狂信者
[マーク]
「ギャングの事務所ってこういうところなのか...。」
俺の目の前には巨大な高層ビルが聳え立っている。
ビルの外側にはギャングの文字はどこにも見当たらず、サウスゴースト株式会社とだけ書かれていた。
都市部ではよく見られるデザインのビルだが、やけに異様な雰囲気を漂わせている。
俺は血まみれのブリーフケースを握り締めて、恐らくこのギャングの中でも一番下っ端であろう男に誘導され事務所内に入っていった。
エレベーターでボスのいるという階へと向かう。
エレベーター内には大きな窓がついていて、そこから景色を一望する事が出来た。
確かに良い景色だ、だがそれは外観だけだ。
中身は完全に腐ってやがる。
この街で無事に生きて行く秘訣は何かと聞かれたら、誰とも関らない事だと答える。
じゃあ絡まれたらどうするか?
そんなもん決まってる、振りかかる火の粉は払うまでだ。
...10階につき、ドアが開いた。
奥には古そうな部屋があり、そこによく会議に使うような折りたたみ机が設置されている。
そしてそれを取り囲むようにマフィアのような服装をした男達が座っていた。
少しタバコの臭いがするその部屋へ入って行くと、後ろからいきなりデカい手に肩を掴まれた。
「よう、マークか、お前に電話で依頼したのは俺様だ!」
振り向くと、俺より30センチ程身長の高い大柄の男が立っていて、見上げるのが精一杯だった。
スキンヘッドで、髭が男らしさを強調している。
まぁ、男らしいというよりゴツイだけだが。
「金は持ってきただろうな?」
依頼者の癖に偉そうな態度をとりやがって、内心そう思っていた。
だがここで反発しても面倒なだけだし、流石に俺もこいつらとやりあったら苦戦するはずだ。
「ああ、ここに入ってる。」
俺は大人しくブリーフケースの金具を彼の目の前で外した。
大量の紙幣の束に唸る声が聞こえる。
彼はそれをごっそり取ると、まるで我が子のように抱きかかえた。
ここから7割持って行かれるのか...結構俺の取り分少なくなりそうだな。
60万か70万、そこら辺だろう。
まぁ、普通に職探すよりよっぽどマシだろ。
[デニス]
ここのところ殺人事件が多発している。
俺がやった他に、それも大量だ。
今週だけで20件は発生している。
それは同時期に別々の区域で発生した事もあるために、もう一人のマスクの男とは考えにくい。
だとすると狂信的な犯罪者か何かなのか?
恐らくどこかで道を踏み外してしまったマスクの大量殺人鬼の副産物か何かだろうと俺は思う。
刑事としてこういう事件はたくさん見てきた。
サムも同意見だ。
人間の心理がどうたらこうたら言っているが、彼の話では今回の殺人事件件数増加の根本的原因は所謂"反社会性人格障害"、もしくは"サイコパス"なのだという。
もしくは、今まで人を殺したくて堪らなかったが、警察が怖いので抑えていたという人間が今回あの二人組みが出て来て、あれだけの人数殺しておきながら捕まらなかったというニュースを見て自分もやってしまおうという考えをしてしまったのかもしれない。
俺のノートはどんどん黒くなっていく。
だがその手も止まった。
俺の脳味噌は難しい話を聞くと途端に眠くなってしまう設計なのだ。