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アイ死、アイ去れ  作者: 痛瀬河 病
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アイとは?

 人気のない廊下。

 私は親友のみっちゃんを見つける。

 私は音もなく近づき、背中を優しく押すのだ。

 無防備な体勢から予想外の力が加わった彼女は、そのまま階段を転げ落ちていく。

 階段の踊り場でようやくその勢いは止み、彼女はピクリとも動かなくなる。

 階段の角で切ったのか、頭からは血が流れている。

 ここは普段あまり使われていない階段。

 放っておけば大事に至ることも十分にある。

 だから、私はその場を去っていった。




 なんて、妄想をしていた。

「ねぇ、最近さ、柳と仲良過ぎない?」

 教室で一緒にお昼を食べていた親友のみっちゃんに唐突にそう言われた。

 みっちゃんとは小学校からの付き合いだ。

 私は口に含んだパンを咀嚼し終えると、その質問に答えた。

「そうかな?」

「そうだよ! 好きなの?」

「いや、それはない」

 はずだ。だって、ストーカーなんだもの。

「えー、好きなら隠さないでよー、私たちの仲じゃない」

「みっちゃんに隠し事なんてしたことないでしょ。私が好きなのは兄ちゃんだって言ってるでしょ」

 みっちゃんは恋バナと豆板醤が大好きなので、どこかつまらなそうな顔をした。

「なーんだ。私はてっきりそうなのかなーって」

「どこをどう見たら、そう見えるのかな」

「えー、柳って結構見た目良いし美男美女でお似合いじゃん」

「見た目だけだよ。中身は手の施しようがないほどの重症だよ」

 重症のストーカーだが、みっちゃんに心配はかけたくないので言わない。

「ついに兄越えの思い人が現れたかと思ったんだけどなー」

「そんな人、永遠に現れないよ」

 そう、そんな人は現れない。

 だから、私の愛は迷子になってしまった。

 みっちゃんやシロ太郎、彩先生に対する親愛とは違う。

 恋愛。

 兄とその他の愛は違っていた。

 まぁ、どちらも殺す妄想はするけど。

 私は購買で買ってきた紙パックのミックスジュースのストローをガシガシと噛む。




 私と兄の家の隣にはシロ太郎と言う犬がいる。

 名前の通り真っ白な犬だ。

 よく躾のされた犬で滅多に吠えたりしない。

 いつも私が帰ってくると、尻尾を千切れんばかりに振って出迎えてくれる。

 私はたまにコンビニの菓子パンの味のついてない部分を上げる。

 シロ太郎はそれを何の警戒もなく嬉しそうに頬ばる。

 今日も私はメロンパンを食べていたので、その内の白い部分をシロ太郎にあげようとする。

 しかし、今日のメロンパンは少し変わり種でココア生地にチョコチップたっぷりだ。

 わざわざ毒なんて購入しなくても、犬にとっての毒物は山ほどある。

 ココア、チョコはその最たる例だ。

 下痢や嘔吐を引き起こし、死に至ることも珍しくない。

 これをシロ太郎にあげたらどうなるだろう?

 苦しむかな?

 飼い主さんはどんな顔をするかな?

 私はメロンパンを持った手をシロ太郎の方へと伸ばす。




 なんて妄想を自宅の玄関前で垂れ流していると、近所の人に不審な目で見られたので慌てて家の中に入る。

 私は残ったメロンパンを食べてしまってから、誰に言うでもない言葉を溢す。

「ただいま」

 最近、妄想の頻度は減ったが、一回一回が激しくなったかな?

 私は通学鞄をリビングのソファに置くと、兄の部屋で酸素を補充した。

 兄の部屋で作られる酸素は外界とは一味違うのだ。

「……兄ちゃん」

 私はもういない人間の名前を呼ぶ。

 そして、恋い焦がれた彼を殺す妄想をする。

 もう死んでいるのに。


 寝ているときに包丁で喉を裂くのはどうだろう?


 ナメクジのような体内に寄生虫を飼っている生き物を口の中に突っ込んでしまうとどうだろう?

 

 いっそ、食事に睡眠薬をいれ、家ごと燃やしてしまうとか?


 駄目だな。

 兄が生きていた時ほど、悲しくならないし、興奮もしない。

 だって、もう死んでいるのだから。

 あぁ、恋がしたい。

 恋愛がしたい。

 体内の全ての気持ちいい感覚が、胸に一点集中し、ギュッと掴まれ冷たくなって悲しくなる、そんな殺す妄想が出来る人が欲しい。

 どこにいるの?


 私の思い人。


 私はその日はそのまま兄のベッドで眠りについた。





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