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赤い手帳と無彩の天使  作者: ひるや@さな
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ちょっと短いけどこれでおしまい。

お疲れさまです。

 それから1年と少し過ぎた4月の半ば、私はリビングでテレビを眺めていた。麻橋君は、つい最近、またなにかの会社のイメージキャラクターに抜擢されたらしい。雛段に座り、ほかの出演者たちと楽しそうに笑う麻橋君の前髪は、ちょうど額の傷痕を隠す形で下ろされていた。

 あの事件については、テレビはノータッチだった。もちろん麻橋君がスケジュールをこなせなくなったことの調整はあったはずだけど、その点がクローズアップされることはなかった。インターネットと週刊誌のほうで取り沙汰され、居合わせた私もそれなりに大変な思いをした。両親にも迷惑をかけてしまった。

 興味本位にクラスメイトに訊ねられることもあった。全部偶然だったと言い張った。中学生のときにちょっと仲よくしていたことを調べてくる子もいたけど、それも上手くちょろまかした。

 連絡は一度だけ、他人行儀な文章で、迷惑をかけたことのお詫びを綴ったメッセージが届いた。友達になろう云々の一切には触れていなかったので、私も無難な文章を送信した。それきり返事はない。

 ちょうど番組が終わったので、なにげなくリモコンを手に取った。番組表の詳細には、また麻橋君の名前が出ていた。リストを一周し、結局チャンネルを変えずにリモコンを置いた。 

 あのとき彼が及んだ行為について、本人が弁明することもなかった。麻橋君は未だにSNSの類に触っておらず、個人発信のブログもないのでメディアのほかに発言する場がないのである。彼がインターネットよりも知恵の輪や謎々といった頭を使う暇潰しを好むことは、結構有名だった。

 でも、現場の前後を目の当たりにした私には、思うことがあった。彼は、嫌になっただけだったのではないか。頭を塀にぶつけ始める直前の空白に、答えが埋まっていたような気がしていた。

 自室に引き上げ、学習机の隅を見た。あのとき轢かれた石の天使は、きちんと彩色してあった。別の石とくっつけたり粘土と合わせたりして、修復を図ったものだ。そんなに悪くない仕上がりになったと思う。

 空白の後、無理だと思う、と麻橋君は言った。あれは私が友達に相応しくないし例の完成品も見たくないという意味ではなく、自分はもう死ぬことにしたので友達にはなれないし、完成品も見られないという意味だったら。そう考えると辻褄が合う。私には空白に見えたあの時間に、彼は算段したのだ。既に嫌なことだらけになっていたのだから、私と友達になったとしても、どうせ嫌になってしまうこと。それを私が知れば、またショックを与えること。嫌な気持ちにさせた自分自身が、またしても嫌になること。悪循環の嵐に見切りをつけたいなら、終わりにするしかないことまで。

 私が妙なことを言わなければ、彼は死のうとしなかったのだろうか。その疑念はとうに決着していた。友達にもなれなかった私が影響するくらいなら、きっとこの先何度も、成功するまで彼は繰り返す。あのときはタイミングが被っただけ。その結論は私にとって救いでもあったし、残酷な結末でもあった。

 欲しかった感情を得た彼が映す今の世界は、どんな色をしているのだろう。彼は人間になれたのだろうか。見切れした外に散らばっているであろう笑顔や仲間との掛け合いが、あの悲しい人間メモから形成した嘘や仮面ではないことを、私は切に祈っている。

 

どうもありがとうございました。

目はちゃんと冷やしてね。

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