怒りの矛先
[マーク]
俺は大音量で俺を呼び出す電話を黙らせるかのように受話器を取った。
受話器が真っ赤になるのが見て分かる。
「もしもし?」
素早く相手に威圧を与えられるよう低い声で応答した、もう手馴れたもんだ。
低く重量のある声質だけが威圧を与えられるのかと問われればそうでないかもしれないが。
電話相手は初めての客らしく少し心配なのか遠まわしに話す。
「あ、あの...こ、これから僕の家に来れるかな?ちょっと会ってくれないか?こ、こここれも仕事の電話だから、あの、よろしくね。」
会う?明らかに動揺した相手だが面会と言うのはどういう事なんだ?
「なぁおい、名前と住所、それから会って欲しい理由を吐け。うちは宅配サービス業じゃねーんだぞ。」
俺は彼に理由等を問う。
彼の言っている事が唐突過ぎるからだ。
「え、え~と、僕ジム。い、イーストゴースト16番街のアパートの666号室。理由は...」
「よし分かった、これから向かう。テメーの言ってる事は聞き取りづらくて仕方がねぇ。」
俺はそれだけ言って切った。
イーストゴーストからの客は多分今回が初めてだ。
うっし、ジミー君よォ、今から会いに行くぜ。
それにしても666とは不吉な数字だな。
[モロトフ]
朝5時に家を飛び出し、車を全速力でかっ飛ばし8時に本部に到着した。
320万という大金を突っ込んだ大型のブリーフケースをトランクから持ち出す。
久しぶりに見上げるノースゴーストギャング本部のビルはかなり高く、今にも倒れてきそうな感覚に襲われる。
ここは殆ど会社と言っても過言ではない。
まずここじゃギャングメンバーの事を社員と呼ぶからな。
俺は門の前で身分証を掲示し通らせてもらった。
事務所ボスというのはあくまで支部長という事にしかならずここではあまり役に立たない権力だ。
総長を前にしてしまえば大した権限を持たない。
○○の事務所ボスだから特別優遇接待とかそういうわけではない。
本部ホールに入ると外部からは遮断された異質な光景が広がる。
ここはどうやら次期総長がデザインした部屋らしく何とも変わった趣味をしている。
この部屋を利用する時は流石の俺も居心地に不満を見せるだろう。
いよいよ総長と面会をする、と言うところでブザーがなった。
ビクッと身を引く。
するとすぐさま後ろから社員達が走ってきて俺の身体を触り始めた。
いやらしい手つきで身体中を触るので反射的に殴りそうになるが、すぐに理由は分かった。
荷物検査だ。
恐らく先程のブザーは服の下からでも鉄を検知出来る金属探知機か何かがついていて、武器の有無を確かめるためのものだろう。
今回の場合俺の腕時計が引っかかり、没収された。
後々出入り口のほうで返されるからいいさ。
荷物検査が終わり、俺は多少緊張しながら総長のいる部屋の扉を開いた。
部屋は広く、ドーム状になっていてその中心に総長がいる。
俺は総長に近づくとその場に跪いた。
一応これがノースゴーストの礼儀だ。
変わってるが作法なら仕方ない、郷に入っては郷に従えって言うしな。
総長は70を超えた老人で頭は白髪で、目は片方を失っており、顔には痛々しい傷跡が残っている。
杖をこちらに向け、支部長の者だな?と念入りに確かめてきた。
俺は間髪要れず即答する。
「はい、その通りです。」
総長は相変わらずの鷹のような目つきで俺を睨み付ける。
「お前は何をしにきた?」
俺は伏せた頭をあげ、ブリーフケースを総長に向けて開く。
「実は前回の仕事中ほぼ全員の部下を失ってしまいまして...こちらに人材派遣をして頂きたいのです。ここに320万入っていますが、一人80万でどうでしょう?」
危うくニヤりと笑ってしまいそうになる口元を必死に押さえる。
これ程までに偉大な総長でも320万で簡単に釣れるだろうと思ったからだ。
だが俺の儚い期待は脆くも打ち破られた。
「馬鹿たれが、支部長たるもの部下のために死すのも同然。部下を守って死ぬのが義務じゃ。貴様は、貴様のために必死に健闘した部下を捨て、尚も部下を派遣しろだと?寝言は寝て言え!」
散々怒号を浴びせられた挙句、唾を吐かれ杖で引っ叩かれた。
俺は歯を食いしばり拳を握り締める。
必死に総長を殴らないように衝動を抑制した。
歯を食いしばり過ぎたのか歯茎からは血が流れ出す。
静かにブリーフケースを閉じ、退室した。
腹式呼吸方で何とか自我を保つ。
やはりマークの野郎は俺が一人で殺すしかない。
いいさ、俺一人で簡単に殺れる。
あの汚ぇ頭部を背骨ごと抜き取って、内蔵を全部食べて目玉を刳り貫いて揚げてやる!
野郎の血を全部啜ってやる!
帰宅途中の車内で俺は一人叫んでいた。




