道なき道
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気づけば俺は眠っていた。
窓からは日が差し、晴れ渡った青空が朝だと意思表示しているように見える。
だがやはり静かだ...鳥の囀りも聞こえないし、人の声なんて論外だ。
俺は寝ぼけた頭をリフレッシュするため窓から顔を出した。
ここは3階建て住宅という事もあり中々遠くまで見渡せる。
「もしあの青い空が天国ならここは地獄ってとこか」
地上はまさに地獄絵図だ、見下ろせば所々に倒れている死体と大量の血が悲壮感を演出する。
俺はなるべくその光景を目に入れないため、遠景に目を逸らす。
遠くにはビル群が見え、それぞれ今にも倒れそうな程の損傷を負っている。
ノースゴーストで1番高いと言われ、テレビなんかでもよく映されていた塔は今も健在だ。
異常なまでに長いツタが伸びているところを除いては。
それはさておき、これはこれで綺麗な景観だ。
肘を立て呆然と眺めていると、ある事に気がついた。
ここから見た所15マイル程離れた所にある洒落た屋根の特徴的なビルから、不自然な光が放たれている。
ただの鏡の反射にしては明るすぎるし、それに定期的だ。
大体2、3秒おきにまるでモールス信号のようにチカチカと存在を訴えていた。
生憎海軍ではなかったためそちら関係には詳しくないが、もしや助けを求めているのだろうか?
だとすると似たような仲間がいるかもしれない...そう思った俺はすぐに準備に取り掛かった。
自分でも驚く程のやる気だった、身体の底から力がみなぎってきたんだ。
絶望の中で、遠くても希望を獲得する瞬間をその身に感じた。
俺は手元にあったリュックサックと飲み水、そして銃とありったけの弾薬を持って家を出た。
名残惜しさなんて微塵も感じなかったよ、考える前には既に実行に移していた。
家の前に廃棄された車を使おうかとも思ったが...ダメだ、どれもエンジンが死んでる。
ボンネットはこれ以上ない程にボコボコになり、ガソリンは漏れていた。
仕方なくトボトボと歩き出したが、徒歩だと相当な距離になるだろう。
かなり入り組んだ街路なのでよくて2時間、迷えば3時間はかかるかもしれない。
おまけに太陽がジリジリと頭頂部を熱してきやがる、まさに地獄だ。
今にも倒れそうなむし暑さと死臭の中を歩いていたその時ふと背後で同種の声を感じ取った。
死人しか残されていないこの巨大な墓場で生命体を発見出来るか、と僅かだが期待を持つ。
瞬時に振り返り、腰から銃を抜いて身構えた。
そして極繊細な警戒も怠らずに気配を感じた方向へと向かう。
直後、バッと道端に人間サイズの影が現れ、それはかなりの速度で走り出した。
聞いた事のないような奇声をあげながら涎を垂らし続けている。
恐らくこの惨状を目の当たりにして精神をやられ、ついには発狂してしまったのだろう。
突然の事に驚いた俺は反射的に引き金を引いてしまい、弾丸は見事に脳味噌を飛び散らせた。
ただでさえ参っている身体にそいつは余計な負担だ。
俺も唯一の希望を捨て、諦めたらあのようになってしまうのか、それとも...。
色々と考え込んでしまうが結論的には前に進むしかない。
立ち止まる前から後の事を考えてどうする...そもそも、立ち止まるわけにはいかない。
だがその強い志しがかえって脅迫的なものとなりつつあった。
結局自分が一番、自分を分かっていないんだ。




