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異世界から来た人格  作者: 狼狐
第一章:汚れ仕事
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堕落

[エリック]

家に着くと僕はすぐにシャワーを浴びた。

家族に血まみれの殺人鬼の姿は見せられない。

もう一つの"人格"を、温かい父親の姿とは別の冷酷な僕を、僕自身の手で作ってしまった。

バットで嬲り殺すなんてどうかしてる、狂気の沙汰だ。

家族に買ってきたピザはもう冷めた。

僕は自分の今の心を皮肉られているような気がする。

警察達の捜査能力は高い、もうニュースで報道されている。

僕はそのライブ中継をテレビで見ながら、懺悔と後悔の念に浸っていた。

だが、その心からの謝罪の中に、ある欲求が生まれた。

それもただの欲ではなく、まるで何か意思を持った、もう一つの心だ。


[マーク]

俺はあの仕事の後すぐに睡眠についた。

もう疲れてフラフラだったんだ、仕方ねぇ。

だがこの仕事は医者に処方されたどんな精神安定剤よりも効く。

以前俺はサディストだとか、精神断裂症だとか言う生意気な医者の声帯を強めの塩酸で焼き消し、看護婦達を皆殺しにした事がある。

丁度4、5ヶ月前だったか?俺は自分でやったって自覚がなかった、記憶はあるんだが。

意識混濁中だったのが知らねぇが、今考えてみれば多分その時にテッドが生まれたのかもしれない。

その後、薬を全部持って病院を後にした。

しかし最近その薬も底をついたんだ。

だから時期的に今回の仕事は丁度良かったのかもしれないな。

俺は硬いソファに横になり、自分の腕に彫られた虎のタトゥーを眺めながら優越感に浸る。

「それにしても....あの首を掻っ切った感触、堪んねぇなぁ...」

手を力強く握り締める。

ハッ、俺も堕ちたもんだ、これじゃただの快楽殺人者、殺人中毒者じゃねーか、ジャンキー(麻薬中毒者)とてんで変わんねぇよ。

あぁ、暇で仕方がない。

そんな時にタイミング悪く電話が鳴った。

ったく、面倒くせぇな。

俺は苛立ちを隠さず、喧嘩をする時みてぇな口調で電話に出た。

「あぁ!?誰だ、こっちはムカついてんだよ」

電話の相手は思ったより上品な人間らしく、こっちが怒鳴りつけたにも関らず丁寧な口調で対応した。

「すみません、ノースゴースト21番街にある家が汚くて、掃除しようにも私は身体が悪くて、代わりに大掃除を頼みたいんですけど、できますか?」

なんだと?俺はこれを逃さなかった、というより俺から進んで応えた。

「なんだって?任せろ、いや、やらせてくれ!」

無邪気な声で返答をした俺はすぐに電話を切り、マスクと小型斧をバッグに詰め込む。

俺は昨晩マスクの汚れを落としていないため、少し鉄臭い。

だがそんな鼻をさすような臭いも、テンションが最高値に達していた俺は気づかなかった。

好きな仕事で生きていけるなんて、こんなに良い事はないぜ。

まるで誕生日の前日みたいな気分で家を出る。

ショータイムだ。


[デニス]

朝から監視カメラ映像を見て証拠を探し続けている。

コーヒー片手に警察バッジを磨きながらな。

俺は警部を長年やってるが、今回は一味違う。

何せ謎のマスクの大量殺人鬼2人組がこの街に出没したんだからな。

朝から新聞の一面を返り血がついた不気味なマスクが覆いつくす。

勿論足元の死体にはモザイクがかけられていたが、そこからでも狂気は伝わってくる。

市民は恐れて家から一歩も出ようとしない、無理もないさ。

監視カメラ映像を見ていると、部屋に部下が急いだ様子で入ってきた。

入る時はノック位するのが普通なんだがな....。

「ハァハァ....警部.....ハァハァ」

「気持ち悪ぃよお前、何だ?」

「警部、以前車両窃盗容疑で逮捕された男が脱走し、立て篭もっているらしいです。」

立て篭もりか、この街のサツにとっちゃ日常茶飯事だな。

俺は驚いでかなり動揺する素振りを見せたが、内心は少しの焦りすら感じていない。

何しろこの街にある刑務所の警備はガバガバだ、去年も数回に渡って脱走犯が確認された。

だが治安最悪のこの街でそんな犯罪を誰よりも解決しているのはこの俺だ。

マスコミは俺を英雄と呼び新聞で俺の名前を公表し褒め称える。

俺はそれが嬉しくてこの仕事を続けている、他に理由はない。

だが犯人は必ず殺害してる、理由は明確、後日仕返しという理由で殺されないためだ。

英雄として有名になるためだったら無抵抗の一般人だって殺してやる。

俺は犯人が立て篭もっているという場所に覆面パトカーで直行した。

サイレンを鳴らさずになるべく警察だとバレないように近づく試みだ。

相手は頭のラリったジャンキーだが、そういう野朗に限って銃器の扱いに長けている。

だが、こっちは根っから逮捕する気なんてない、殺りにかかってる。

奴は動揺する暇もなく死ぬだろう。

目的地についた俺は家の囲いを登り、姿勢を低くして見つからないように脇へと回り込む。

デカい家だ、何故ここを狙った?ヤク中の思考回路は分からねぇ。

開いている窓を探し、一つ一つチェックする。

側面のドアは開いていない、残りは裏口だ。

他に侵入経路はごまんとあるが、それが一番手っ取り早い。

俺は最後の希望をそこに詰め込み、手をかける。

ビンゴ、立て付けの悪い窓は「ギッギッ」と耳に障る音をあげながら開いた。

内部に侵入すると、家は荒され、2階からは泣き叫ぶ声が聞こえる。

この家の家族だろうか?俺はおそるおそる階段を上る。

音を立てないように、慎重にだ。

360度に注意し、頭だけを壁から出す。

俺は薄暗い廊下に一筋の光が漏れている箇所を発見した。

中では拷問器具らしき道具を手に持った男と、2人の束縛された女がいた。

男は女の腕を掴むと、その細く白い腕に躊躇なくホッチキスをとめた。

何度も、何度も。

男はその女の泣き叫ぶ声を聞いて快感を得ているようだ。

とんだイカれ野朗だ。

俺はホルスターにしまったべレッタを取り出し、両手で構える。

撃った衝撃に耐えるためにがっしりと持つ。

俺は部屋に乗り込み、男に銃口を突きつけた。

錯乱し狂気じみた声を発した男はこちらに向きなおすと、両手をあげるのかと思いきや、その場で泣き始めた。

いい大人が情けない声で命乞いをしながら、鼻をすする。

「僕も....こんな事はしたくなかったんだよ警部さぁん、お母さんに合わせてくれ、一度でいいんだ、母親の顔がみt」

話にならない、俺は奴が最後まで弁解しきる前に頭に風穴を開けた。

頭蓋骨の割れる音が響き、頭から大量に流れ出た血は後ろの壁にまで跳ねた。

後日調査した結果、彼の母親は80歳という高齢で、この事件を知らされたショックで寝たきりになり、その後他界した。

実に胸糞悪い話だがこんな事はよくある物語だ。

俺は拘束された女達のほうに向きなおし、座り込んだ。

「助けて....っ!」

彼女らは擦れるような声で懇願する。

俺は少し考えた。

今ここで彼女らを助けるとする、それはそれで俺は英雄と呼ばれるかもしれない。

だが、彼女達をここで殺害し、その罪を今の男に被せたら、どうだろう。

状況は変わるかもしれない、つまりこの男は過去に車両窃盗、薬物所持の犯罪歴しか持っていない。

そこに殺人の容疑を足すという事だ。

この時俺は結局浅い考えのまま、俺は彼女達を無残にも殺めてしまった。

だが、俺が彼女達を撃つ間際、側近にカメラを持った男が見えたんだ。

一瞬で消えたし、幻覚だったのかもしれないが、奴は見るからにテレビ映画関係者のようだった。



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