勇者、お前だけは許さない。
「ごめんな、メーゼ。俺が弱いばっかりに、一緒に旅が出来なくて」
「まだそんなこと言ってるの?……そんなことよりケイ?この戦いが終わったら、私たち結婚しよう?」
「え?今そんなこと言うのか?」
「駄目?」
「……まあいいけどさ。わかった、結婚しよう」
「ほんとにいいの?魔王討伐まで5年……いえ、10年は掛かるかも知れないのよ?」
「はは、なんだよ。お前から言い出した癖に、そんなこと言うなよな」
「ふふ、そうだね。ごめん。それじゃあ、いってくるね」
「おう、いってらっしゃい」
「いってきます」
こうして、幼馴染の……いや、俺の彼女は、勇者の居る王都へ、ゆくゆくは魔王討伐の旅へと出発した。
◆◇◆◇◆
あれから一年、メーゼのことが心配で、全く夜が眠れない。
ようやく眠れても、メーゼが死んでしまう夢なんかを見てしまい、夜中に目が覚めてしまう。はぁ、メーゼ、大丈夫かな〜。
そんなある日、こんな田舎にまで朗報が届く。
なんと、魔王の幹部である1人を勇者パーティが討伐そうだ。そして、その中に死人は愚か、怪我人すら出なかったそうだ。
よかった。メーゼに怪我が無くて。
……今夜は少しだけグッスリ眠れそうだ。
◆◇◆◇◆
3年後、俺は18歳になった。
この3年、俺は偶然出会った師匠の元で、猛特訓を行なった。
師匠はそれはもう美しい容姿をした……男性だったので、なんとかギリギリ浮気をせずに済んだ。まあ、師匠が常に無表情だったことも原因の一つだったかも知れない。笑顔を見せられたら……いや、そんな話はどうでもいい。
俺が猛特訓を行なった原因としては、今だに自分の弱さに後悔していたからだと思う。
師匠や、今までの後悔のおかげで、苦労はしたが時間魔法を覚えることに、俺は成功した。師匠が美人……なのは関係ないはずだ。
この魔法は強力で、時間を未来、あるいは過去、はたまたは停止させることが可能だ。っと、そんなことも今はどうでもいい。
今はそれよりも、勇者パーティがとうとう四天王の三人目を倒したという朗報の方が重要だ。後は四天王の1人と魔王を倒すのみ。この分だと後1、2年でメーゼと再会出来る!そう考えると、なかなか寝付けないほどに興奮してしまう。ってまた同じことを考えてるな……。でも、どうしても考えてしまう。ああ、早くメーゼに逢いたいな〜。
「あ、師匠!おはようございます!今日も美しいですね!」
「ん?うん、おはよう」
◆◇◆◇◆
半年後
とうとう最後の四天王を倒したらしい。残すところは魔王のみ。後もう少しでメーゼに逢えると思うと、なんだか夜も眠れない。そうだ!王都に引っ越そう!そこで冒険者をやってお金を稼ぎながらメーゼの帰りを待つとしよう。はは、メーゼの驚く顔が楽しみだ!
「あ、師匠!おはようございます!寝癖がついてても美しいです!」
「ん?うん、おはよう」
「……ところで師匠、突然で申し訳ないのですが、少しお話があります。お時間よろしいでしょうか?」
「うん、大丈夫だよ」
◆◇◆◇◆
やっと、やっと!この日が来た!一昨日、メーゼ率いる勇者パーティが魔王の討伐に成功したらしい!王都に帰ってくるのは明後日とのこと。ああ、今から心臓がバクバクだ!第一声はやはり「おかえり」と言うべきか。いや、それとも「お疲れ様」の方がいいのかもしれない。ああ、本当に楽しみだ!
今のうちに服を新調しよう。
◆◇◆◇◆
来た!メーゼが帰って来た!
俺はメーゼを見かけた瞬間に走り出す。
走って近づく俺にメーゼは気づき、そして、複雑そうな顔を浮かべる。
ただ、その時の俺はそんな些細な変化などどうでもよく、ただただ嬉しさを噛み締めていた。
「おかえりメーゼ!逢いたかっ、た……よ?」
俺がメーゼに抱き着こうとしたところを、1人の男が立ちはだかる。
「誰だお前は、オレのメーゼに気安く触れようとするな!」
「……は?」
俺の思考は、時間魔法を掛けられたかのように停止する。
勿論、時間など停止しておらず、不意にメーゼと視線が合う。
「あ、えーっと……ただいま。ケイ、君」
ケイ、君?昔は呼び捨てだったよ、ね……?
「なんだ?メーゼの知り合いか?」
「う、うん。えーっと、同じ村で育ったただの幼馴染、かな」
……え?た、ただの幼馴染?ちょ、ちょっとだけ待ってくれ。俺に落ち着く時間をくれ。
「なんだ、ただの幼馴染か!それなら安心だな?積もる話もあるだろう。待っててやるから少しだけ話してくるといい」
「うん!ありがとう」
「おう、いいってことよ」
おい、なんだよ今の笑顔は。
「ケイ君、久しぶり」
「なあ、ただの幼馴染ってどう言うことだよ」
ほぼ無表情でそんなことを言うメーゼに、俺は少し怒気を込めて問う。
「う、うん。そうだよね、そうなるよね……えーっと、まずはその、ごめんね。約束は守れないや」
「……は?」
「ほら、村を出るときにした約束があったでしょ?あれのことだよ」
「む、村を出るときの、約束……?」
「わ、わからないなら別に思い出さなくていいけど。寧ろ、ありがたいし……」
何言ってんだよ、こいつは。俺が忘れる訳ないだろ?どんだけこの日を楽しみにしてたと思ってんだよ。おかげでもう20だぞ?婚期も大分過ぎてんだぞ?どうすんだよ、おい!
……って、前の俺なら言っていたな。師匠のせいで性格も変わった。あれから5年?他の男と旅してたら、そりゃ〜気も変わるよな。俺も師匠が女性だったらヤバかったし……。
と、自分に言い訳をする俺。あー、イライラする。
「なあ、お前、あの男のこと好きだろ?」
「え!?う、うん。す……好きだよ」
頰を赤く染めながらそんなことをほざく浮気女。はぁ、本当に苛だたしい。
「……好きになったきっかけは?」
「なんでケイ君にそんなこと言わなきゃいけないのよ!」
「はあ?」
おっと、ついにイライラが外に出てしまった。
「あ、えーっと……その、ね?私が魔族に殺されそうになった時に、ね?私を助けてくれたの。あなたじゃなくてタケルくんが」
あ゛?何こいつ、喧嘩売ってんの?ころ……
……まあいい。許す。聞いたのは俺だ。
「そう、幸せになれよ」
「うん!ありがとう!ケイ君!」
俺は師匠の教え「力は自己防衛のためにつけるもの」という教えを守るため、1発殴ってやりたい。と言う情動を抑え、無理やり笑顔を作り、送り出す。
5年待ってこれか……もう、あいつとは2度と会いたくないな。
そんなことを考えつつも、最後にメーゼの後ろ姿を目に焼き付けていると、隣の男と目が合う。
その男は口角を上げ、俺を嘲笑うように……
俺はほぼ無意識で時間を止めていた。
は?なんだその下卑た笑いは?お前、俺をおちょくってんのか?さてはワザとやったな?メーゼは知り合いだから許せたが、そんなクソなお前は違うぞ?ゼッテェ許さねえからな?大体、お前は好きな人を奪われる気持ちがわかってるのか?わかってないよなぁ〜。その感じだと。
……ははっ。お前にも同じ気持ちを味合わせてやるよ。
チッ。糞みたいな笑顔浮かべてんな……てかこいつ、腰についてるの聖剣じゃないか?こんなクズが勇者かよ。
俺は勇者の顔面を、武器の大鎚で思いっきり横殴りした。少なめに、5発だけ。
あー、ムカつく。殴っても時間動き出すまで変化が起きないし、全く殴った気がしない。しかもあの笑顔のままだし。あー殺したい。
でも、ここは我慢だ。殺したらそこで終わりだ。師匠は言っていた。
「死ぬのが救いかはわからない。でも、苦しむよりは死んだ方がいいのかな?」と。その時はわからなかったけど、今ならわかる。
師匠は、こう言いたかったのだ。
「殺すと罰にはならない。が、生かして苦しませることで、罰になる」と。
はは、これからが楽しみだ。
俺はその場を離れ、時間を進めた。
◆◇◆◇◆
次の日
王都では大混乱が起こっていた。
なんでも、勇者が不意打ちで殴られ数十メートルほど吹き飛ばされたらしい。
なんとか聖女さまの治療で一命を取り留めたらしいが、原因は不明。勇者は彼奴だ!彼奴がやったんだ!と確信を持っているようで、現在1人で王都中を走り回ってるとか。
「おいおい、一週間後姫さまと結婚するんだろ?そんなんで大丈夫か?」
そんなことを独り言ちる。
「あ、そうだ。今夜は寝室に潜んで寝てる所を……はは、楽しみだな」
◆◇◆◇◆
さて、そろそろかな。
俺は時間を止めて、勇者が泊まる城へと侵入する。
「勇者さまはどこだろな〜♪」
俺はわざわざ一部屋づつ回っていく。
「げ、メーゼ……もとい、元カノと勇者、合体ナウ」
俺は一旦扉を閉め、そして考える。
あー、どうするかなぁ……。俺にも一応良心が残っている。てか、元カノの方はなんとか許した。だから幸せになって欲しいような……そうでもないような?ま、結論はどっちでもいい。なんだけど。
あー、でもあれか。寝込みを襲った方が勇者は恐怖してくれるかもなー。よし、出直そう。
俺は一旦家に帰り、時間を潰した。
◆◇◆◇◆
さて、やって参りました、午前3時。流石にもうヤってないだろ。
俺は勇者の部屋へと侵入する。
「げ、そのまま寝たのかよ」
勇者は知らない女と裸で寝ていた。
「ま、いいか。知らない奴だし」
俺は木の杭を4本取り出すと、勇者の手足に大鎚で打ち込む。
はぁ、勇者の肌に刺さる瞬間で止まるから、結局イライラは治らないんだよな〜。ま、いいか。とりあえず帰って寝よ。
◆◇◆◇◆
翌日
王都は大変なことになっていた。
なんでも城に侵入者が現れたとか。
幸い王家の血筋の者に被害がなかったらしい。ただ、勇者は傷跡が残る程の怪我を負ったらしく、安静のためお姫さまとの結婚までは外に出ることはないそうだ。
おいおい、王を守る城に侵入者って。世の中まだまだ物騒だな〜。
今日は何をして遊ぼうか……。
コンコン。
突然、家の扉がノックされる。
俺は瞬時に時間を止め、外の様子を伺う。
「おっと、昨日勇者とチョメチョメしてた元カノだ。ま、普通に出るか」
俺は家に戻り、時間を動かす。
「はーい、今出まーす」
俺は何事もなかったかのように、扉を開ける。
「あ、ケイ君。居たんだ……」
「え?なに?いきなり。ここ俺の家だから居るに決まってんじゃん」
「う、うん。そう……なんだけどね」
元カノ……もとい、ちょろインは下を向き、何かを考える。
「け、ケイ君。最近、何か変わったことなかった?」
「はぁ。それ、わざわざ家まで来てする話?」
「え?あー、そ、そう……だね」
「で?最近だっけ?最近ねぇ……」
俺はわざと考える振りをし、ちょろインを観察する。
……ちょろインは俺の言動や表情を観察し、何かを得ようとしているようだ。
「……特にないな」
「……そう」
ちょろインは暗い表情で呟いた。
「あ!それでさ。最近物騒なことが多いけど、ケイ君は変わったことない?」
何だよ、そのいいこと思いついた!みたいな表情。もろバレだよ。
「いや、特にないな」
「そ、そう……ごめん」
ま、大方嘘をつく時の癖を利用して何か得ようとしたんだろうけど、前の俺とは違うんだよ。お前が変わったようにな。
「え?ごめんって何が?」
「ううん、何でもない。私は信じてたよ」
……どの口が言うんだよ。お前がここに来た時点で俺を疑っていることは確定なんだよ。ったく、俺はこの女のどこが好きだったんだ?もう忘れた。
「じゃあ、もう帰るね。バイバイ」
「ああ……」
俺は扉を閉めた。
あー、イライラする!何だろなこの感じ。勇者への嫉妬?それとも劣等感?いや、違うな……何だろうか、とにかくイライラする!あ、そうだ!今日は顔面の皮膚でも剥がしてやろう。
俺は時間を止め、ちょろインを追い越し、そのまま城へと直行した。
◆◇◆◇◆
翌日
はい、よくよく考えてみると、俺の時間魔法で勇者の皮膚を剥がすなんて芸当出来ません。
……と、言うことで、熱湯を用意しましたー!では、お邪魔します。
「おい、何で室内で聖剣構えてんだよ勇者」
その声は勇者に届かない。
「ま、いいや。はい、熱湯バッシャーン!」
チッ、ちょっと俺にも掛かったじゃねえか。おい、勇者。この借りは必ず返すからな、覚えておけよ?
俺は自分の体に時間魔法を使い、火傷を治した。
◆◇◆◇◆
今日も王都は騒がしい。
何でも、勇者とお姫さまの結婚が破綻したらしい。
王曰く、何者かに狙われている勇者と娘を結婚させる訳にはいかない。とか、勇者の顔が火傷で酷いことになり、こんなのとは結婚したくないと王女さまが断言した。とか、いろんな噂が飛び交っている。
ま、俺には関係のない話だ。
ゴンゴン、ゴンゴン、ゴンゴン、バキバキバキ……
「おい!て……
俺は時間魔法を使い、時間を止める。
「勇者が凸ってきた件」
まさか凸って来るとは、しかも家を壊して。これは流石に予想外だった。
……また、変な噂流しとこ。
俺は一応外を確認し、元の場所へ戻って時間を進める。
「……めえ!よくもやってくれたな!!おかげでオレの人生が滅茶苦茶だ!!!見ろ!この顔!!!聖女の魔法でも元には戻らなかったよ!!!クソが!!!!!」
勇者は俺の顔面へ拳を叩き込む。
俺はわざと後ろに吹き飛び、隣の家までお邪魔した。
「チッ、覚えてろよ!次はこんなもんじゃ済まねえからな!!!」
勇者はそれだけで帰った。
「何だったんだよ、あいつ」
いや、本当に。犯人煽ってどうすんの?超ウザいんですけど?殺すよ?殺さないけど。まあ、あれだ。次、覚えてろよ?勇者。
「け、ケイ!大丈夫!?」
おい!サラッと君付け辞めんな!このクソアマ!てか、初めから助けろよ!玄関先でスタンバりやがって!今更あざとくしても意味ねぇんだよ!あー、ほんっとイライラする。
「わ、私は止めたんだよ?ケイのせいじゃないって!でもあの勇者、全然聞く耳持たなくて!あ、そうだ!私、友達に回復魔法が使える人いるの!ちょっと待っててね?」
ちょろイン……改め、尻軽女は数分もせずに戻って来る。
「お、お待たせ!この子が私の友達で聖女のルル」
「ま、まあ大変!今、回復魔法で治療しますね!」
おい、こいつ勇者の隣で寝てた見知らぬ女じゃねえか。お前、今度から性女な。決定。
てか、性女!お前も玄関先でスタンバってただろ!ちゃんと殴られる前に助けろよ!殺すぞ!
「いいよ、治さなくて。あんまり痛くなかったし」
あ、ちなみにこれは本当。正直ビックリした。
「また、やせ我慢して!昔からケイはそういうとこあるよね?」
……マジで何なん?こいつ。もうイライラを超えて吐き気がしてきたよ?鳥肌も立ってきたし、意味わかんねえ。
「とりあえず、帰れお前ら。お前ら勇者パーティが帰って以来、俺の平穏は滅茶苦茶だよ。俺を1人にしてくれよ、な?」
「……わ、わかった。ごめんね、ケイ」
俺の心底嫌そうな顔が効いたのか、尻軽女と性女はすぐに帰っていった。
この壊れた壁、どうすんだよ……。勇者、お前はマジで許さんからな?次は……そうだな。鼻を潰そう。まずは、地味なとこから。だな。
◆◇◆◇◆
「はい、お邪魔しまーす」
俺はいつものように、勇者の部屋へと侵入する。
「おい、昼まっからナニやってんの?お前ら」
しかも、背後からって……。いや、何も言うまい。
「ま、流石の尻軽女も、あの顔見ながらは……って事だよな」
おっと、結局言ってしまった。ま、いいか。今日は少し気分がいい。出直してやろう。
◆◇◆◇◆
と、思いつつ3時間後。
「出直すっても、明日とかにはならねぇからな?」
俺は勇者の鼻を粉々にする勢いで、殴る。そして殴る。さらに殴る。おまけに殴る。最後に殴る。
勿論、大鎚で。
あー、スッキリしない!てか、する訳ねーじゃん。まだまだ壊すところはいっぱいあるってのに。
◆◇◆◇◆
翌日
今日も勇者の話題で持ちきりだ!
最近、王都ではいろんなことが起きている。それは全て、勇者の所為らしい。そして、その勇者はと言うと、昨日は一般人に暴力沙汰まで起こしたそうだ。
その一般人は、たまたま通りがかった性女さまに助けられ、一命を取り留めることに成功。しかし、勇者はパーティメンバーに嫌われ始め、王からもいよいよ王都を出てくれないか?とのこと。
ま、だからなんだって話だけど。それに、所詮は噂。当てにはならん。
「おい!貴様!お前は絶対にこ……
待って、何か頭痛い。頭痛のし過ぎで幻覚見えてる。
しかもその幻覚、勇者が家にいると言うと最悪のもの。
……ん?あれ、よく見たらこの幻覚、腰に聖剣を挿してない。それに鼻も全然治ってないし、妙にリアルだなぁ……。
おっと、いつまでも続きが聞こえないと思ったら、時間が止まっていた。
「……ろす!覚悟しておけよ?」
「は?いきなり何?てか誰だよお前。昨日は家を壊しておいて今日は殺す?意味わかんないんだけど?警備の方、呼びますよ?」
「はぁ!?お前こそ何言ってんだよ!ここ数日、オレに嫌がらせと言うには生温いくらいの事しておいてよ!これでもオレは勇者だぞ?そんくらいわかるわ!あー!クソ!火傷してからは誰にも相手にされねーし!唯一相手してくれたメーゼだって、私、バックが好きなの……だってよ!そんなん、今まで聞いた事なかったよ!てか、絶対嘘だったろ!締まりも悪かったしよ!あームカつく!その後はお前が襲ってくるし、おまけに見ろよこの鼻!ルルの奴、適当な回復魔法使いやがって!何がもう元には戻らないです!だ!今まで散々治してきただろ!思わず殴ったら連行されるし!地団駄踏んだくらいで床は壊れるし!今朝なんて聖剣盗られて城を追い出されちまったよ!」
お、おう。今日はよく喋るな、この勇者。
ま、話した内容は大方予想通りだったけど。
俺は口パクで「ざまぁ」と、言ってやる。ただし、口角は別に上がらない。だって、まだ満足出来ねぇし。
「お前!!!絶対に許さん!ここで死ね!」
勇者は雷魔法で雷剣を作り出す。
「ちょっと勇者!私のケイに何するつもり!いくら勇者でもそれだけは許さないからね!」
そう言って俺の前に立ったのは、尻軽女……改めて、ご都合主義者。
こいつ、このピンチに駆けつけた私、かっこいい〜。とか、これならまだ、関係をやり直せる。とか、考えてるな。絶対。マジウザい、てかキモい。死んでくれ。お願いだから。
「な!?メーゼ!お前、いつのまにそいつの味方になったんだ!」
「何言ってんの!味方とかそういう問題じゃないでしょ!あんたがやろうとしていることは人殺しよ!わかってるの?」
両方の味方をするご都合主義者。果たしてそれでこの場は収まるのだろうか?いや、収まらない。何故なら……
「え?め、メーゼ?メーゼは俺の……味方、だよな?」
「……え?」
……俺がこの場を掻き乱すからだ。
「おい!メーゼ!!そいつはお前が味方だと言いやがるぞ!どう言うことだよ!!なあ!!!」
「……」
ご都合主義者は俺と勇者、2人を困惑顔で交互に見る。いや、見比べている。
お前が何を考えているか、当ててやろう。
どうしたらこの場を収められる?どうしたら……じゃねぇな。そんなの、今までの行動でよくわかるよ。
富、名声、力、全てを持って……いた男と、お前を5年以上待ち続け、裏切られてもなお優しい幼馴染。どちらを選ぶか、勇者を選ぶと、唯一残った大量の金で一生遊べる。それに、今ならまだ顔以外は取り戻せるかもしれない。その時、いつまでも味方でいた私は……
……いや、優しい幼馴染なら今後の人生は楽に暮らせる。少なくとも一軒家を持つ程の金は持っているのだから。もしも、より、今、が大事なのでは……?
チッ、まあ大方こんなとこだろ。そんなお前に師匠の言葉を贈ってやる。
「二兎を追う者は一兎をも得ず」だ。
いつまでもその立ち位置は許さん。今すぐどちらか選べ。勇者か俺……この二択をな。
ま、ここで勇者を選ぶようなら、理由はどうあれ許してやる。ただし、俺を選ぶようなクズならもう知らん。永遠の苦しみを与えてやる。
「いつまで黙ってるつもりだ!メーゼ!もしかして図星か!?」
「え、いや、ち、ちが。そうじゃ……いえ、そうよ!私はケイと共に生きることに……
はは、お前はほんっと……最低な奴だよ。
地獄へようこそ。メーゼさん。
気が向いたら連載版書く。その時はいろいろ詳しく書くと思う。気長に待ってて。
ブクマ、感想、評価、ありがと。
バイバイ。