竜と出会った日
洞窟のなかはとても暗く、何も見えません。
ユマは壁を伝って歩いていきます。
しばらくすると、奥に光が見えます。
どうやら太陽の光のようです。
――出口かな?
そう思いながら進んでいくと、光が出口ではないとわかりました。
洞窟のなかに空洞があったのです。
――こんな所があったんだ
光が近づいてきます。
そして空洞の入口に立った時、ユマはたいへんな物を見てしまったのです。
「なに……これ!?」
そこにいたのは、大きな竜でした。
全身青い鱗に覆われ、頭に角を生やし、背中には大きな翼があります。
手足には鋭い爪もある竜です。
しかし、今は眠っています。
「りゅ……竜がいる……なんで?」
それは、ユマには信じられない事でした。
それもそうです。
竜なんて、お話でしか聞いたことがないのですから。
その時、竜が小さく唸り声をあげました。
ユマはとっさに、近くの岩に隠れます。
「……そこにいるのは人間か?」
竜がしゃべりました。
その口は、大きくてたくさんの牙が生えています。
「怖がらなくてよい。私は人間を襲わない」
するとユマは、岩影からひょっこり顔を出しました。
「本当に襲わない?」
まだ怯えているユマに、竜はやさしく話します。
「私はこの村を護る竜。おまえを襲ったりしないよ」
それを聞いたユマは、岩影から出て竜のそばへ歩いていきました。
そして、竜の顔に手を触れました。
鱗がひんやりと冷たく感じます。
「おまえは、村の者か?」
竜がユマに話しかけます。
「村のはずれに住んでる……」
すると竜は、少しだけ頭を上げました。
その顔は一段と大きく見えます。
ユマの目の前に、竜の目が見えます。
でも、なぜか元気がないようです。
「おまえは、村から嫌われているな?」
「なんでわかったの」
「その眼の色は、外界の人間と同じだからな」
また、竜は頭を下ろしました。
やっぱり、どこか辛そうな顔をしています。
「大丈夫……?」
竜は低く唸ると、目を閉じてしまいました。
「ここ数日、何も食べていないからな……」
するとユマは持っていた袋を竜に差しだしました。
「これ……食べる?」
「いいのか?」
「うん。食べて!」
量はまったく足りませんでしたが、竜はユマに貰ったパンを食べました。
金色の日射しの中、ユマは目をさましました。
いつのまにか眠ってしまったようです。
冬の洞窟の中なのに、体はとても温かでした。
竜が、ユマを包むように眠っています。
鱗は竜の体温を伝えて、寒い洞窟でも平気です。
洞窟の天井にある穴から、夕陽が見えます。
もうすぐ夜。早く村に帰らなくてはなりません。
「今日はもう、帰るね」
洞窟を出ようとしたとき、竜がユマに言いました。
「もう帰るのか?」
ユマはうなずくと、笑ってこう言いました。
「明日も来ていい……?」