親友
[ダニエル]
...ギャングはそう甘いもんじゃねぇ。
変に悪ぶるもんでもねぇ。
サツに追われ、血まみれになりながら必死に生きる。
そういうもんだ。
俺の父ちゃんは俺が5歳の頃にギャング関連のトラブルに巻き込まれて死んだ。
だから俺も後を継いだ。
そして俺はやっとの事でボスの右腕にまでのし上がったんだ。
ボスは俺の事をいつも頼りにしてくれていて、俺はそれを誇りに思う。
そんなある日、ボスから呼び出しが入った。
「...なんでしょうか?」
ボスは今日も女達に囲まれながら麻薬を吸っている。
クソビッチ共め、馴れ馴れしくしやがって。
「よーう、ダニエル、頼みがあるんだ、いつもと同じようなもんだけど、今日はちとキツい。」
俺はその言葉に反応した。
キツい頼みだからこそ俺が活躍する事が出来る。
ここで一気にボスの座に追いつく事が出来るかもしれない。
俺は勿論要求を飲んだ。
「勿論、何でもおっしゃって下さい。」
ボスは喜んで内容を話す。
子供のように無邪気なボスの目は、残虐性も兼ね備えている。
「最近、俺らより勢力をあげているギャングがいるって話はしたな?」
恐らくノースゴーストかイーストゴーストの奴等だろう。
どちらかは分からなかったが、俺は頭を縦に振った。
「そいつらの駆除を頼みたい、ノースゴースト11番街だ。」
「....分かりました。」
ノースゴーストか。
奴等は最近勢力を拡大しているだけでなく、国外にまで渡っている。
かなり規模はデカい。
ここで俺が止めなければ俺達の存在が危うい。
要求を承諾した俺はボスからギャングトレードマークの刻印入りの銃を受け取り、現場へ向かう事にした。
サツが介入してこなければいいが。
[マーク]
クソッ...クソッ!
俺は真夜中の帰り道を車でかっ飛ばしながら嘆いた。
エリック....何故エリックがあの場にいた!?
言葉に出来ない悲しみと後悔の念が俺を襲う。
あれからずっと苦悶に歪むエリックの顔が俺の脳裏から離れない。
奴は充血した眼で俺を睨み、「こんなはずではない」と連呼していた。
すまない...すまないエリック!
夜空の月が俺を監視しているように感じた。
俺は車内で一人泣き叫んだ。
どしゃ降りの雨が俺を慰める。
そして、時間と共に俺自身を呪う束縛の念も解けてきた。
だが尚も子供のように泣き続ける。
死んだ者は戻ってこないと分かっていながらも、泣き止む事は出来なかった。
皮肉なもんだよな、自分と関係性のない人間をいくら殺そうがこれっぽっちも悲しむ事なんてなかったのに、友人や身内が死んだりするとここまで悲しむんだから。
悪天候の中、俺は気晴らしにコンビニでも寄ろうと思い、車を停めた。
顔にベットリと血がついていたが今日は運よくハロウィーンの日だ、多少不審に思われるだろうが通報とまではいかないだろう。
ヨロヨロと車から降りた俺は傘をさす気にすらならなかった。
バケツをひっくり返したような雨を身体中で体感しながらビショビショになりながら入店する。
...コンビニの中は何故か血塗れだった。
それどころか、店員は独り言を呟いているし、客は一人もいない。
俺の頭がおかしくなったのか?それとも周りがおかしいのか?
ああ、分かった、ハロウィーンの仮装だな!
...こんな大掛かりな仮装する店あるか?
膨れ上がった疑問を押さえつけながら、俺はサンドイッチとビールを取り、レジへ向かった。
さっきからブツブツと独り言を言う店員に面と向かって話されるのは少々不安だ。
俺は金と、サンドイッチとビールをかなり動揺しながら渡した。
店員はせっせとその二つをビニール袋につめ、俺に手渡す。
受け取る際も注意を怠らなかった。
なんだ、案外普通じゃないか、ビックリして損した。
そう思い店を出ようとした直後、奴は急に真顔になり、俺の目を覗き込むように凝視しながら大声で喋り出した。
恐らく内容は先程から呟いていた独り言と変わらないだろうが、妙に気迫があり、俺はまるで金縛りにあったかのようにその場から一歩も動けなくなった。
「目を覚ませ、これは現実で起きている事じゃない!」
だとしたら夢だとでもいうのだろうか?
俺は頬を抓った。
痛みが顔の右半分を支配する。
だとしたら恐らくこれは夢じゃねぇ。
じゃあこいつは一体何が言いたいんだ?
酔っ払っているのか......?