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異世界から来た人格  作者: 狼狐
第二章:交差する狂気
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捨て犬

[ダニエル]

外が騒がしい。

誰かが叫び、また誰かが壁を叩いている。

そして次の大きな物音で...叫び声が呻き声に変わった。

音は徐々に俺のいる部屋へと近づいてくる。

この前潰したクラブの奴等が報復に来たのか?

それとも俺が大量の金を持ち歩いている事を聞きつけた奴が奪いに来た?

悪寒が背筋を凍らせる。

酔っ払いでもいるのか、俺はそう思いこむ事で平静を保っていた。

そうでもしないと不安で叫んでしまいそうだからだ。

俺の横でバストを強調していた女もようやく異常に気づいたようだ。

彼女は俺と目を合わせた後、「確認してくる」と言い、渋々立ち上がった。

歩く時も、やけに尻を強調してくる。

扉の前に立ち、もう一度こちらを見た。

自分がメイドか何かだとでも思い込んでいるのだろうか。

そして彼女がドアノブに手をかけた瞬間、扉が物凄い速度でこちら側に開いた。

扉に思い切り顔面を直撃させた彼女は鼻から大量の血を噴き、吹き飛ぶように仰向けに倒れた。

恐らく鼻の骨をやられたのだろう。

彼女はすぐに立ち上がったが、壁に手をつき、すぐにしゃがみこんだ。

一体誰だ、誰が来た?

扉の向こうに視線を移すと、不気味なマスクを被った筋肉質な男が金属バットを持って立ち尽くしている。

身体中に血を被っていて、その姿は悪魔と鬼が混ざったような恐怖を醸し出していた。

金属バットは先の方が少しへこんでいる。

まさかこれ一本でクラブ全体に張り巡らされた警備網を壊滅させたとでもいうのか?

流石にあり得ない、現実的じゃない。

マスクの下からは奴の目がこちらを睨んでいる。

俺はその目を直視出来なかった、死神に見つめられている気がしたんだ。

「い、一体誰なんだお前は!顔を見せろ!」

俺がいくら叫んでも返事はないし周囲に変化が訪れるわけでもない。

動揺を見透かされたか?

奴は先程鼻の骨を破壊した彼女の長い髪を鷲掴みにし、右手に持ったバットで身体中を袋叩きにし始めた。

殴られた箇所は青く腫れあがり、上体を投打した時は肋骨が何本か折れる音がした。

彼女は必死で抵抗するが、体格の違いがありすぎた。

命乞いを聞き入れたり、手を止めるなんて事は一切無く、力任せに殴り続けている。

やがて抵抗も小さくなり、声も出なくなる。

部屋に響き渡るのは金属と肉のぶつかり合う鈍い音だけだ。

奴は彼女が死んだ事を確かめると、その場に投げ捨てた、まるでゴミを廃棄するように。

俺は恐怖で硬直していて、彼女が死ぬまでの一部始終を呆然と眺める事しか出来なかった。

奴がこちらを向き、次はお前だと言わんばかりにバットの先端をこちらに向けてくるまで反応出来なかった。

だがブリーフケースの中には銃がある、取り出してしまえばこちらのものだ。

俺はケースを足元から拾い上げ、焦って言う事を聞かない手で膝の上まで持ち上げる。

深呼吸などしている暇はないと、震える手が教えてくれた。

パチッ、パチッと手汗で滑る金具を開いていく。

中を見ると札束の上に刻印入りの44口径が置かれている。

それを急いで掴み、安全装置を外して奴に銃口を向けた。

奴はバットを胸の高さまで持ち上げ、直立している。

俺は勝ち誇り、照準を奴の頭から離さずに別れの言葉を告げた。

「くたばれ」ってな。

そして引き金を引いたんだ。

衝撃が腕全体を伝わり身体中に響く。

椅子に座っていても倒れそうなほどの反動だ。

手が熱い。

だが、これで俺は奴を殺したんだ。

直後、奴を見て笑いが込み上げてきた。

歓喜の笑い?違う、目の前で引き起こされた理不尽に対する絶望の笑いだ。

奴は倒れなかったんだ。

バットを腰の高さまで下ろすと、何故奴が倒れなかったのかが分かった。

金属部分に巨大な穴が開いていた。

つまり、奴はバットで銃弾を防いだっていうわけだ。

すぐに2発目をぶち込もうとしたが、銃弾は底をつきていた。

あの忌々しいマスクの下で、笑う声が聞こえた気がした。


[マーク]

彼は現実が受け入れられないようだ。

目は白目を向き、不快な笑い声をあげている。

まるで目の前に突きつけられた死を拒むように。

俺は使い物にならなくなったバットを捨て、彼の胸倉を掴んだ。

苦しそうにもがくが、離れる事は出来ない。

血走った目で俺の腕を非力な手で叩き、「金ならやる、だから助けてくれ」と頼む。

だが俺は追撃するように、現実を叩きつける。

「この殺しの依頼...頼んだの誰か分かるか?」

彼は俺の言っている事が理解出来ないようで、子供のような眼差しで俺を見つめる。

正直これは俺も言うのは可哀相だと思ったが、どうせもうすぐ死ぬんだ。

「依頼者はお前のボスだ。」

彼の目からは涙が溢れる。

嘘だ、嘘だと連呼するが、最後は大人しくなった。

親に捨てられた子の運命は虚しいものだ。

俺は今も彼の最後の言葉を覚えている。

殺してくれ、と頼んでいた。


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