村での攻防戦
村に着くと、人たちが逃げ惑っていました。
たくさんの家が焼けています。
「ふむ……これは惨事だな」
村の上まで来たグラースは言いました。
「この村に出向くのは、何十年ぶりになるだろう」
「グラース……盗賊をやっつけてよ」
「よかろう。久々に使命を全うできると言うものだ」
ユマを地面に下ろし、グラースは飛んで行きます。
「ユマ!どこに行ってたんだ!」
お父さんとお母さんが、ユマを見つけて近づいてきます。
「グラースの所に行ってたの。村を護ってくれるって」
「じゃあ……あれが氷竜?」
「グラースは強いの。だから大丈夫だよ!」
ユマがにこりと笑います。
「村のことは、あの氷竜にまかせよう」
「そうね。ユマ、あなたはここにいなさい」
そう言うと、お父さんとお母さんは村へと走っていきました。
しばらくすると、たくさんの村人が集まってきます。
グラースと盗賊が戦っている間に、まだ火の手のない村の端へと逃れてきたようです。
――どうしよう……わたし
こんな時も、ユマは少し不安になります。
すると……
「君が、氷竜を呼んできてくれたのかい?」
誰かがそう言いました。
村の長です。
「うん……」
「そうか!君が」
すると長は、ユマの近くで屈み頭を下げました。
「この通り。すまんかった。我々は君たちを誤解していたようだ」
許してくれ。と、長はユマに言いました。
「ここに逃げてくる途中、氷竜は申されたのだ。君たちが『魔女の末裔』ではないことを」
村の人たち全員が、ユマに頭を下げます。
「わたしは……みんなと違うことが嫌なだけ。みんなのことが嫌いなわけじゃないよ」
その時ユマは、みんなに向かって言いました。
「お願い。グラースを応援して!」
「大方……片付いたか」
グラースは、小さくため息をつきます。
その時、人わき大きな人間が、脇に何かを抱えてやって来ます。
「結晶は……いただいた……」
残っていた盗賊が、わずかにざわめきはじめます。
彼らの頭が現れたのです。
「貴様!それは『冬の結晶』。あの洞窟からどうやって」
「俺達の力を見くびったな。村の金品は諦めらるが、これだけは……」
大きな結晶を抱えて、盗賊の頭は言いました。
「これを使って、俺達は冬を操る。氷河の時代を再来させることもできる!」
すると、結晶が光りはじめます。
それと同時に真っ白な結晶は、くすんで灰色へと色を変えていきました。
村が、大きく揺れます。
村人たちは、グラースのもとへ駆けつけました。
「災厄の始まりだ!」
結晶をもった人間が、そう言っていました。
「やめろぉぉ!」
グラースが、その鋭い爪を盗賊の頭に差し向けました。
すると、盗賊の頭は『冬の結晶』を地面に落としました。
「冬の結晶」は……粉々に割れてしまいました。