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異世界から来た人格  作者: 狼狐
第二章:交差する狂気
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6階は...というよりどうやら6階も貨物室のようだ。

薄汚れていて閉鎖的な空間だった。

蜘蛛の糸がそこら中に張り巡らされていて、床はゴキブリだらけだ。

こんなとこにいたら病気になっちまいそうだ。

俺はまず人間狩りを始める前に獲物を捜す。

だが、この部屋には誰一人として、人間の気配すら感じ取れない。

ダンボールの裏も、荷物の反対側も、臭いトイレまで調べた。

それなのに、不気味なほど静かだ。

「誰もいないのか?期待外れだ。」

大声で挑発的な態度を取ってみるが、物音一つしない。

鼠が足元を這い回る。

もしかして罠か?サツがもう俺に追いついた?

しかし、そのはずはない。

窓からホテル前の道路を見下ろすが車一つ見当たらないし、人っ子ひとりいやしない。

だとしたら、まさか従業員は全員ジャンキー(麻薬中毒者)なのか!?

何なんだこの違法とブラックの塊みたいなクソラブホテルは?

俺は疲労で動くの止めようとする足を叱咤して先程のエレベーターへ向かう。

ここで俺はある違和感に気づいた、エレベーターの表示がおかしい。

徐々に上がってきている!

誰だ?この階に来ようとしているのか?サツか?

焦った俺は後ろポケットからジャックナイフを取り出し、ダンボール脇に隠れる。

手汗で滑って上手く刃を出せない。

クソッこんな時に上手く対応できないようじゃダメだ。

プロの殺し屋は瞬時にその場に対応できるようにならなければいけない。

それなのに俺ときたら....クソッ!

直後、ピンポンとエレベーターの音がなり、現実が俺を一気に引き戻した。

自動ドアがウイーンと音をたてて開く。

一体誰だ?誰が来た?

今すぐにでも激昂した声で怒鳴りつけて、その首を掻っ切ってしまいたいが、耐えた。

ダンボールの陰からゆっくりと奴を覗く。

奴は細身だった、俺が殴りかかれば一撃でぶっ倒してしまえそうなほど。

顔にはマスクをはめていた。

恐らく同僚か殺し屋だ。

俺はハメられていたんだろうか。

手には...銃!

やはりこいつはハナっから俺を殺す気でここに来やがったんだ。

それとも誰かに仕向けられたかだ。

どっちだっていい、奴をどう殺すか考えなければ。

こっちはナイフだ、それも奴と俺の間には結構スペースが開いている。

到底、歯が立たないだろう。

向かっていった所で全弾ぶち込まれて終わりだ。

どうするか考えながら、ナイフを自分の持ちやすい位置に持ち帰る。

床を眺めたり、自分の血塗れた手のひらを眺めたりしながら。

すると、一瞬だがいいアイディアが俺の頭をよぎった。

いや、考えてみれば最悪なプランだが俺に出来る事は恐らくこの状況下ではこれしかない。

やるしかなかったんだ。

俺は薄暗い足元から鉄の破片のような物を拾い上げ、俺と奴を挟んだ向こう側の壁に投げた。

一つや二つじゃ足りないような気がして、何度もジャラジャラと投げる。

明らかに不自然だが。

いくつか投げた破片の内一つが上手く窓に直撃し、コツン、といい音を立て、奴の注意はそちらに向いた。

俺は今まで多数の難題に立ち向かって来たが、これはその中で最も緊迫したものかもしれない。

不意に過去を思い出す。

若い頃、ユーゴスラビア紛争でもこのような事があった。

俺はゲリラ兵として送り込まれた歩兵の一人だったんだ。

俺の小隊は敵部隊の機銃掃討によりほぼ全滅、俺は一人自軍のキャンプへの帰り道を敵を殺しながら進んでいた。

何日も...何日も、食料は支給されたレーションと、森の動物だけだ。

そんな中俺は静謐とした森の中で40人以上をナイフ一本で殺し続けた。

丁度、こんな風にな。

俺は目の前で戸惑う男の脇腹にナイフの刃を刺しこんだ。

鮮やかな血液が飛び出る。

不意打ちを受けた男は俺の腹を蹴とばしながら振り向く。

そして俺目掛けて発砲する。

正確には数えていないが確か2発....だが、それは全部俺には当たらなかった。

腹を刺された事で上手く引き金が引けないのだろうか?

奴の脳内麻薬に助けられた気がして少々癪だ。

更に動く、俺は奴の首目掛けて突進した。

男は立て続けに銃を撃とうとするが、俺には止まったように見える。

俺はジャックナイフを男の胸に叩き込んだ。

そのまま後方の柱に押し付ける。

そしてそのままジャックナイフを90度程捻った。

もう片方の手で奴の顔を殴りつける。

俺は勝ち誇った。

奴は飛び出しそうな目玉で俺を睨みつけ、苦痛に顔を歪ませる。

俺はそのナイフを何度も刺しこんだ、同じ場所に何度も。

その度に骨が邪魔をし、ゴッゴッと音を出す。

男は咳き込む、どうやら吐血したようだ。

身体は重心を支えられなくなり、ガクッとその場に跪く。

そこに蹴りを叩き込んだ。

奴は自分の思い通りにバランスが取れなくなり、後ろ向きに倒れた。

次第に目が虚ろになり、息もしなくなった。

...どうやら死んだようだ。

俺は満面の笑みで倒れた死体の上に跨る。

こいつの死に顔が見てみたくなったんだ。

だが、それは失敗だったと思う。

俺は男のマスクを掴み、思い切り取り上げた。

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