雲雀の煙
苦無より転び出る、その何かを締め付ける狂おしい予期は、どうも茅葺の上を走る忍びの隠しに携帯されているようだった。まだ日光が液体の如く粘り、広がらず、奥の深い森林を跨ごうとはしていない。しかし丁度頃合いは、隠密にとっての無様、即ち人体のざわめきを奪うのに役立っていた。忍びは物言わず屋根の上を指広げるように渡り、景色と同化する。
奉公は役目を従えて忠の柱が立つ。いかな忍びとて道理の働かぬ闇では影を動かせぬ。この度は、昨年の大冷害を漏れなくこうむった村の証が、正常なる働きを為しているかどうかの確認のため、留まり忍んでいる訳である。とりもなおさず、危急の用件に間違いはなかった。
しかし忍びの張り付いている土の肥えた一軒家など、まさしく裕福な態で、玄関を右に回った風呂釜のそばには、幾匹かの畜生を飼育していた痕跡が見て取れる。庭を囲った柵の類は奢に塗り回されており、雪隠にしろ納屋にしろよく注意が払われている。間取りについては、暖がとれる十分以上の間隔があった。ただ、家屋より先幾ばくか歩調を許せば、ついに芽を閉じたままの麦が無気力に泥土へと横たわっていた。その数は目を凝らして観ても、地平線を埋め尽くすほどのくたばり方だ。実に、春の陽気は静かである。
「今年こそはと、祈願した種もみも、このありさまでは、やはりどうしようもない」
「役場に行った者はどうした」
「俺が行った。やはり他のところもてんで駄目だったようで、順番だと」
「そうか」
壁を伝い振動していたその冷めた言葉もふと途切れる。意味のない風が吹き、つまらない獣のさえずりが聞こえてくる。
「もう終わりだ。襲うしかない。」
「何をだ。襲うったって、どこもかしこも潰れているだろう。」
「ここにない物なら何でもよい。飢饉中にも松竹あるだろうよ。こうなれば、戻ることはできぬ。ささ、急ぐが吉だ」
糸の切れた人形どもは、ようやく立ち上がってきた曙にふさわしい、確信と祈りを胸に仕舞い込んで、音をたてはじめた。
もう愛の歌などは糞と共に巣に置き去りにしたままである。だからなのか、羽をはやした幾百もの甍達は、空に悠然と煙をくゆらせていた。そしてやはり、中には既に忍びが入り込んでいた。




