リラプス
[エリック]
深夜の市街地内に肉が引きずられる音が響き渡る。
人目は勿論、外灯など一切無い真っ暗な路地裏へ女の死体をズルズルと運び込む。
彼女の身体を珍しいレンガの地面に無造作に下ろし、持ち物を漁る。
肩からかけていた革製の黒いバッグには幾つかポケットがあった。
その中には財布、免許証、そして幾つかの仕事用の書類と複数のUSBが入っている。
スーツのポケットも隅から隅まで調べたがさほど重要そうな物は入っていなかった。
一通り探り終えるた僕は彼女をその場に遺棄し、そそくさと立ち去る。
財布からは免許証と同時に車の鍵も発見出来たため、先程彼女の乗ろうとしていた車に乗る事にした。
乗車するとラジオが自動的に点けられ、そこではマークのニュースが流れている。
せいぜい頑張れ、だが警察が束になってマークの位置を割り出した頃には奴は死んでいるだろう。
奴を殺して英雄になろうというわけではない、あくまでも私怨だ。
僕は警察署前の中規模駐車場からやや急ぎ気味で車を出し、拠点へ向かう。
一言に拠点と言っても元々は蝮の家だ。
あの狂ったサディストの家を使うのは快い事ではないが僕は家にはもう戻れない。
愛する家族が憎き旧友に虐殺された後警察がすぐに駆けつけ、家を侵入不可能にしたんだ。
あまり思い出したくない過去ではあるが...あの時僕の未来は失われた、忘れるのは諦める事を意味する。
奴は犯罪の連鎖反応を生み出し、国を混沌に陥れようとしているわけだが所詮は冷徹なクズだ。
僕の家族を奪ったのも、きっと奴に家族がいない事による価値観の相違によるものだ。
ふと空を見上げると一面の星が汚れた復讐のために人生を捧げる僕を馬鹿にしているように見えた。
今夜は珍しく街中が静寂に包まれている、どういうわけだか分からないが。
電波状態が悪いせいかラジオもずっとノイズだけを流し続けている。
普段なら息が苦しくなる程大勢の人々が行き来している洋服店やレストラン等もシャッターが降ろされていて、周囲にはたった一人の通行人も見当たらない。
これが嵐の前の静けさという事か、と溜息をついた。
その後数十分の運転を終え拠点に到着した僕は盗んだ物品を一通り両手に抱え扉を開けた。
部屋にはデスクトップ型のコンピューターと蝮があの女と共に割り出したマークの大体の場所を示した記録があり、これはかなり役立つだろう。
全く、蝮の携帯の着信履歴を全て調べるのに時間をかなり浪費したものだ。
まずは盗み出したUSBをパソコンに接続、次に蝮の資料と奪取した書類を照合する。
見比べるんだ、両者の調査した結果のどこにどのような違いがありどこが重複しているか。
重複した部分は残し、噛み合っていない部分は廃棄する。
それはさておき、USBの中身はどうなっているんだ?
「ああクソッ!」
パソコンの画面に表示されたのは膨大な量のデータの山。
その上それらが大きく13個にファイル分けされていて、証拠、道程、行動等が詳細まで調べられている。
その中から本当に重要な部分だけ見つけ出さなくてはいけないわけだが...これは恐らく徹夜作業になる。
睡眠欲への対処方としてカフェインが充分に含まれたコーヒーでも飲んで英国式にいくか?
それはそれでお上品でいいが書類にかけてしまったら大変な事になる。
フンッと鼻で笑い、作業を開始した。




