行き止まり
[デニス]
ようやく現場に到着したが、警察共はまだ勘付いてないみたいだ。
言ってしまえば自分も刑事なわけだが。
地面に手をつきゼイゼイと息を切らす。
心臓を抉るように左胸を右手で鷲掴みにし、痙攣を起こす太腿を叱咤した。
焼けるように熱くなった膝が悲鳴をあげている。
俺はアパートの自動ドアが開いた直後また走り出した。
エレベーターは呼ばずに階段を駆け上がる。
こっちの方が速い気がしたんだ。
だが結局は呼んだほうが速かった。
途中何度か止まりかけながらも汗を拭き、尽きる直前の気力を振り絞る。
その度に住民から通報されかけた。
5分もかけ、何とか8階につき、最初に侵入した窓からもう一度入ろうとした。
だが俺の身体は拒否反応を示した。
割れたガラス破片が手に突き刺さったんだ、血が滲み出る。
瞬間的に鋭い痛みが右腕を支配するが、そんな事では止まれない。
俺は力いっぱい踏ん張り、ガラスに手の平を押し付ける。
ガラス破片の尖った部分が肉にめり込んだ。
出血量が多くなる。
何とか向こう側に身体全体を放り込んだ頃には袖まで赤く染まっていた。
血がポタポタと床に垂れ、麻痺するようなビリビリとした痛みが心臓が鼓動を打つ度に身体を走る。
破片が体内に侵入していないだろうか、心配だったが今は証拠隠滅が先だ。
ハンカチで汗を拭き、床に垂れた血も持ち合わせた飲料水で洗い流す。
証拠隠滅に来たのに追加で証拠を作ってしまっては意味がない。
11時間前に殺した夫婦の死体は死後硬直を起こしており、血も固まっている。
恐らく銃はその近くに落ちているだろうと思い、探索を開始した。
どうやら床の上には落ちていないようで、机の下等も探した。
死体の裏も台所も玄関もまるで床全体を舐め回すように嗅ぎ回る。
目をひん剥き、傍から見たらまるで狂犬のようだったろう、もしくは変質者だ。
だが、どこにも無い。
もしかしたら本当は家にあるのか?
俺が見つけられなかっただけなのか?
焦りと怒りで背筋が凍る。
俺は怒り任せに椅子を壁に叩きつけ、その場に倒れ込む。
その時後ろから、部屋の深い暗闇の奥から声が聞こえた。
「刑事さん、犯罪者は犯行現場に戻ってくるんですよ。」
俺は反射的に勢い良く後ろを振り返った。
その声の主は顔だけが影に隠れていてよく見えなかったが、恐らくサムだろう。
手には俺の銃をさぞ誇らしげに握っている。
だがあの銃には弾薬が入っていない、その事は彼も承知だろう。
俺はサムにゆっくりと歩み寄り、野獣のような眼光で睨み付ける。
そして隙を見計らって台所に身を隠し、包丁を手に取る。
サムからはこちらが見えているはずだ。
俺が包丁を持っている事も知っているだろう。
だがサムは堂々とこちらに歩いてくる。
包丁の刃先が彼に向いているというのに。
しかし直後、俺は何故彼の心にはここまで余裕があるのか思い知らされる事になる。
「刑事さん、あなたを第一級殺人の容疑で逮捕します。」
暗闇の向こうからはサムに続いて5人程の警官が銃を持って歩いてくるのが見えた。
俺は彼らに包丁を向ける。
「く、来るな!」
手は震え、鼓動はより激しくなる。
一歩、また一歩と後ろに後退し続けた。
だが結局最後は壁に突き当たる。
行き止まりだ。
それはまた、俺の人生を暗示していた。
「そう...行き止まりさ。」
サム達に向けていた刃先を自分に向ける。
先端を見つめ続けた。
眺める目から涙が零れる。
一体どこで俺の人生は狂い始めた?
その言葉を頭で何度も復唱しながら喉に包丁を力の限り叩き付けた。
包丁は喉を貫通し左右の頚動脈を削り取った。
咽喉に大量の血が入り込み息をする事も困難になる。
鼻や口からも大量の血が出始め、噎せるように吐血した。
壁に寄りかかるように座り込み、刺さったままの包丁から手を離す。
サムはそんな俺を止める事もせずただただ傍観していた。
俺の目はそんな彼らを鬼の形相で睨みつけながら充血していき、光を失っていく。




