兄さんと二人旅!ですわ
「・・・・・」
「おいシフォン。なんでそんなに機嫌が悪いんだ?兄さん、何かしたか?」
どうも。シフォン・ルルーレ・ラピスラズリです。
現在私は、馬車に揺られながら守護の王子ウィル王子のいるグリスへ向かっている。
目の前には、サフィラスの絵がまとめられている画像集を手に持ち此方の様子を伺っている義理の兄ロジャード・アリス・ラピスラズリ。
兄さんもいう通り、私は今現在進行形で機嫌が悪い。
「はぁ・・・」
「溜息ばっかりついてたら、分かるもんも分からねぇだろ?」
「・・・その本」
私の顔は今多分、眉間に皺を寄せゴミを見るような目で本を睨む、不機嫌そうな顔をしているだろう。
しかしそうなるのも仕方がないのだ。
私が本を指刺すと、ますます訳が分からないと言う表情を兄さんはした。
「サフィラスの本が如何したんだよ。この中にある本の多くも今回出品されるんだ」
「それは分かってる・・・私にはサフィラスの本の良さが良く分からないもの」
「お前ランファに行かなくても良いって言われた時、行くって答えたんだろ?」
「その時は行く気があったけど、一夜明けると気分が下がったの。けど、行くと言った手前引くわけにもいかなくて」
「お前、変な所で律儀だよな」
「兄さんに言われたくないですわー」
私の不機嫌な態度に対して、兄さんは困ったように笑っただけで再びサフィラスの本へ目を戻した。
そんなにもサフィラスの作品は、兄さんにとって心惹かれる作品なのだろうか。
確かに綺麗だとは思うけど・・・綺麗な中に宿る『助けて!』という悲痛な叫びが聞こえてきて、助けてあげたいのに、助けられない自分が悔しくなってしまう。
サフィラスという画家は、今から200年ほど前に生きていた人物。
莫大な資産を産んだサフィラスの妻になりたいと思う女性は多くおり、彼に迫った女性は数知れず。
けど、彼はその女性と一人とも関係を持つことなく生涯独身を貫いたと言う。
サフィラスの作品をあまりよく思っていない私が此処まで一定の知識として持っている時点で、彼の作品の有名さが目に浮かぶ。
兄さんの方を見ると、真剣な顔をしてサフィラスの作品が紹介された本を見ていた。
今回ランファとラムもついて来ているが、二人は違う馬車に乗っている為このスペースにはいない。
退屈になった私は少し、悪戯をしてみる事にした。
「兄さん、好き・・・?」
「ふぇあ?!な、なんだ急に?!」
集中している兄さんを邪魔する為、適当に言った言葉なのに兄さんは予想以上の反応してくれた。
「大きな声出さないでよ、聞いただけなのに。兄さん、好き?その本」
「あ、あぁ何だそっちか・・・驚いた」
顔を真っ赤にしながら自分を納得させている。
よく分からないが、兄さんが驚いてくれたからまぁいいや。
「それで、その本好きなの?面白い?」
「面白いってわけじゃないねぇけど、好きだぞ。本って面白さで決まるもんじゃねぇだろ?」
「・・・まぁ確かに」
兄さんの言っている事には一理ある。
けど、なんか何時もヤンチャな兄さんに、こんな知的な部分があったんだと思うと釈然としない。
まぁでも兄さんの新たな一面を知れて、中々良い旅路になるような気もしない事もない。
「でもどうして2泊3日もグリスに滞在するの?1泊2日で良いじゃない」
「シフォン聞いてなかったのか?ほらグリスの王子いるだろう?」
「ウィル王子?ウィル王子がどうしたっていうの」
「そのウィル王子が、お前に会いたいって言ってるんだよ」
「はぁ?!」
ラムの時もそうだけど、如何してこう馬車の中で爆弾発言を残すのだろうか。
何で守護の王子であるウィルが私に会いたいと?頭が混乱してパニックを起こしていると、兄さんは苦笑しながら助け舟を出してくれた。
「お前婚約者がいるだろ?」
「え、えぇ・・でも、そのアクア様が如何したと言うの?」
「アクア様とウィル王子は隣国同士て、元々それなりに付き合いがあったんだよ。多分、アクア様がウィル王子にお前の事を話したんだろう」
「あぁぁ・・」
そうだった。
『リリーと魔法の王子様』の中でも小説内ではそう言う設定だった。すっかり、この世界が小説の中であるという事を忘れてしまっていた。
アクアとウィルは隣国同士であり、アクアとウィルは幼馴染と言っていい間柄だ。
ちなみにアンタークと、アレクサンダーも幼馴染だ。
この小説の中で幼馴染とか親しい間柄の王子がいないのは、闇の王子メフィストだけ。
思わず重い溜息をついてしまい、兄さんは心配そうな表情して顔を覗き込んできた。
「大丈夫か?俺、もう知ってると思ってたんだ」
「兄さんのせいじゃないわ・・・でも、急に王子に会うだなんて」
「でも、この間アクア王子と会った時もいきなり父さんに言われたんだろ?大丈夫だって」
「はぁ・・・」
兄さんの励ましも、今の私には薬にもならなかった。
サフィラスの作品を見るだけだと思っていたら、まさかウィルに会う事になるとは・・・。
柔らかなミントグリーンの髪に、雪のように白くきめ細かい肌と、淡い紅色の瞳を持つと小説内では紹介されていた。
触れれば散ってしまいそうな儚い容姿を持つ、美少年。
そこまで小説内で絶賛されていたら、私も会いたくなってしまう気持ちもある。
けど、そんなに美しい人の横に立つと思うと、なんか女として負けてしまうような気持ちもある。
だから、最初婚約者になろうと思った時、少しモヤモヤとした気分になっていた。
そして現在私はアクアの婚約者になっているが、アクアもアクアでめっちゃ容姿端麗な美少年だから隣に立つのが億劫だ。
小説内では、度々5人の王子様がいかに素晴らしく、美しいかを説明する文章があった。
それだけ作者の中では、王子達は美しくされているという事だ。
現実世界では、出会う事も話す事も出来ない平民の作者の幻想を詰め込んだ『リリーと魔法の王子様』という小説。
「兄さん」
「如何したシフォン。腹でも減ったか?」
「違う・・・もう!そんなんだから、婚約者の一人も出来ないんだよ」
「そ、それは関係ねぇだろうが!そもそも作ろうと思えば、婚約者の一人や二人」
「ムキにならないでよ。けど、まぁ・・・しばらくは私だけの兄さんでいてよ?せっかく兄妹になったんだし」
「!!か、わ、い、いぃぃ・・・!!」
「うわっ、兄さんその声可愛くない」
その後兄さんは『可愛い』だの『好き』だのと譫言のように言いながら、私の顔を見てヘラヘラしていた。
何故だろうか、我が兄ながらだらしない顔をしているのに、様になってしまうのが腹立つ。
思わず呆れて溜息を出してしまいそうだが、自分で言い出したのだ。
しばらくは兄さんの熱が冷めるまで、付き合ってやるとしよう。
グリスまで、あともう少し。




