デジャヴ
[マーク]
気づくと朝になっていた。
チュンチュンと、鳥の囀りが俺を起こす。
クソ..."あの日"を思い出すな。
俺はふと鏡に目をやる。
目を疑ったね、鏡は新品同様に綺麗になっていて、まるで付け替えられたかのように磨かれていた。
血痕すら残っておらず、周囲はそのままだ。
昨日は疲れが溜まっていたのか、ホッと胸を撫で下ろす。
立ち上がり、大きく背伸びをする。
窓から差し込む日差しが早朝を知らせてくれた。
その窓の外では蜘蛛の巣に引っかかった蝶が頭からムシャムシャ食べられている。
これを見た時、何故か嫌な予感がした。
俺は洗面台の前に立ち、鏡を直視する。
写っていたのは寝起きで充血した目の俺の顔。
何の変哲もない、いつもの風景がそこにはあった。
「はぁ...いっそこの仕事から手を洗って普通の生活をしてみたいもんだぜ。」
つい心にもない事を漏らす。
まず俺にはそのような事は出来ないんだ。
強制的な仕事に従わなければ俺の大切なものが奪われていくし、そもそも殺人こそが俺の精神安定剤と化している。
「今更後は振り向けない、そうだろ?」
ふと鏡の中から話しかけられた気がした。
注意深く覗き込む、舐め回すように全体を。
だが、そこには俺しかいない。
テッドはもう殺した、昨晩あそこまでボコボコにやったじゃないか。
血のついた金鎚が床に転がっているし、あれは夢じゃないはずだ。
ああ、朝だというのに気持ち悪い。
まるで自分で自分を追い込んでいるようだ。
そこで俺は気分転換も兼ねて取りあえず朝食をとる事にした。
シリアルにミルクぶち込んで喰らいつく。
飽きが来ないようにある日はシリアル、ある日はハンバーガーとやってるが、こんな物しか食えない自分に腹が立った。
金を手に入れたというのに、その金を使う時間がないという皮肉付きでな。
一日を殺戮で開始し、殺戮で終わらせる。
こんな自分が情けなかった。
この苦しみの突破口を見つけなくては身が持たない。
頭を抱え込んでいると、電話が俺を呼んだ。
出たくない、そんな事はいつも思っている。
だが俺の足は勝手に電話の方へと向かい、腕が勝手に受話器を取る。
そして口が....喋り出す。
「もしもし?」
[モロトフ]
たった今部下に電話をかけさせた。
俺達のギャングとは別の機関の、特定の人間を装い指定の人物を襲わせる。
わざと声のトーンを変えて説得し、要求を飲ませる事に成功した。
馬鹿め、テメーの運命は俺の手中だってのに気づかねーか。
だが問題はこの後だ。
襲撃させる場所の丁度反対側50メートルに位置する家屋の屋上に部下を配置し、そこから双眼鏡でマークを監視させる。
反射光で気づかれなければいいが。
そして奴が中に入って行った直後に携帯で連絡をいれさせるんだ。
この連絡を入れた後が難しいんだ。
奴がまだ中で任務遂行中なのに入ってしまっては三つ巴になるかもしれない。
運良くマークが一人になったところを奇襲する必要がある。
銃撃戦になるか、肉弾戦になるかは状況次第だが....。
問題はタイミングと、素早さと、チームワークだ。
俺達なら出来るはずだ。
クソッ、携帯を握る手が手汗で滑る。




