解放という名の下に
[蝮]
この3日間の間に8人の男女を年齢問わずエリックに誘拐させてきた。
闇夜の影から近づいてパッと掻っ攫うんだ。
そして周囲の人間が振り返った頃にはもう煙のように消えている。
流石マークに育て上げられただけはある。
そう、奴に対する報復心によって彼は教育され育成されたんだ。
その報復心を俺は利用させて貰っているだけだ。
「さぁ...それじゃ早速聞いていこうか。近年有名な連続殺人鬼についてだが、彼に心当たりにある人はいるかな?」
いきなり核心に迫る。
俺はあの仮面の写真を見せ、優しい声で問う。
部屋には拉致してきた男女が8人全員一列に座らされている。
裏でエリックが拷問の準備を開始している音が聞こえてきた。
ナイフを研ぐ音が部屋中に響き渡る。
その音が一度なる度に連れてこられた者達は悲鳴を上げ、また一部は諦めたように涙を流し俯く。
愉快で堪らなかった。
恐らく誰も知らないのだろう、そんな事は分かりきっていた。
マークは、彼はプロの殺し屋だ。
彼を知っている者などそこら辺にいるわけがない。
じゃそれは何故か?簡単な事だ、彼の姿を見た者は皆この世にはいない。
目で認識し、次に声を出そうとした時には地獄の底まで引きずりおろされている。
「おい、生きて家に帰りたい奴はいないのか?」
エリックが俺を睨みながら大きめのダンボール箱を持って部屋に入ってきた。
「ならいい、ランチタイムとしようじゃないか。」
ダンボール箱を机の上に置き、ゴソゴソと中を漁る。
硬く、冷たい物が手に触れた。
持ち上げるとそれはズッシリと重い重量感溢れる物だった。
斧だ。
俺はそれを両手でバランス良く持ち上げ、餅をつく時のように一番左の男の肩に振り下ろした。
メシャッという音が他の7人に絶望を与える。
たった今右肩を失った男は自身の目で深く刺さった斧を見て小さく喘いだ後意識を失った。
グッタリとし、だらしなく小便を垂らす。
「失神したのか...。」
まぁいいさ、まだ7人も俺を楽しませてくれる相手は残っているんだ。
笑いながら再びダンボールに手を突っ込んだ。
...変な感触が指先を襲った。
何かが刺さったんだ、針のような物が。
「おい、エリックこれ...」
振り返った俺の右頬全体に衝撃が走った。
あり得ない事態に一瞬頭が追いつかなかったが、こいつに殴られたという事だけは分かった。
重心の統制が失われグラッと床に倒れる。
クソ、油断したからって調子に乗りやがって!
すぐに反撃しようとする...が身体が動かない。
攫って来た奴等が俺の身体を上から押さえつけていたんだ。
縛っておいたはずじゃなかったのか?
まさか、と思った瞬間刃物が俺の腹を刺した。
胃の中の物を戻しそうになる。
その後も何度も、何度も同じ箇所を散々甚振ったお返しだと言わんばかりにメッタ刺しにされた。
足でエリックの事を蹴っても彼は止める事はなかった。
俺の意識は死ぬその時まで途絶える事はなく、俺の充血した眼球はずっとエリックを捉え続けていた。
痛覚は既に死んでいた。
十字架にかけられた俺の魂だけがいつまでも生き続ける。
そしてエリックに成り代わってでもマークを殺す。
全てを呪い続けるんだ。




