乗馬許可への道!ですわ
「おほんっ・・・もう一度言ってくれるかしら私の可愛いシフォン」
「ですから母様、私乗馬を習いたいと申していますの」
どうもシフォン・ルルーレ・ラピスラズリです。
現在、母様に乗馬をする許可を貰っております。
しかし、母様は私が乗馬をしたいという発言に驚きを隠せなかったのか、何度も現実逃避をしようとしている。
申し訳ないが、これは夢でも幻聴でもなく真実だという事を早く受け入れてほしい。
母様は大袈裟によろけると片手で頭を支えながら、立派な椅子に腰かけてしまった・・そんな大袈裟にしなくても良いのではないだろうか。
しかし、母様も一応貴族社会を生き抜いているお人。
淑女として大事な事は分かっているのだろう、けど今の私にそんな淑女らしくという言葉は響かない。
現在の私の精神は『淑女らしく御淑やかに』ではなく『やりたい事やっちゃえ!』みたいな精神なのだ。
勿論そんな剣術を習ったりと言う野蛮な事はしない。けど乗馬ぐらい良いではないか。
小説内でも女騎士という役職が現れ、女でありながら鎧に身を包み剣を振るい馬を走らせる勇敢な女性が出てくる事がある。
昔の私なら、「なんと野蛮な事でしょう・・・」と言い蔑むだろうが、今の私にそんな蔑む感覚はない。
むしろ格好いいとまで思ってしまう始末だ。
だって、鎧に身を包んで敵と戦い馬を走らせるんだよ?格好良くない?
女王とか姫とかよりも、守られるより守る方が似合ってる芯の強い女性とか憧れてしまうお年頃なのだ。
「シフォン、貴方はもうすぐお茶会へ参加しても良い年頃の子供なのよ?しかもこの家は由緒正しきラピスラズリ家。変な事をすれば、旦那様のお顔に泥を塗る事になりますわ」
「安心してください!必ずや格好よく乗りこなして見せますわ!そして、多くの女性の歓声をこの身に受けます!」
「そういう事じゃなくってよ!如何して貴方の考えは、人の斜め上を行くのでしょう」
「お褒め頂き感謝します!」
「褒めてない」
じゃあ一体どういう事なのだろうか。変な事をすれば父様の顔に泥を塗る事になる。
だったら小説に登場する騎士や王子のように、格好よく乗りこなせば良いのでは?いや、でもあれは男の人がやるから格好良いわけで、女の私がしても格好良くないのかしら。
しかし、小説の中の女騎士ソフィアは手綱を握り締め『姫!お助けに参りました!』と白馬に乗りながら颯爽として現れ、姫を馬に乗せ敵陣を突っ切るのだ。
でもこれは小説の中の話。現実にやればそれは危ない人にならないかしら。
好奇な目で見られるのは必須・・・。
はっ!母様はこれを危惧してらしたのね。
私やラピスラズリ家が変な目で見られない様に・・・。
「やるならせめてもっと優雅な事をなさい」
「例えばどんな事が優雅なのですか」
「そうね・・ガーデニングや裁縫など淑女の嗜みとして重要です。あと、楽器を弾けると殿方の心を掴みますわよ」
「うわぁ・・・」
どれもこれも前世やって、既にもう腕に覚えのある物ばかりだ。
そもそも前世、私は淑女である事が正解とされ、淑女として嗜み一級とするべきダンス、作法に勉学なども磨いたのだ。
他にも裁縫やバイオリン、ピアノなどの楽器も嗜んできた。
だから此れを言うのは如何かと思うが、今現在となって公爵令嬢として学ぶことは無いような気がする。
今の家庭教師からも、天才と言われる程それなりの知識を持っている。というか8歳程度の勉学、出来て当然の事。
まだダンスは行っていないが、お茶会にも参加する年頃な為作法も学んでいるがどれもこれも昔と同じ事の復習なような物で正直言って退屈だ。
あの時間で、どれだけの本を読めた事だろうか。
つまり私が何が言いたいかというと、前世淑女道を突き進みカンストしてしまった私は新たな事に挑戦したいのだ。
これ以上勉学も作法も伸ばす所なんてないだろうし。
だったら、やった事ない事に手を伸ばしてみるのも良い。さすがに剣術は出来ないが乗馬ぐらいやってみても良いだろう
適度の運動も健康のため。
前世、18歳から20歳になるまでの2年間私は狭い部屋を動き回るぐらいしか運動出来なかった。
というか、公爵令嬢だったから運動というのは如何すれば良いのか分からなかった。
だから適度に部屋を歩き回るぐらいしか出来ず、運動不足と栄養不足などの不足が崇り私は病に倒れ病死してしまったのだ。
ここで負け、再び体を弱くする必要など絶対にない。
ですから母様。
私母様に負けるわけにはいきません。
必ず納得して貰わなければ。
私の退屈凌ぎと、健康の為に!!
「ピアノもバイオリンも、退屈ですわ。それにピアノやバイオリンが弾けても、いざと言うとき役に立ちませんし・・・」
「乗馬が役に立つというの?」
「少なくとも、ただ楽譜と睨めっこして部屋に閉じこもり、いざという時己の身を守る事も出来ない音楽よりかは役に立ちますわ。乗馬は、逃げる時にとても便利ですもの」
「逃げるとき?」
「母様もご存じでしょう?国境付近で起こった賊の事件を。もしそんな時、馬に乗れれば逃げる事が出来ますわ」
そして私は母様に、乗馬の重要性を出来るだけ分かりやすく説明した。
母様は少々子供っぽい所もあるが、さすがは大人というべきか説明すればそれなりに理解してくれる人だ。
真剣な顔をしながら私の話をしっかりと聞いてくれる所を見ると、さすがは母親だと思う。
ランファは良く私に対して母様の事を『愛情深いお方』と言って褒めている事があった。
初めはよく分からなかったが、私や兄さんを見る度ニコニコと幸せそうに微笑む当たり本当の事なのだろう。
一通り説明し終わると、私は肩で息をしていた。
それだけ私が興奮して必死だという事だろう。
前世の私なら息が切れるような事をするのは、恥ずかしい事と思っていただろう。
けど、今の私は全てをやり切ったという達成感と伝わっただろうかという不安が入り混じった気分だった。
しばらく母様は考えていると、静かに立ち上がり私の目の前に来た。
「貴方の考えは良く分かりました。しかし、やはり母として貴方の乗馬を今すぐに許可する事は出来ません」
「母様!」
「話は最後までお聞きなさいシフォン。今は許可出来ないと言っているだけですよ」
「い、今だけ?」
「そうです。1か月猶予を与えます。その1か月で貴方が作法や楽器演奏、そして勉学等などが乗馬の練習に時間を割いても良いと言えるほどの完成度であれば、許可しましょう。しかし、お粗末な腕前だった場合乗馬の許可は金輪際出しません」
「良いのですか母様!」
「嘘はつきません。後で私がシフォンへの課題を纏めた紙を、シフォンの専属メイドのランファに渡しておきます。その課題をクリアできた場合乗馬なり好きな事をしなさい」
母様はそう言って微笑んだ。
こういう所を見ると、母様は厳しいけどしっかりと考えてくれているという事が分かった。
御免なさい母様。今までメルヘンチックな子供っぽい人~とか思ってて・・・。
「さぁもう行きましょう。そろそろディナーの時間ですわ」
「はい母様!約束ですよ?」
「勿論。しっかりと私の課題クリアを目指して頑張るのですよ。容赦は抜きません」
「望むところですの!」
母様とそんな約束をしたのは、父様や兄さん、ランファ達には内緒。
男の約束成らぬ女の約束はしっかりと守らないと、後がすっごく怖いという事を私は知っている。
容赦はしないと言っていたから、私もしっかり復習して母様の課題に取り組まないと駄目だわ!
私はそんな想いを胸に、父様と兄様が待つ部屋へ向かった。




