外面的憎悪
[マーク]
夜11時、やはり郊外から家までは相当離れている。
帰ってくるのに4、5時間かかった。
酒入ってるのに車運転したせいでフラフラと運転しちまった。
挙句の果てにサツに止められて検査された。
で、アルコール反応が出たってんでムショにぶち込まれそうになって、奴等の頭を吹き飛ばした。
酔ってた俺はそれをヘラヘラ笑いながら証拠隠滅のために舐め取ったわけだ。
骨の隅々までしゃぶって内蔵も食べた。
まるで狂人だ。
クソ、帰宅直後からずっとトイレで吐き続けてる。
ゲーゲーと汚い音をたてながら。
....15分ほどしてようやくズキズキと痛む頭を押さえながらトイレを出る事に成功した。
水を一杯飲み、洗面所へと向かう。
顔を洗おうとしたんだ。
すると、俺はある違和感に気づいた。
目を凝らすが灯台下暗し、もっと大きな異変、変化だった。
鏡が二面鏡になっていたんだ。
取り替えた覚えはない。
俺はまだ酔っ払っているのかと思い実際に手で触れる。
右側の鏡には俺は写っていない、だが左側の鏡は俺を写さず後ろの壁だけを、俺の身体を透かして写していた。
それに何故かひび割れて血が所々に付着している。
そういえば今朝も似た体験したな、鏡が新品の物に取り替えられていた記憶がある。
初仕事の際の手紙といい、鏡といい、何だってんだ。
誰かが家に忍び込んでやってるとしか思えない。
その時、俺は不気味な視線を感じた。
だが辺りを見回すまでもなくその理由に気づく事が出来た。。
俺が鏡から離れ考え込んでいる最中も右側の鏡の中の俺はこっちを睨みつけてやがったんだ。
もし彼がテッドならば俺を睨む理由も分からない事はない。
あそこまでやったんだからな。
俺は堂々と、かつ慎重に話しかけた。
「お前は...テッドか?」
鏡の向こう側の俺は黙って首を横に振る。
「じゃあ誰なんだ?」
テッドの軽いジョークだろうと思い半ばニヤけながら聞いた。
返ってきたのは考えもしない言葉だった。
「俺はお前の憎悪の念。」
淡々と、その中に今にも暴発しそうな怒りを含めて彼は俺に言葉をぶつけた。
新手か、俺は硬直する。
確かに彼の声を聞いているとそんな感じもしなくもない。
まるで教師に叱られているような、そんな懐かしい感覚が俺を襲う。
俺はそんな懐古の中、名前を聞いた。
テッドの時と同様彼も名前を持っていると思ったんだ。
冷酷な声の反面、素直に答えてくれた。
「俺はヘート。」
何かの映画にでも出てきそうなふざけた名前だが、テッドと違い彼の名前には意味が込められているのか、とその場で一時的に関心を抱く。
それにしても無口な奴だ、こちらから話を持ち出さない限り返答しない。
お互い向き合ったまま5分が経過した、中高生の恋愛物語じゃねーんだぞ。
俺らオッサンだろ、オッサン。
こちとら洗顔してぇってのに...。
俺はため息をつき、質問を追加する。
「何でお前は俺に巣食う憎悪の念なんだ、ってか俺に何の憎悪がある?」
ヘートはまるで何も考えていないような、心のないような視線で俺を見つめながら喋る。
「俺達は憎悪でもあり罪でもある。苦しみでもあれば喜びでもある。」
厨ニ病か、と言おうとした瞬間少しヘートの言葉に突っかかる部分を発見した。
俺"達"?
奴等は集団なのか?じゃテッド、ヘートの他にまだ...?
「おい、お前らって一体....!」
鏡に手をつき、ヘートの方に向き直ると彼は煙のように消えていた。
やっぱり俺は酔っ払ってるのか。
それとも何か....いや、今日はもう考えるのはよそう。
もう疲れた。早く寝たいんだ。
疲労が一気に押し寄せ、足元が覚束なくなる。
目眩が俺の視覚や三半規管を狂わせ地球が回っている感覚に陥った。




