悲恋歌――魔女に恋した竜――
番外編。
グラースがユマに話した昔話です。
一年中冬のような寒さの続く村。
そこに、一人の女がいた。
名をフローラと言う。
彼女は村の外から来た者で、ほかの村人とは違い、碧眼だった。
それに夜空のようなローブを纏い、竜の形をした帽子を被っていた彼女は、「魔女」と呼ばれることもあった。
しかし、面倒見の良い性格から、多くの村人に好かれていた。
そんなある日。
村に、傷ついた一匹の氷竜が落ちてきた。
青く美しい鱗の大きな氷竜。
ひどく傷ついているのか、その場から動こうとはしなかった。
村人たちは氷竜を恐れた。
村に危害を与えないだろうか?
人間を食したりしないだろうか?
真実を聞くため、フローラは氷竜に近づいた。
「貴方は、村を壊したりしませんか?」
「……私は争いを好まない」
「貴方は、人を食べたりしませんか?」
「……私は動物を食さない」
この会話をきっかけに、フローラと氷竜は共に過ごすことが多くなった。
最初は傷の看病から。
氷竜の傷が癒えれば、互いに話し合ったりした。
やがて氷竜は村に住み着き、村のために外敵と戦うようになった。
村人も氷竜を恐れなくなり、氷竜を村の守護者とするようになった。
ある日、氷竜は不思議な感覚を覚えた。
フローラを見ていると、自分の心臓が早鐘のように高鳴るのだ。
フローラにそれを聞くと、「それは恋よ」と答えた。
「私は、フローラが好きなのか?」
「貴方がそう思っているなら」
「私なんかが、お前を愛していいのか?」
「ええ。すごく嬉しい」
そう言うと、フローラは頬を赤らめた。
しかし、幸せの日々は、長くは続かなかった。
村の宝だと言う「冬の結晶」が、壊れかけていると言うのだ。
その結晶が壊れれば、かつて生命を脅かした氷河時代が再来すると言う。
村は大騒ぎになった。
それもそうだ。
結晶を直すためには、村人が一人犠牲にならなくてはならないのだから。
しかし、誰も犠牲になろうとはしなかった。
皆、死ぬことが恐いのだろう。
その時、一人の女が手をあげた。
それは魔女と呼ばれる女。
そう。フローラだった。
彼女は、その身をもって世界を護ろうとした。
しかし氷竜は、それが許せなかった。
なぜ、フローラが犠牲にならねばならないのか。
なぜ、ほかの方法を探そうとしないのか。
「ありがとう……」
自分のために、必死になる氷竜を見て。
フローラはそう言った。
「私は、フローラを愛している。それでも犠牲になると言うのか?」
「ええ。愛する貴方のためにも、私は犠牲となります」
そう言い残し、フローラは冬の結晶となった。
こうして、世界は災厄から逃れられたのだ。
しかし、氷竜は深い悲しみを背負う事となる。
やがてフローラは「悪い魔女」として伝承され、守護者と言われた氷竜は忘れ去られた。
今より遠く、過去のお話。
魔女に恋した竜のお話。
初めての童話で、色々おかしな所もあったかもしれませんが……。
ユマとグラース。そしてグラースの過去についての物語も終わりです。
ありがとうございました。




