贖罪と報復のために
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宙を泳いだ目は徐々に焦点を合わし始め、旧友を捉えた。
久しぶりに彼を見て俺は嬉しさのあまり飛び出しそうになったが足は俺の意思を否定し、動く事を拒む。
見るだけで分かる、普通ではない。
エリックの身体は傷だらけで、服は血で染まり爪は剝れている。
俺を見るその目はもう友人を見る目ではなく、まるで以前とは別人...獲物を捕らえる獣だ。
だがどこか泣き出す直前の子供のような物悲しさも感じ取れる。
一体何があったのかと問う口も開かず、ただその場に立ちすくんでいた。
すると彼は手に持っていた血塗れの紙を見せ付けるように差し出した。
クシャクシャに丸めた跡が読み取る事を困難にしたが、そこには大きい文字で俺の名前が書かれていた。
それを見て背筋が凍りついた、まるで呪術の一種のような強い憎悪を感じたような気がしたんだ。
そしてようやくエリックが口を開いた。
「忘れてないよな?」
ひどく低い声で心臓を鷲掴みにされた気分になった。
けど何の事かは全く分からない、覚えいるか否かではなく俺は何もやっていないんだ。
「その手紙の事か?そうだとしたら俺は何も身に覚えはないぞ。」
どういうわけか声が、手が、足が震え出す。
俺の返答を聞いた彼は嘘をつくな、と眉を顰めた。
今までにここまで胸糞の悪い再開をした事はあっただろうか?
エリックの表情は段々と鬼のような形相に変化し始め、声の勢いは増した。
「お前が僕の妻を、息子達を、未来さえも奪ったんだ!」
初めて彼の口から発せられた悲惨な事実に俺は何も言い返せなくなった。
もしここで俺が冤罪だと対抗した所で彼を刺激するだけだ。
黙り込んだところに追い討ちをかけるかの如く2文、3文と続けるがもはや耳には何も入ってこなかった。
過ちを真に受けても話は進まないからだ。
責める言葉を無視し続け、ずっと呆然と放心状態でいるといよいよエリックが俺に掴みかかってきた。
手にはナイフを握り締めていて、その威勢は獰猛な狩人そのものだ。
一気に我に帰った俺は刃先を突き立てようとする腕を掴み、肘の関節の曲がる方向とは逆方向に肘を投打した。
ドンッという音と共に振動が手に伝わってきたが、これは骨を折ったわけではない。
本当はこんな事はしたくなかったが、少しの間動けなくするため筋肉を外したんだ。
彼は痛みに悶絶し床を転げまわったが、すぐに落ち着いた。
それどころかピンピンしていてすぐに起き上がった。
深呼吸に似た深い呼吸をしながら腕を曲がった方向とは逆側に勢い良く戻した。
そしてすぐにその腕で落としたナイフを拾い上げ、勢い任せに振り回し始める。
怒りに我を失った彼の滅茶苦茶な攻撃を見極めるのは簡単な事で、上下左右に迫るナイフを避け続けた。
悪魔に魂を売ったアンデッドのように鼻息を荒げ猪突猛進だ。
俺は一瞬の隙をつき腹に思い切り右足を叩き込んだ、だが勢いは収まらない。
すぐに態勢を立て直し、近くにあったグラスを投げ始めた。
グラスの欠片は俺の頬をかすめ、手を切り、腕の皮膚を裂く。
「もうやめろエリック!俺はお前の家族を殺していない、何かの間違いだ!」
何度も叫んだが俺は分かっていたよ、どんなに叫んだって彼は止まらないという事を。




