1章16話 マリネと修斗
少し長めかもしれません
「修斗!来てくれたんだ修斗!」
私はあまりの嬉しさに抱きつこうとしたが、鎖が繋がっている事に気付いて抱きつけなかった。
それを見た修斗は何も言わずに見た事もないような魔道具を発動させたようで、何かバァン!と言う破裂音と当時に鎖が破壊された。そのまま修斗は私の手錠も破壊してくれた。
「ありがとう!しゅう…」
改めて修斗の顔を見て俺を言おうとしたが、修斗の顔を見た瞬間私は声が出なくなった。
なぜならあまりに修斗の顔が怖かったからだ。
これでも私は数多くの死線を潜り抜け、どんな凶悪な魔物とも退治した事がある。ドラゴンだってこの身一つで倒した事もあるし、繁殖期のゴブリンの巣に単身乗り込んで壊滅させた事も、凶暴期のワータイガーを素手で倒した事もある。
だが今の修斗の顔はそれのどれよりも純粋に恐ろしい。
綺麗な黒い目は今では深淵のような暗黒色で、顔はまるで伝説に言い伝えられる破壊の魔神のような凶悪さ、そして側にいる私ですら武人として屈服せざるおえないその気威圧感。
「しゅ…しゅう…」
「【リターン】」
地獄の猟犬のような低く恐怖心を煽る声で修斗は私にそう言うと私はいつの間にかエロームに攫われる前の場所にいた。そこではユーとマオが一生懸命傷付いたうちの騎士達やおそらくエロームにやられた冒険者達に回復魔法を施していた。
「あ!マリネさん!」
ユーが私を見てそう言うとエロームに吹き飛ばされたはずの騎士達は怪我を負っているのにも関わらず私の方に飛んできた。
「だんちょぉおおお!」
「どこ行ってたんですかぁあ!」
「心配したんすよぉおお」
「怪我は?怪我とかは無いっすか!?」
「ユーさん!俺の事はどうでもいいのでまずは団長を!」
皆を心配させないためにも私は声を張り上げて元気だと伝えた。
そうやって落ち着いてきた頃、私はユーとマオのように駆け寄った。
「ユーさん!マオさん!武闘大会は?」
「ええ。このバトルロワイヤルはとりあえず私とマオと、あとさっき帰って来たマリネさんしか今はいないので、初日は私達の勝ちじゃないですか?」
ユーはそう言うと、放送がかかった。
「そこまで!今現在立っているのは…ユー選手とマオ選手…そして我らがマリネ団長のみ!と言う事で初日のヴィク・バトルロワイヤルはこの三名が勝ち残ったぜ!残りの7名を決めるのはまた明日の試合ダァあ!今日はここまで!確実傷の手当てなどをしたらゆっくり祭りを楽しんでくれ!明日も同じような時間に始めるぜ!それじゃ!あばよ!」
そう言うと放送が終わり、皆おのおの帰っていった。
「騎士団!今日はご苦労だった!皆今日は帰って休んでくれ!」
「「「「「はい!」」」」」
騎士団員達もぞろぞろと帰っていった。
それから私はユーとマオと一緒に家に帰った。
帰る途中、私はユーとマオに色々質問責めにされたが、なんとなくぼんやりとした答えしかしなかった事を覚えている。
家の門を潜ると、屋敷の方から1人の人影が見えてきた。
よく見るとそれはバルトだった。
「お!お嬢様〜!」
バルトは私の目の前に着くと、いきなり私にハグをした。
「お嬢様…この老いぼれめを置いていかないでください…」
優しいハグとその優しい声に私はつい気が緩んでしまい、気づかないうちに涙が流れていた。
それを見たユーとマオはそっと門を閉めると、先に屋敷に入ると言って、メイド達と一緒に行った。
「お嬢様…本当に…本当に心配しました…」
その暖かい声の心配を聞いて、私は堪らず泣き出してしまった。
「怖かったでしょうね…お嬢様…一緒に帰りましょう…」
私はバルトと一緒に屋敷へと戻って行った。
屋敷では多くのメイドがソワソワしていて、ユーやマオも困っていた。
しかしそんなメイド達も私の姿を見ると、仕事の手を止め私の方に来て、抱きついてきた。
「お嬢さまぁああああ!心配したんですようぇええええん!」
「そうですよぉおおおお!お弁当を届けにバルトさんが向かわなければ本当に気付きませんでしたぁあああ!」
「そうか。バルトのおかげなのか」
「少しは反省してくださうわぁあああああん!」
皆、涙を流して私を心配してくれたのだと思った。
そう思うと私もまた涙が出そうになった。
するとバルトが手を叩いてメイド達に言った
「はいはい!みんないつまでも泣いてないで、お嬢様のお世話をしてください!お嬢様はお疲れでしょう!全力でお仕えしてください!」
バルトがそう言うと、メイド達は一斉に頷き、私を引っ張って行ってしまった。
そのまま為すがままにお風呂に入れられ、服を着替えさせられ、食事を食べさせられ、そのままベッドに入れられてしまった。
「いやまだ眠くないんだが…」
「良いからお嬢様はお休みください!ただでさえ激戦なのに誘拐される始末!不肖このメイド長!命にかえてでもお嬢様をきちんと休ませます!」
「はぁ…わかった。それじゃあお言葉に甘えて休むよ」
まだ昼を少し過ぎただけだけど、今日一日色々な事があって精神的に疲れていたのか、私はぐっすりと眠ってしまった。
そしてまた悪夢を見た。
知らぬうちに男達に口を塞がれ、手足を拘束され、純潔を散らされそうになった。
そこで私は目が覚めた。
酷い寝汗だった。
体の震えが止まらなかった。
歯がガチガチと噛み合っていない事に気付いた。
なんとか落ち着こうと思い、メイドを呼ぼうとして周りを見渡すと、外は満月の月の夜だった。外が夜だと言うのを確認したら、なんだか寒くて布団を深めに被った。
窓は閉まっているはずなのにどうしてこんなに寒いんだろうともう一度窓に目をやると、
窓淵で修斗が座っていた。
修斗は月を見ているようで、こちらに様子には気づいていない。
「しゅう…修斗?」
私がそう声をかけると、それに反応するようにゆっくりと振り返った。
「…………。」
修斗は無言で私をじっと見つめた。
その目はあの時見たような恐ろしい目ではなく、いつもの目だった。
「修斗…その…」
修斗は黙って私をじっと見つめていた。
「……その…私を…」
助けてくれてありがとう
そう言葉にする前に、修斗はゆっくりと私のそばにやってきて、そのまま私を抱きしめた。
私を少し痛いくらいしっかりと抱きしめた。
私も抱き返した。
バルトとは違った、男の人の体。
訓練で相手をして投げ飛ばしてきた騎士団員達ともまた違った男の人。
私はバルト以外の男に進んで抱きつく事は嫌がっていたが、修斗なら良いと思った。
それから修斗は私の頭の横でこう言った。
「遅れてすまなかった。離れてしまってすまなかった」
そう修斗は私に謝罪をした。
ここまで男の人に心配をされたのはいつぶりだろう。
団長になってからは常に強く強くあろうとして、女を捨てたつもりだった。
だが、私はもう耐えられなかった。
私を可愛いと褒めてくれる修斗
私に必死ながらもついてくるか修斗
一緒に住んでいて安心する修斗
私のピンチに身を呈して守ってくれる修斗
そうして自分にとって修斗とは何かを思い返して、私は一つの感情に気がついた。
いつからか、私は修斗の事ばかり考えていた。
きっとこれは私が昔捨てた女としての感情
これは恋だと今確信した。
小さい頃の母の言葉を思い出した。
「本当に好きな人の為なら、貴方の事を全てあげなさい。その人は自分のもの全てを全てあげられる人なら、きっとその人は貴方の運命の人よ」
私は決めた。
「ねぇ、修斗」
そう言って私は修斗を押し倒した。
「私は二度とあんな思いはしたくないの」
泣き出しそうになる声を押し殺して、必死に言葉を伝えた。
「だから、貴方が私を守って、私が貴方を守るから、だから、貴方も私を守って」
私は思いつくだけの言葉でそう言った。
そう言って私は修斗に口づけした。
はっきり言うために、私は一息ついてこう言った。
「修斗、私の全てをあなたにあげる」
メイド達
「きゃああああ!ついにマリネ様が言ったわぁああ!」
「様子見に来て良かったわぁああ!」
「きゃ!まさかあの2人そのまま!?」
「例えそうだとしても修斗様ならいいわ!」
「私達はマリネ様の幸せが一番ですから!」
今日も元気である。




