき、リリーを見下すあの嫌な公爵令嬢。

その姿は、前世の私の姿に良く似ていた。


「・・・変わらない。ランファも、私も」

「お嬢様・・・そうですね。例えどれだけの月日が流れようとも、変わりゆく物の中でも変わらない物はあります」

「だからランファ」

「はい?」

「・・・忘れないでね、私の事を。例えどれだけ離れようとも、心は繋がってる。そう教えてくれたでしょう?」


私は手を止めて私の言葉を待っているランファの方を向くため振り返り、私は微笑みながらそう言った。


ランファは目を大きく見開くと、その瞳は静寂な水面に石を投げた様に揺らぎ始めた。


そしてランファは片手で口元を覆うと、俯き肩を震わせた。


「・・・ッえぇ・・忘れませんとも。例え何があろうとも、シフォンお嬢様の事、お嬢様と過ごした12年間を私は決して忘れません。お嬢様・・・今まで、本当にお世話になりました!」

「ランファ・・・・私も忘れないわ約束する。例えこの先どんな事があろうとも、ランファを思い続ける。ランファと過ごした11年間を私は絶対に忘れない。ランファ・・・今まで本当に有難う。頑張ってね」

「はい!」


そうランファは国に帰り、自分の夢を叶える為にラピスラズリ家のメイドを辞める事になった。


ランファの夢は、刺繍職人になる事らしい。

しかしその刺繍職人になるには修行を積まないといけないらしく、その為にもお金が必要だった。


しかしやっと兄妹たちは嫁に行ったり、仕事に就いたりとお金には困らなくなったらしい。


それからランファは、コツコツお金を貯めて国に帰る資金と、刺繍職人になる為のお金を貯めていたと言う。


それが目標金額に達したらしく、3か月前ランファの口より辞める事を告げられた。


正直言ったらやめて欲しくはなかったし、刺繍職人になりたいならこの国で学べば良いとランファに勧めた程だった。


辞めるとしても、この大陸の何処かには居て欲しかった。

そうすれば会う事は出来るから。

けど、ランファは首を縦には振らなかった。


ランファの国には伝統的な刺繍があるらしく、その刺繍の美しさに幼い頃感激を受けたというランファはその刺繍を自分の手で作りたいと思ったと言う。


しかし貧しい為、その夢も叶わないと諦めていたと言う。

そんなランファの言葉を聞いて、駄目だとは言えなかった。


ランファも一人の人間なのだ。

ランファの人生を、私が潰して良いわけはない。

そんな事をすれば私は再び、意地の悪い悪役令嬢へと逆戻りしてしまうだろうから。


寂しい、悲しい。

そんな気持ちを押し殺して、私はランファの背中を押す事を選んだ。


綺麗事かも知れない。

けど綺麗事でも良いような気がする。


人の夢の為に自分を犠牲にする。

なんて綺麗な人間なんだろう。


なんて主人公みたいな行動なんだろう。

まるでリリーのようだ。


そんな人間が好かれる事を、私は知っている。

前世でも、この世界でも。リリーのような心優しく、誰かの幸せを願える少女が愛される事を知っている。


シフォンらしくない事も知っている。

けど、不思議と嫌な気分はしていない。


それはきっと、思ってもない事ではないから。

心の底から私は、ランファの夢を応援したいと思っているからだろう、だから気分が悪くない。


「す、すみませんお嬢様。朝からお見苦しい所を・・・」

「そんな事ないわ。さぁ!今日は最高の日にしましょう!」


最後の日を最高の日に。

そして『リリーと魔法の王子様』という物語が始める最初の日だ。

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