外界からの侵入者
ユマが村へ帰ると、村はなぜかざわついていました。
あまりに騒いでいるので、ユマは思わず雑貨屋へと駆け込んで行きました。
「すごく騒がしいね。どうしてなの?」
ユマが雑貨屋のおばさんに聞きました。
「聞きたいかい?」
「うん」
するとおばさんは、しゃがんでユマの手を握りました。
「お父さんとお母さんが、帰って来たよ」
「ほっ……ほんと?」
ユマの顔が、嬉しそうに赤くなります。
「本当だよ。さぁ、先に家で待っていると言っていたから、今日は早く帰りなさい」
「うん!」
ユマの両親が、村の外から帰って来ました。
両親の顔を見るのは何年ぶりでしょうか。
「お父さん!お母さん!」
家にいた両親に、ユマは勢いよく抱きつきました。
「ただいま。心配かけたね……ユマ」
お母さんが、笑顔でユマを受けとめます。
「大きくなったね。元気にしていたか?」
お父さんも、嬉しそうに近づいてきます。
「うん!」
「でもね、ユマ……悪いけど今は喜べないわ」
急に、お母さんが真剣な顔つきになりました。
「今日は、村に危険を知らせるために戻ってきたのよ」
「村に……危険?」
それは、この村に危険が迫っていることを示していました。
「外界の盗賊が、『冬の結晶』に気づいたんだ」
お父さんが言います。
「『冬の結晶』は、外に持ち出してはいけない物
なんだ。だから、こんな秘境のような村にある」
「元々は、村に住む氷竜が護ってたはずなんだけど……ここ数年は、姿さえも見せていない」
もしかすれば、死んでいるかもしれない。
お母さんはそう言いました。
「違うよ!グラースは生きているよ!」
ユマは両親に訴えました。
ちゃんと、グラースは生きていると。
「その、ひょうりゅうってグラースの事でしょ?わたし知ってるよ」
するとユマは、もう一度グラースのいる洞窟へ行こうとします。
「どこに行くの!?」
「グラースに会いに行くの。お願いすれば、きっと村も護ってくれるよ」
「待ってユマ!」
その時、村の端で何かが爆発したような音がしました。
とても大きな音です。
「まずい……盗賊たちが来たんだ」
両親が、慌てて外に出て行きます。
「今から村へ行くから、ユマはここで隠れていなさい。外に出てはいけないからね!」
そう言うと、ユマの両親は村へ行ってしまいました。
さっきの爆発は火事になり、どんどん家に燃え広がって行きます。
――どうしよう……
もうずいぶんと隠れています。
村での騒ぎは、はずれのこの家まで聞こえてきます。
――グラースは、村も護ってくれるかな?
少し不安でしたが、ユマはグラースに村を護るように頼みに行きました。
途中雪が深く、何度も転びそうになりながらも、グラースのいる洞窟に向かっていきました。
「グラース!村が……村がたいへんなの!」
夜に姿を見せたユマに驚きながら、グラースは静かに理由を聞きました。
「こんな夜に、どうしたと言うのだ?」
「村が……外界の盗賊に襲われているの」
「外界の?」
「お父さんとお母さんが言うには、『冬の結晶』を探してるって」
するとグラースは、洞窟の奥を見ました。
ユマは奥にある宝石のようなものを見つけました。
「もしかしてあれが……『冬の結晶』?」
グラースが頷きました。
あれが「冬の結晶」なのです。
「あれは、世界の冬を制御するもの。何も知らね人間が手にして良いものではないのだよ」
「あれが無くなれば、どうなるの?」
「あの結晶が無くなれば、世界に災厄が訪れる」
その時のグラースとユマの会話を、洞窟の入口で聞いている男がいました。