氷竜との約束
ユマがグラースと出会って、1ヶ月程が経ちました。
あれからグラースは元気を取り戻し、毎日のように空を飛んでいます。
「もうすっかり元気だね」
にこにこと笑顔を見せながら、ユマがグラースに話しかけます。
「村で、グラースの事が書かれてる本を見つけたの」
するとユマは、かばんから1冊の本を取りだします。
「グラースは、すごい竜なんだね」
「なぜそう思うのだ?」
「だって、村を助けたって書いてあるもん」
「まだそんな記述が残っていたのか」
グラースはユマを包むように横になりました。
「もう、何百年も前の話だ」
「何百年?グラースは一体いくつなの?」
「そうだな……もう500年は生きてるよ」
自分が想像もできない程の年月を、グラースは生きている。
ユマはどうやら、かなり驚いているようす。
「一つ、良いことを教えてやろう」
「なに?」
「お前は『魔女の末裔』などではない。教えては外界からきた人間の子孫だ」
「……しそん?」
首を傾げるユマ。
まだよくわかっていないよう。
「そう。お前は魔女とは全く関係ない」
「じゃあどうして、村のみんなはわたしを嫌うの?」
その時グラースは、ユマの本音を聴いたような気がしました。
「あの村は、外界から隔離されている。自分たちと違う人間を嫌うのも無理はない」
ユマは、少し悲しそうな顔をしました。
やはり、みんなと違うことに変わりはないのですから。
「大丈夫。私がいるではないか」
グラースが言います。
「ユマは私を助けた。今度は私がユマを助ける番だ」
そう言うとグラースは笑いました。
この言葉で、ユマは気持ちが軽くなったような感覚になりました。
「ありがとう。グラース」
「私が守ってやる。約束だ」
その時ふと外を見ると、夕日が傾きかけていました。
早く村に戻らないと。
「もうすぐ夜だ。今日はもう戻りなさい」
「うん」
ユマは洞窟の外へ駆けていきました。
しかし、途中で足を止めて振り向きました。
「グラース……さっきのこと、きっとだよ?」
「ああ。きっとだ」
少し名残惜しそうに、ユマは村へ帰って行きます。
グラースは、洞窟の奥を見つめています。
よく見るとそこに、何かが浮いています。
白く光る、まるで宝石のようなもの。
「何か……嫌な予感がする。お前はどう思う……冬の結晶よ」
グラースの言う「嫌な予感」とは、一体何なのでしょうか。
その時村は、大きくざわついていました。