異世界から来た人格
[マーク]
モロトフの死体に触れないようにカサカサと蟹のようにその場から逃げ出し、車に乗り込んだ。
あれほど恐怖を感じたのは久しぶりかもしれない。
この仕事についてからは間違いなく始めてだ。
だがそんな恐怖に襲われた直後だというのに俺はもう一つの苦しみに襲われる事となった。
車に鍵を差込み、ハンドルを握った途端俺の右手の痛みが鮮明になったんだ。
飛躍的に鼓動速度が増加し、全面的な苦痛と出血量がそれに伴い増加した。
そして急激敵な血圧の低下が目眩以上の症状を呼び起こす...意識の低下だ。
徐々に目の前がボヤけ始め、踏ん張る俺の視界を暗転させた。
[サム]
チェックリスト、雇用者労働表、司法書、その他もろもろの書類を全てシュレッダーにかける。
僕に出来る事は何より目まぐるしく変化する仕事環境への適応だ。
デニスさんの自殺後から署内は何かと荒れている。
署長は僕を助手から刑事まで飛び級レベルで一気に位を引き上げ、下の奴等は自署管外区域にまであの仮面の男に対する調査の手を伸ばし始めた。
その事によって増加するのは本人らの給料だけで僕にとっては仕事が増えるだけだ。
さてと、僕が刑事になった事によって助手がついた...女か、苦手だ。
まだ新人のようで何をするにも慌てる素振りを見せるためそれが僕にとってはストレスになる。
今朝も彼女はその異常なまでの焦りでコーヒーをこぼし、僕の服にぶちまけた。
だが怒りは仕事上不要な物だ。
さっさと次の仕事に移ろう。
[マーク]
気づくと俺はみすぼらしい、汚ねぇ部屋に横たわっていた。
身体には埃がついて床はゴキブリが這っている。
俺の腕にも何匹かくっついてやがる。
俺はそれを一匹とって潰した、ザマァ見やがれ!
だが俺は何故こんな所にいる?
俺は上体を起こしながら周囲を見回し、1人の男が椅子に座って退屈そうにしている事に気づいたがそれが誰かは分からなかった。
膝に手をつき立ち上がると、そいつの他に2人の男が俺を取り囲むように椅子に座っている。
丁度奴等の顔は影に隠れていて見えない。
だが....声は俺とそっくりだった、高さやトーンまでも。
「目が覚めたみたいだな。」
2人がゆっくりと吊るされ、左右に気味悪く揺れる豆電球から作り出された影から顔を出す。
不気味な事に、奴等の顔は俺の顔立ちと全く一緒だった。
「な、なんなんだよお前らぁ!」
俺は後ろでまだ椅子に腰をかけたまま動かない男に怒鳴りつける。
この2人が不気味すぎるからだ。
しかし返事はない、グッタリしたままだった。
苛立ちと焦りを隠せなくなった俺は動かない彼の首を掴み、引っ張った。
男は力なくその場に倒れた。
顔は同じく俺とそっくりだったが...どうやら死んでいる、原因は一瞬で分かった。
...ガラスの破片が大量に突き刺さっていた。
見てみると、頭部、喉、目、至るところから出血している。
「見当の一つ位つくだろう、こいつが誰だか。」
多汗症患者のように汗が身体中から噴出した。
俺の視線は倒れた俺に釘付けになり、その場に座り込んだ。
後ろじゃ先程から論争が続いている、片方の俺ともう片方の俺だ。
狂った状況、ウザったい論争、だけど俺はその両者に酷く共感出来た。
それが何故だかその時の俺には分からなかったけど今となってはハッキリと分かる。
奴等が俺の中の俺達だという事くらい。




