驚きの新事実!ですわ
家族との晩御飯も終わり、私は自室に戻ってきた。
母様から乗馬の許可を貰うため、約5個の課題を提示された。ランファから受け取った用紙にはこう記されていた。
1つ、ピアノ『幸せの娘』を完璧に演奏する。
2つ、3週間後にある数学の試験で80点以上。
3つ、何か一つ刺繍作品を作る。
4つ、バイオリン『マリアージュ』を完奏。
5つ、1曲ダンスを踊り切る。
この5つが乗馬許可への道らしい。
取り敢えず、今可能なのはピアノとバイオリンぐらいだ。
数学は今の所は80点以上取れるだろう。
ダンスは1曲踊り切るのも、刺繍作品を作り上げるのも、結構時間が掛かる。
しかも、ダンスの練習は週に2回ぐらいしかない。
「はぁ・・予想以上に面倒ね」
「大丈夫ですかお嬢様」
「心配いらないわよランファ。絶対に合格して、乗馬の許可を貰うわ」
「諦めていらっしゃらなかったんですね・・・」
「自分から言い出したことよ。諦めないわよ」
「そうですか・・・そういえば、明日どのようなお洋服を着てお出掛けになりますか?」
「出掛ける?」
晩御飯の間、乗馬の事で頭がいっぱいだった私は、父様たちの話は一切として聞き流していた。
そういえば何かしら言われていたような気がするが、全て『はい』か『へぇ』としか返さなかったような気がする。
もしかして、その間に何か言われたと言うのだろうか。
そんな事を思いながら、恐る恐るランファを見るとランファはやっぱりか・・・という表情をしながら口を開いた。
「明日から、3日間ウィル・アゲート・カーディアン王子がいるグリスへロジャード様と共に行けと、旦那様が申しておりましたよ」
「な、なんで?!どうして兄さんと?!行く理由は?!」
思わず立ち上がり、掴み掛かる勢いでランファに言いよるとランファはタジタジになりながらも教えてくれた。
「だ、旦那様が申すに今度、グリスである芸術家の作品の展示会があるらしく」
「はぁ?それを見に行けと父様が言ったの?」
「そうです。しかも、ただの芸術家ではございませんよシフォンお嬢様。かの有名な絵画【アマデウス】を描いたサフィラス・アーノルドの作品です!」
「・・・サフィラス・アーノルド」
絵画に一切の興味を今まで持ってこなかった私もでも知っている、我が国メピュア国が生んだ超有名な画家。
その中でもサフィラスと言えばコレ!と言われる程の有名作品【アマデウス~神に愛された者~】という名の作品だ。
サフィラスが無名時代に描き、これをデビュー作として巨匠としての名を欲しいままにした作品だ。
私も本で一度だけ見た事があるアマデウスという名の作品。
一人の若い女性が涙を流しながら、天使に抱えられ天に昇っている姿が描かれている。
その涙を流す姿が何処か痛ましくて、見ていられなくて私は本を閉じた。
それ以来私は、サフィラスの作品であるアマデウスを見る事はなかった。
「巨匠サフィラスが描いた作品は、多くあるらしくその一つがグリスで発見されたらしいです。グリスはその作品を彼の母国であるメピュア国に返還する前に、グリスで展示する事を申し出たそうですよ」
「それもメピュア国で承認したって事ね」
「はい。巨匠サフィラスの作品を見つけてくれたという事で、感謝の気持ちでもあるらしいですが」
「如何して父様は、それを見に行けと言ったのかしら。国に帰って来るならこの国で見れば良いのに・・・」
「そ、それは・・・ロジャード様が望まれたそうで」
「兄さんが?!兄さん、あんななのに絵画が好きなの?!」
あの馬と剣術と実は真面目な事しか取り柄のない兄さんが?!うん?いや、乗馬も出来て剣術の腕も良くて、真面目でしっかり者って結構取り柄ありまくりね。
まぁそんな事は如何でも良いからほっとこう。
頭で考える事より、体を動かす方が性に合っているような兄さんが実は絵画に興味があったなんて。
人は見かけによらないと言うのは本当なのね。
「ロジャード様は・・・言い方は何ですが、あぁ見えて芸術系にも興味がおありのようですよ」
「どうしてランファはそんな事を知っているの?」
「先日、シフォンお嬢様が返しておいて欲しいと言われた小説を返しに書庫へ向かったら、ロジャード様をお見かけしまして。少しお話させて頂きました」
「兄さん、なんの本を読んでいたの?」
「丁度サフィラスの作品についての本を読んでいられました。どうやらロジャード様はサフィラスの作品が大好きなご様子で・・・目をキラキラさせてお話ししてくださいましたよ」
ランファは可愛い子を見たという顔をしながら、兄さんについて教えてくれた。
あの兄さんが絵画に興味があったというのは今でも少し信じられないが、ランファの話を聞く限り本当なのだろう。
サフィラスの作品が大好きな兄さんが、サフィラスの作品が見つかったと聞けば見たいに決まっているだろうし。
何時もヤンチャな兄さんの大人しい姿が見れるなら、行って見ても良いと思った。
「けど、私あまりサフィラスの作品好きじゃないんだよね」
「絵画にご興味がないんですか?でしたら、無理に行く必要は・・」
「そうじゃないよ。ただ、サフィラスの作品ってなんか悲しくて」
「悲しい?とても綺麗な作品だと思いますが・・・あ、でもロジャード様もシフォンお嬢様と似たような事を申していました」
「兄さんも?」
「はい。ロジャード様はサフィラスのアマデウスを見て、この女性は幸せじゃないと申していました」
「幸せじゃ・・・ない」
「確かにあの絵に描かれている女性は泣いていましたけど、如何して幸せじゃないんでしょうねー」
そう言ってランファは、明日私が着て行く服を見てくると言って部屋を後にした。
兄さんも、私の同じ事を考えていたという事か。
私も初めてサフィラスのアマデウスを見て、悲しい作品だと思ったのは、天使に抱えられて天に昇って行く女性の涙が悲しく見えたからだ。
他にもサフィラスの作品に【ソル・ソロル】という作品がある。確か、太陽の姉妹っていう意味だった気がする。
太陽の名を持つ二人の姉妹が、ダンスを踊っている絵だが片方の子は黒いドレスを、もう片方の子は赤いドレスを身に纏っている。
そして赤いドレスを着て踊っている子は楽しそうに笑って踊っているのだが、黒いドレスを着ている子は笑っていないのだ。
「神に愛される事が本当に幸せなのだろうか。その謎に自問自答しながら、私はこの作品を作り上げたのだ・・・か」
これはアマデウスという作品が出来た時、この作品を如何して描こうと思ったのかという質問に対してサフィラスが答えた言葉だという。
神に愛される。一般的な価値感を持つ人であれば、神様は救世主であり唯一無二の存在だろう。
しかし人より外れた価値観を持ち、それを表す技量を持っていたサフィラスの目にそれは一体どのように映ったのだろうか。
光すらも飲み込む闇に見えただろうか、それともあらゆる物を照らす光に見えただろうか。
既にこの世を去り、伝説となったサフィラス・アーノルド
彼がどのような気持ちで、あれらの作品を描き、どのような気持ちで完成させたのか。
それを知る者はいるのだろうか。
「そう思うと、少しだけ楽しみだわ」
グリスで見るサフィラスの残した作品。名前も知らない彼の作品を、私は少し楽しみになった。




