出勤
3話目から内容が強烈になり始めますので、ご注意下さい
[エリック]
マークは僕の車をこの大きなビルの駐車場に停めて、さっきのマスクを被った。
久しぶりの仕事だからだろう、神に何度も祈りを捧げている。
僕はというと、彼から貰ったマスクのお礼を言おうと、マスクをバッグの中に入れたままだった。
不安で心拍数は早くなり、恐怖に胃酸が逆流する。
震える手で僕はマスクを被り、トランクを開ける。
トランクの中には昔子供達と野球をする際によく使用した木製のバットが入っていた。
子供との思い出が凶器に変貌を遂げる、そう思うだけで反吐が出る。
持ち上げると、それはズッシリと重く、どこか懐かしかった。
しみじみとそれを眺め、素振りもしてみて、息子の笑顔を脳裏に浮かべる。
「おい、エリック何やってんだ、行くぞ」
懐古を楽しんでいると言うのに、彼は僕をやたら急かす。
はいはい、とオーバーな程に落ち込んだ素振りをしながら彼の後について行く。
そろそろ気持ちを入れ替えないと、仕事の時間だ。
[マーク]
正面玄関に着くと、一人の警備員が門番をしている。
奴はマスクを被った俺を不審がりながら、招待状の有無を確認し始めた。
なるほど、ここのビルは招待状がない場合は入れないのか、そこら辺はしっかりしてるんだな。
俺はエリックに招待状はお前に預けたか?と問う。
勿論エリックが持ってるはずない、彼は焦って持ってない事を証明した。
仕方なく俺は自分のジーンズのポケットを探る。
持ってるわけない、話した事もないのだから。
...が、これはあくまで俺の作戦の範囲内だ。
こんな事もあろうかと俺はポケットに小型のジャックナイフを隠しておいて、「ああ、あった」と見つけたフリをした。
門番は油断し、右手をこちらに差し出す。
その瞬間に俺は左手で奴の腕を掴み、右手でジャックナイフを首筋目掛けて力任せに叩き込んだ。
門番は声も出せないようで、大量の血をスプレーのように噴射しながらくたばった。
俺は大量の血の雨を頭から被り、14年前の感覚を思い出す。
感情の高ぶりが俺のアドレナリンを放出させる。
逆にエリックはと言うとひどく怯えている、無理もねぇ、殺人の瞬間何か中々拝めねぇからな。
今の俺は誰よりも冴えてる。
玄関の自動ドアが俺を更なる狂気へと導いた。
さっきの門番から密かに奪った銃で正面の警備員二人の頭に風穴を開け、側面の警備員にはナイフで相手をしてやった。
警備員は俺に掴みかかり、スタンガンを押し合えてようとする。
だが、俺はそれを横に避け、懐に誘い込む。
バランスを確実に奪ったところに、膝を突っ込む。
一瞬の隙も与えず、腹にナイフを刺しこんだ。
刃渡りの長いナイフは楽に内部奥深くへと侵入し、腸を掻きだした。
俺はその腸を素手で掴み、一気に引き抜く。
そいつはまだ生きてるようで、息を荒げていたが、こいつは後数分も経たずに失血で死ぬ。
床にそいつを叩きつけ、真っ青になった顔に蹴りを入れる。
慈悲?んなもん俺の辞書には載っちゃいねぇ。
[エリック]
酷い、マークはやってる事が凶暴すぎる。
マトモな人間にこんな事は出来やしない、じゃ奴はサイコパスなのか?そうは思えない。
僕は殺戮の現場で思い切り嘔吐してしまった。
彼は警備員の腸を掻きだした上に頭を蹴り続け、やっと止めをさすと次は近くで腰を抜かしていた社員らしき女性に社長の部屋を聞き出し始めた。
彼は何をするか分からない、危害の無い人間でも構わず殺めてしまうかもしれない。
「ちょっと、僕にやらせて。」
渋々マークは僕に尋問を任せてくれた。
「ねぇ、社長の部屋ってどこかな?」
女性はさっきの警備員の返り血を受けた手で6階を示した。
僕がお礼を言った直後、いや、言い終わっていないにも関らず、女性の頭は吹き飛んだ。
マークが僕のバットで彼女の頭を吹き飛ばしたんだ。
死体は無残にも原型を保っておらず、頭からは脳味噌が垂れ流しになっている。
僕は憤怒し、マークに何故殺したと何度も怒鳴った。
息子との思い出をこんな風に使うなんて、最初からやめておけば良かった。
だが、マークは僕をじっと見つめ言い放った。
「慈悲をかけるな。」
その言葉が何度も頭の中で反復する。
あんなマークは始めてみた、何かがおかしい。