辛抱
[マーク]
ノースゴースト...24番街...よし、ここであってるな。
って、ここラブホテルじゃねぇか、彼女連れてくれば良かったぜ。
...あ、俺彼女いないんだ。
い、いやそんな事考えてたらやる気が失せる、気を取り直そう。
このホテルの前に警備員らしき人物は見当たらない。
それにここら辺は人通りも少なく、第三者に見つかる事もないだろう。
俺はマスクを被り、小型斧を隠すように持ち出した。
2.5メートルはありそうなデカい扉を開けると受付のロビーが広がっていた。
受付嬢はビビってこっちをジロジロ凝視する事しか出来てねぇ。
違法なホテルなだけあって、サツを呼ぶ通報ボタンがカウンターについていないらしい。
だから誰一人としてサツを呼ぼうとしなかった、ただシャッターが下ろされただけだ。
まぁ、そんな事知った事じゃない、俺は正面の階段を上った。
2階につき、廊下を歩いているとようやく人間に出くわした。
そいつは酷く泥酔していて、女二人に支えてもらってやっと歩いてるって感じだ。
その男は俺に気づくと、マスクを見て驚愕した。
「お前今朝ニュースでやってた大量殺人鬼で間違いないか?」
....馬鹿だった。
普通の人間なら逃げるところを、こいつは勇ましくも、俺に話しかけたのだ。
驚いたのはこっちのほうだ。
「なぁなぁ、サインくれよ。アンタに会えて嬉しいぜ、俺チョーハッピー的な?」
殺人犯にサインを強請る事のリスクをこいつは分かっちゃいない。
両脇の女二人は既に2、3歩下がっている事に気づいた。
もう面倒臭くなったのだろう、勿論俺も面倒臭い。
これ、意見の合致って事でいいんだよね?
俺は問答無用で酒臭い男の頭を斧でかち割った。
頭蓋骨の破片と脳味噌が後ろにいた女二人に飛び散った。
このクソ女共、悲鳴を上げやがったんだ。
こりゃヤバいと思った俺は二人の腹に斧を叩きつけ、臓物を引き抜いた。
片方はそれでも生きてたため、上に跨って斧で首を何度も切りつける。
2、3回刃先を叩き付けたところでくたばったようで、5回目で首は胴体とお別れした。
やっと静かになった、がその叫び声を聞きつけたのか奥の部屋から男が顔を出した。
そいつは俺を見るなり扉を閉め、鍵をロックした。
証人となるとこりゃ厄介だ。
俺は男のいる部屋の木製のドアに斧を何度も叩き付けた。
そろそろ斧がやばいんじゃないか、と言うほど何度も、何度も叩き付けたんだ。
そしたら一部に穴が開いた。
20cm程のサイズの穴だ。
中を覗くとさっきの男と目があった。
ビビってベッドの上で蹲っているが、可哀相に、この穴から手を突っ込めば内側の鍵に手が届く事にアイツは気づいちゃいない。
俺は勢いよく左手を部屋の中に突っ込み、ドアを開錠した。
少し手間取ったが、奴は逃げてない、格好の餌食だ。
俺はニヤリと笑い、扉を壊す勢いで開ける、よくあるSWATの突入みたいな感じにだ。
俺はこれで足を痛めた、小指が折れたんだよ畜生。
だが動揺すると舐められちまう、あくまでポーカーフェイスを決めながら奴に歩み寄った。
血まみれの斧を取り出し、より恐怖の底へと連れて行こうとする。
だが、何か様子がおかしい。
そう思ったのも束の間、奴はキッチンから取り出したんであろう包丁をこちらに向けて突っ込んできた。
俺は間一髪でそれを左に避けたが、腹部が少し切れた。
だがこんなのは大した事ない、あと少し遅れていたら死んでたからな。
奴は振り返り、イノシシのように猪突猛進をしてきた。
だが奴は俺が避ける事は予測してるだろう、その場合、奴は左か右かどちらかに動く。
しかしそうなるとその動きは完全に運否天賦のルーレット状態になっちまう。
確立は50、50のゲームだ。
なら、俺はチートを使ってやるさ。
俺はその場で構えを取り、突っ込んできた奴の包丁を左に流した。
上手くかわせたようだが、いつ戻ってくるか分からない。
まるで追尾式ロケットだ。
直後、俺は間髪居れず後頭部に斧を突っ込んだ。
奴はその場に倒れ込んだ。
俺はこの時点で勝ちを確信した、頭を斧で割ったんだぞ?
だが、奴は立ち上がったんだ。
自分の脳味噌が溢れ出てるというのを知っていながら。
後頭部を左手で押さえながら切りかかってくる。
こいつはホントに人間か?こんな奴は見た事がない。
このままじゃ俺がヤバい、逆に奴は死ぬまで俺を追いかけるだろう。
俺は一目散にキッチンの方向に走った。
ここなら何かあると思ったんだ。
何かいい物はないだろうか、引き出しや戸棚を隅々まで調べる。
すると、引き出しの奥に何か長い物が見えた。
リーチがあれば何でもいい、俺はそう考えていたんだ。
だがまさかこういう結果になるとは。
出て来たのは菜箸だった。
神よ、アンタは俺を見放したか?まぁ、見放されてもしょうがねぇとは思うが。
俺はさっきの野朗のところへ戻った。
奴は後頭部を触りながらビクビクと震えている。
実に気味が悪い、低予算のホラー映画の100倍は怖ぇ。
奴は俺に気づくと、狂乱しながら歩いてきた。
だが手に持っていた包丁がなくなっている、どこかで落としたか。
きっと脳をやられたせいで手が麻痺したかなんかで物を持つ力が働かなかったんだろうな。
その目は殺してくれと言わんばかりにこちらを睨みつけてくる。
俺はその目に苛立ちを覚え、躊躇なく菜箸の片方を奴の右目に刺した。
血は出ない、奴は菜箸を押さえ、引っこ抜こうとするが、あまりの痛みに抜けないようだ。
散々喚きに喚き、身体中で痛みを表現してくれた。
疲れた俺はベッドに座り、奴の地獄を客観的に眺める。
奴は身を貫くような痛みと恐怖に叫び続けていたが、その叫び声をピタッと止めた。
どうしたのだろうと不審に思った次の瞬間、奴は菜箸の先端を思い切り壁に叩き付けた。
グシャッという音と共に菜箸はより奥へ奥へと潜っていく。
無言で頭を壁に打ちつけるその姿はシュールさと共に狂気のオーラを纏っている。
菜箸を血が伝って垂れていく。
そして、その動きはピタッと静止した。
...恐らく脳に達したんだろう。
が、中々倒れない。
目は完全に光を失い、虚ろになっているのに、奴は立ったまま動かないのだ。
俺が近くにより、肩を押すと、やっとバランスを崩し倒れた。
全く、往生際の悪い奴だ、死ぬんならさっさと死ねっての。