ひたすら上へ
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正面玄関は遠目で見るとそうでもなかったが、近づいてみると想像以上に巨大だ。
扉に鍵はかかっていないようで、その大きさとは裏腹に弱い力で開ける事が出来た。
その先には室内にも関らず中規模の庭があり、そのまた向こう側にエレベーターがあるという作りだった。
だがここにも当然のように数人の見張りが立っていて、俺を不思議そうな表情でジッと見つめられた。
「何見てんだコラ?」
なるべく関りは持ちたくなかったがつい売られたような気がするだけの喧嘩を買ってしまう。
これではただのチンピラと変わりない。
彼らはどうか落ち着いて下さい、とあくまで来客者として扱ってくれたがイライラしていた俺は問答無用で殴りかかってしまった。
そして倒れたところに跨り、2回3回と立て続けに殴りつけた。
すぐに周囲の警備員達が駆けつけてきたが歯止めの効かなくなった俺は彼らを迎撃した。
今思うと荒れ狂うだけの暴走人間を相手に立ち向かう彼らは相当勇敢だ。
しかし数秒後には彼らも床に倒れ、身体のいたる箇所から血を流すだけの地獄絵図の材料となった。
ペンキを塗りたくったように真っ赤になった壁に何度も彼らを叩きつける内に俺はようやく平静を取り戻したがその頃には既にここに何をしにきたか、という目標が分からなくなっていた。
自暴自棄、怒り任せというほうが正しいか。
従軍時代からこのような性格で上官からよく殴られていた事を思い出す。
同じ部屋にいる最後の人間に止めを刺すと、まずエレベーターを使って上の階へ向かおうとした。
目標は30階に位置する社長室だ。
関係者以外立ち入り禁止と書かれているが知った事ではない。
上昇するためのボタンを叩くように連打して少し待ち、違和感を感じ始めた。
5分待っても10分待っても呼んだエレベーターがこの階層に到着する気配がない。
やはりエレベーターは止められていたんだ...上の奴等は俺の存在に気づいていたか。
仕方ない、と監視カメラに中指を立てながら非常用の階段を上り始めた。
疲れ切った足を叱咤し1段飛ばしで上へ上へと効率良く上がっていく。
だが疲労は思いつきだけの効率を押し潰す。
階段を上がるだけでもこの苦労だ、もはや筋肉が痙攣を起こし始めていた。
四肢の筋肉への重い負担が直に脳に伝達される。
早足で、まるで老いた老人のように息切れを起こしながら何とか10階へ到着する。
まだ3分の1だと考えると疲れがドッと身体に染み込む。
下の階からはバタバタと階段を駆け上げる複数の足音が聞こえ始めた。
恐らく俺を追って奴等が動き出したのだろう。
「早めに片付けて置かないとこの先厳しそうだな」
一人で苦笑いをしながら両手の骨をポキポキと鳴らし、臨戦態勢へと身体を備える。
集団の足音や息を切らす声は次第に近くなり、遂には一人目がその姿を現した。
まだ俺が目の前にいるという事にあちら側が気づいていないのもお構いなしに、俺は階段の三段目から思い切り飛び掛った。
腰から抜いたナイフで喉を掻っ裂き、喉仏を抉り出す。
立て続けに二人目の腹もドスを突くような勢いで貫いた。
そいつとは死に際に目があったが、一切の躊躇なく石ころのように蹴り飛ばした。
背後からは四人、五人とここの従業員達が顔を出し始め、その場は一瞬の内に激戦区と化す。
全員同じ制服を着ていたおかげで判断がしやすかったんだ。
そんな奴等から噴出す汗、涙、そして血。
それらが合わさり生まれた鼻を突くようなこの上なく酷い匂いが俺には心地よく感じた。
人間という物はどこまででも残酷になれる。
目的もなく、ただただ快楽を得るために笑いながら人を殺しまわれるんだ。
獣のように。




