表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

雲雀の煙

作者: USB
掲載日:2015/03/19

 苦無(くない)より(まろ)び出る、その何かを締め付ける狂おしい予期は、どうも茅葺(かやぶき)の上を走る忍びの隠しに携帯されているようだった。まだ日光が液体の如く粘り、広がらず、奥の深い森林を跨ごうとはしていない。しかし丁度頃合いは、隠密(おんみつ)にとっての無様(ぶざま)、即ち人体のざわめきを奪うのに役立っていた。忍びは物言わず屋根の上を指広げるように渡り、景色と同化する。

 奉公は役目を従えて忠の柱が立つ。いかな忍びとて道理の働かぬ闇では影を動かせぬ。この度は、昨年の大冷害を漏れなくこうむった村の証が、正常なる働きを為しているかどうかの確認のため、留まり(しの)んでいる訳である。とりもなおさず、危急の用件に間違いはなかった。

 しかし忍びの張り付いている土の肥えた一軒家など、まさしく裕福な(てい)で、玄関を右に回った風呂釜のそばには、幾匹かの畜生を飼育していた痕跡が見て取れる。庭を囲った柵の類は(しゃ)に塗り回されており、雪隠(せっちん)にしろ納屋(なや)にしろよく注意が払われている。間取りについては、暖がとれる十分以上の間隔があった。ただ、家屋より先幾ばくか歩調を許せば、ついに芽を閉じたままの麦が無気力に泥土へと横たわっていた。その数は目を凝らして観ても、地平線を埋め尽くすほどのくたばり方だ。実に、春の陽気は静かである。


「今年こそはと、祈願した種もみも、このありさまでは、やはりどうしようもない」

「役場に行った者はどうした」

「俺が行った。やはり他のところもてんで駄目だったようで、順番だと」

「そうか」


壁を伝い振動していたその冷めた言葉もふと途切れる。意味のない風が吹き、つまらない獣のさえずりが聞こえてくる。


「もう終わりだ。襲うしかない。」

「何をだ。襲うったって、どこもかしこも潰れているだろう。」

「ここにない物なら何でもよい。飢饉中にも松竹(まつ・たけ)あるだろうよ。こうなれば、戻ることはできぬ。ささ、急ぐが吉だ」


糸の切れた人形どもは、ようやく立ち上がってきた(あけぼの)にふさわしい、確信と祈りを胸に仕舞い込んで、音をたてはじめた。


もう愛の歌などは糞と共に巣に置き去りにしたままである。だからなのか、羽をはやした幾百もの(いらか)達は、空に悠然(ゆうぜん)と煙をくゆらせていた。そしてやはり、中には既に忍びが入り込んでいた。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ